第36話「一撃」
月も星もなく、
か
吹き
いま、一匹の忍者カメレオンの舌で綱引きをしている、天然の忍者と養殖の忍者――どちらかが死ぬにはぴったりの夜だった。
「……『笑わないのか?』だと? そりゃ、当然! 養殖者風情が、たまたま初手を防いだくらいで、笑えぬ冗談をほざいてくれたからな」
「なら、代わりにおれが笑ってやろう。自慢の忍法を破られながら強がるその無様、面白いぞ」
「きさまごとき相手に、忍法は不要……」
『忍法
五十郎は察した。
「けちな盗みには
「……なに?」
「おまえだろ? 連続窃盗事件の犯人は。
アサニンギルドの天然者が、制止を振り切って祇園に挑んだ挙句、返り討ちに遭い、びびって逃げたばかりに抜け忍の
落ちぶれたもんだな?」
天然者を
「きさまの命を
天然者が必勝を
あの日、『あの路地』、あのときと同じだ――五十郎を除けば!
「あっ!?」
五十郎は空中で半回転、天地逆さになるや、飛来した舌すべてを両手で掴んだ! そのままさらに回転すると、
「お、おまえたち!」
掴んだ舌を引っ張って、その持ち主たる忍者カメレオンどもを天然者から
五十郎はさらに回転! 彼が掴んだままの忍者カメレオンたちも回転!
一回転、二回転、三回転、四回転! たちまち五十郎は回転する
そのハンマーと化した忍者カメレオンの塊が、天然者へと横殴りに叩きつけられる!
「うぬ!?」
天然者は
それらに忍んで降る者がある。
げにも、空から
「笑い草! 観念して
五十郎は、いまだ立ち上がれずにいる天然者にとどめを刺すべく、間合いを詰めた。
そのときである。
天然者の陰から五十郎の足に向かって、重力の二六四倍の加速度で舌が伸びてきた。まだ動ける忍者カメレオンがいたのだ。
五十郎はサイドステップで、難なく
これで終わりだ!
……それは、声にならなかった。
というのも、その瞬間、五十郎の後頭部に衝撃が訪れていたからだ。
前のめりにバランスを崩しながら、五十郎は見た。視界の端で、大物を釣り上げたときの釣り竿と釣り糸みたいにしなる、舌を……その先が捕まえている、忍者カメレオンを!
先ほどの舌は、五十郎の足を狙って伸ばされたように見えたが、そうではなかった! 彼の後ろに転がっていた、忍者カメレオンに向かって伸ばされたのだ!
そして、その舌先に
無論、致命傷ではない。
「『笑わないのか?』とか抜かしてくれたな!?」
しかし致命的な隙だ!
天然者が、二匹の忍者カメレオンをスターティングブロック代わりにしてクラウチングスタートを決め、一瞬で距離を詰める! 立ち上がれずにいるように見えたのもまた、ブラフだったのだ!
天然者は、倒れかかっている五十郎の目のまえで右の手刀を振り上げると、
「やっと笑えたわ! あはははは!」
笑いながら、五十郎の
すべてがスローモーションに見えるなか、五十郎は
これが、勝負勘が
実戦では、刻一刻と状況は変化する。
練習とはちがう。
以前のおれなら、さっき伸ばされた舌の延長線上に、忍者カメレオンが横たわっていたことに気づけたかもしれない。こんなピンチに
……だが、いまのおれならば!
五十郎は、右の手のひらを天然者の右手刀の側面に当て、左に
全然浅い。無理矢理だったから、当然だ。
しかし、わずかに軌道を
天然者の右手刀が、五十郎の左肩に命中する。
好スタートの勢いが乗った、あまりにも重い一撃。
それゆえに、五十郎の体は回転扉みたいに半回転した。
即ちいま、天然者に五十郎の背が向く。
「は?」
天然者はその背に、
港湾道路が
遅れて、海面に無数の波紋が生じるさまは、拍手のようだった――
では、カメレオンの天然者はどこへ行ったのか?
……もう、どこにもいなかった。
倉庫の壁に点々と貼り付いた肉色の染みだけが、彼の
主の死を悟った忍者カメレオンたちが、一匹、また一匹と入水して、葬送曲を奏でていた。
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