卒業
いよいよ卒業式。高校生活も今日で最後だ。
登校すると、後輩たちが生徒玄関の内側で待っていて「卒業おめでとうございます!」と言いながら、左胸に小さなピンク色の花を付けてくれた。
教室に辿り着くまでに、すれ違う先生たちや名前も知らない後輩たちから、沢山の「卒業おめでとうございます」の言葉を貰って、お祝いでお腹がいっぱいになっていた。
卒業式も卒業証書を貰うときは、やはり緊張してしまったけど、それも無事に終わった。
「翔吾、この後どうする?」
裕太が声をかけてきた。
「最後に美術部に寄って、それから…」
「高校生最後の日!みんなとカラオケ行かね?」
「わかった。家に遅くなるって連絡してくるよ。あと、じぃちゃんにも。」
「オッケィ!30分後に校門な。」
「りょーかい。」
一度教室で裕太と別れてから、僕は美術室へ向かった。ドアを開けると、懐かしい絵の具の匂いがする。棚には学祭の時に展示した『ミニボトルシップ』と、日付と僕の名前が刻まれたプレートが一緒に飾られていた。誰かが自作してくれたのだろう。僕は携帯電話を取り出し、カメラに収めた。
最後に校内を一周観てまわった。初めてこの学校へ訪れたのは、中学3年の時のオープンスクールだった。その後は受験日。僕は忘れ物が無いように持ち物を確認しすぎて、結局忘れ物をしてしまった。
どうしよう…と頭の中が真っ白になった時、引率の先生に『この時点で負け組だな』と言われ、更になにも考えられなくなった。
そんな時に、ここの先生が優しい物言いで、忘れたものを貸してくれたんだっけ。あの時は受験に失敗したと思ったな…。母さんもこれ以上無いくらいに激怒して、中学校へ抗議の電話したんだ。
そして、合格発表の日は『不合格』を確認しに来たつもりだった。なのに、玄関に貼り出した合格者の中、まさかの『僕の受験番号』を見つけた時は…「うおぉぉぉおお」と、震えて声にならない声をあげてしまった。母さんも泣いて喜んでくれたっけ。
僕を迎えてくれた学校。この学校に入学して良かった。三年間ありがとうございました!
「おーい!翔吾、もう行くぞ。」
遠くで裕太が呼んでいる。
「今行くよ!」
僕は荷物を
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