第14話 機長への報告
諸悪の根元に気付き、それを倒せたこと、さらには海面の敵にも気付けて、痛快な手法で対処できたこと。それらを合わせて、ようやく心の平静を取り戻せたことを確信するジン。今度こそ、後処理ともいえる尋問と拘留、警戒の対応にかかれるようになった。
「あぁ、ジェイムズ? この男、見てわかったように、ハイジャック犯の監視役でもあり、実行させる側の黒幕みたいだ。がっちり拘束して、できる限りの尋問をしといてくれないか?」
「それはもちろんだが、コイツも不思議な力、異能? というのか? それを使われたら、オレには太刀打ちできないぞ?」
目の前で見た異能の恐さを思い知るジェイムズは、そこから生まれる不安を吐露する。
「あぁ、尋問中はオレが横に控えているから大丈夫。それにコイツはおそらく静電気を操る能力の持ち主で、その増幅のために義足のバッテリーから電気を供給してたみたいだから義足ごと取り外しておいた。だから大したことはできないと思うが、金属は近付けないようにな」
ジンの言葉で尋問する不安は氷解するが、まだ別の不安が残るジェイムズ。
「あぁ、それなら尋問中は大丈夫そうだが、その後はどうする? 拘束していても何かをしでかさないか、不安になるよ」
「そうだな。能力者というのは厄介だから、手足は特別厳重に拘束したうえでその上に特別にシールド製の全身拘束棺をマコトに作ってもらおう。死んだわけじゃないが専用棺桶だな?」
これまでもそうだが、マコト活用のジンの言葉に意表を突かれるジェイムズ。しかし、そのすごさも既に体感し、半分納得済だが、説明を引き出したくて、投げ掛ける言葉で返す。
「え? マコちゃんに作ってもらうのか?」
「あぁ、マコトはかなり器用なんだ。たぶん身動きできないくらい身体にぴったりのを作ってくれるんじゃないかな? ついでに言えば、水を浸しておけば電気系の力は使えなくなると思うし、たとえ使えたとしてもマコトのシールドを越えるような力は使えないと思うぞ?」
ほぅほぅ、っと一言一言に納得と加えるアイデアに目を光らせながら頷きを返すジェイムズ。
「おぉ、それはいい。ふやけても死ぬわけじゃないし、全身包まれるなら寒くもないだろう」
一息ついて、ジェイムズは続ける。
「それにしてもジンさん、マコちゃんはスゴいんだな? まだ幼いはずなのに、大人顔負けな頭脳や立ち居振る舞いはもちろん、強さ、というかあの圧巻のパワー。おまけにジンさん自体が高いレベルで全幅の信頼を寄せているところを見てると、その凄さもより際立ってくるよ」
また、記憶を振り返りながら続ける。悪辣ギャング、ベラドンナ商会壊滅のエピソードだ。
「初めて会ったときのジンさんの言葉、大勢のチンピラ相手にマコちゃんが『余裕で何とかなるくらい強い』といったあの言葉は嘘でも贔屓目でもなく、むしろかなり控えめに言ってたんだな? そう思えば、今はもう、感服以外の何者でもないよ」
「あぁ、まぁ、あのときの段階では詳しく言うわけにもいかなかったからな。それより、まだ脳天気な最中かもしれないが、機長に報告しに行くか? 面倒だけど、コイツだけは連れて行くしかないな」
そう言ってジンは、拘束もしてるが、気を失ったままの男の後ろで縛られた手首の辺りを持ち、身体を浮かせた軽い状態にしたうえで軽々と持ち上げ、移動を始める。
「そ、そうだな。それ、重くないのか?」
「え? あぁ、力で浮かしているからな」
「そんなこともできるのか?」
何気ない動作に力の行使を織り交ぜるジン。ジェイムズは目を丸くするばかりだ。
「あぁ、まぁ、ゆっくり慣れていってくれ。隠す必要が無くなって気が楽になったよ」
いちいち突っ込むことは早々に諦めるジェイムズ。
「あぁ、そうさせてもらうよ」
2人と拘束1名はコックピットの扉を開ける。中は脳天気な雰囲気かと思いきや、不安そうな神妙な面持ちでコックピットの外の状況を気にしてる素振りのチーフパーサーのケイトが出迎える。
「あ、あのぅ、スゴい音がしたり、空調が激しく稼働していて、そのぉ、何か大変なことが起きているのかと思っていましたが、みなさんはご無事なのでしょうか?」
「ん? あ、あぁ、そうか。そういえばこちら側にはシールド張らなかったから音はスゴかったかもしれないな。でも終わったよ。詳しくは機長に話すから、そこで一緒に聞いて欲しい」
ジンの、終わったよ、の一言に敏感に反応するケイト。不安たっぷりな表情が緩み、嬉しさの笑みとともに、キラキラ混じりの瞳に変わったかと思えば、直ぐに潤みを帯び始めた。
「うぅ、良かったです。ズズッ。少々お待ちを」
ケイトは機長に取り次ぐために、中に入り、乱した感情を隠すように俯きながら、冷静を保つようにトーンを落として機長に告げる。
「うぅ、き、機長、ジンさんが戻られました。ススン」
「ど、どうした? あ、いや、早く中へ入ってもらってくれ」
俯くケイトの様子に、不安を感じずにはいられず問いかけたい機長だが、まずはジンからの報告を優先することにした。
「はい」
ケイトはドアに向き直り、入室を促す。
「お入りください」
どうやら副操縦士が回復しているようで、そちらに操縦は任せて、手放しで半身をひねり、上半身は完全に後方に向き直る機長。状況が不安で仕方のない表情で機長は尋ねた。
「客室で何かが起こっていたようなのだが、まずは皆さん無事ですか?」
「はい無事です。犯人と私達が多少のケガを負いましたが、今は癒やしも終わっています」
機長は胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。
「ふぅっ、良かった。それでは何が起こっていたのか順を追って説明していただけますか?」
「はい。それではまず……」
そこからジンは、ことの経緯を語り始める。爆弾騒動終結の後、違和感から監視役の存在を懸念し、客室全体の再確認を始めたこと、挙動不審者を3名見つけ、そのうちの1名が監視役で、ハイジャック実行犯を始末しようと埋込爆弾を起爆したこと、途中からその殺害行動抑止のために監視役との戦闘が始まったこと、監視役は異能者であり、サイコキネシスのような軌道をねじ曲げた針の攻撃のいくつかを避けきれず、ジンが毒にやられたこと、ジンの危機に怒り心頭のマコトの活躍で監視役を倒し拘束したことなどの概要を簡潔に話した。
「テロ組織とは、本当に執拗で怖いヤツラだな。それにしても、何度も何度も窮地を救ってくれて、本当に、ほんとーっにありがとう!」
心からの感謝の意を告げる機長。深々と頭を下げる。それを押し止めるように返すジン。
「いえ、私自身はもちろん、家族も友人も、何の
「いや、そういうわけにはいかないよ。私達にだって感謝させてくれ。今はまだ、混乱を招かぬよう知らせずに済ませたいが、少なくとも着陸前には起きていたことの概要くらいは伝えるべきだと思っている。ただあなたの場合、素性や不思議な力は知られたくはないし、理解も得にくいでしょうから、核心は伏せるし、そこはわきまえているつもりだ。安心してくれ」
「そ、そうですか。私達は何の名声も欲していないし、ソフィアを狙う脅威を何とかできるまでは、その存在すら知られたくはないので、そこさえ守られるのなら……」
「あぁ、忘れてはおらぬよ。任せてくれ」
「わかりました。お任せします」
意識の共有が図れたことを確認した機長は、そのほかの被害状況を尋ねる。
「ともかく、人の被害は無いと。航空機の損壊はなかったですか? 空調が異常な音を……」
「あぁ、ひとつだけ、犯人、あぁ、この男なんですが、こいつの攻撃を逸らすときに、鋭利な武器が壁に突き刺さってしまいました」
「それで空気が漏れて空調がおかしくな……」
「いや、おそらくその影響はないかと。突き刺さり、外まで貫通しているかどうかは確認して欲しいのですが、それによる漏れよりは、マコトが力を発動したときの空気の激しい変動で気圧も連動したための空調変化だと思います」
「おぉ、そうか、片桐くん、ちょっと見てきてくれないか? 何かが壁に刺さってるらしいから、このままで大丈夫か、何かの手当てが必要かを」
「わかりました。
「あぁ、頼んだ」
「はい」
紗栄子はパタパタと駆けていった。
「あと、その武器が突き刺さったらしき音は、こちらには大きな音はもちろんだが、機体を伝わる振動も大きかったらしく、客室でも若干だが、乗客から不安の声が漏れているらしい。これは片桐くんの報告で問題なければ、心配ないことをアナウンスする必要があるな」
紗栄子が息を切らしながら戻ってきた。
「はぁはぁ、戻りました。貫通しているかはわかりませんが、空気の漏れはなさそうですし、機構を傷つけている様子も無いようなので、着陸までこのままで良いかと思います」
「そうか、わかった。ありがとう。あとでアナウンスと、その前にパーサーにも異常がないことを周知しておいてくれ。戦いやハイジャック、テロの件は伏せた上でな?」
「わ、わかりました」
機長はジン達に向き直る。気を引き締め、真剣な面持ちで、改めてジンに尋ねる。
「聞きたいことは、詳細を含めれば山ほどあるが、今度こそ、今抱える懸念は解消しているという認識で間違いないかな?」
真顔で受け止めたジンだが、少し頬を緩め、ゆっくりと柔らかい口調で話し始める。
「そうですね。懸念はありません。さすがにもうないでしょうが、引き続き警戒は怠らないようにしましょう。ただ、これはテロ組織絡みなので、地上からの干渉可能な範囲では最大限の注意が必要かもしれません。どうしても消したい人物が搭乗しているとしたら、着陸前に撃墜する、というプランまで考えている可能性はあります」
「あぁ、そうかもしれないな。しかし、もしもヤツらがそれほどまでに固執するとしたら、どれほどの重要人物が乗っているというのか?」
「それはわかりませんが、うーん。地上側で調べてもらう必要があるか……」
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