初めてのお客様

 じぃちゃんのお店を開けて2日目。

 今日は土曜日。

 この店は火曜日が定休日。普段の開店は11時から、閉店は20時になっている。

 けど僕は学校があるので、平日は17時からしか開店出来ない。表にある営業時間の看板を変更した。

「出来るメニューが少ないな〜。」

 得意なのはコーヒーだけだ。すでに13時を回ったけど誰も来ない。うん、お客さんもきっとほぼ来ないに等しいだろう!

 カラン…

 ドアの昔ながらな鈴の音と共に、お客さんが入ってきた。緊張のあまり喉がゴクリとする。きっと顔もひきつった不気味な笑顔に違いない。

 入ってきたのは、お洒落なハンチング帽を被った紳士だった。

「いらっしゃいま…」言いかけた時に、更に後ろから太った中年のおじさんが押しのけるように入ってきて、カウンター席にドカッと座った。

 呆気に取られたものの、僕は慌てて「いらっしゃいませ。」と挨拶をした。

「いつもの!」

 太った中年のおじさんが注文をする。

 ヤバい…いつものが、わからない。じぃちゃんの常連客なのだろうか。

 僕が説明をすると、太った中年のおじさんはますます不機嫌になっていった。

 すると最初に入ってきたお客さんが「君の『』でお願いしよう。貴方あなたもそれで良いですよね?」と勧めてくれた。

(この人は僕の事を知っている…)

 確かに僕は今、一番お勧めしたいコーヒーがあるんだ。それを飲んで貰いたい。


 その後…

 僕がコーヒー鑑定士だと知っていた紳士は、澤村さわむらさん。それを聞いて隣でズッコケたおじさんは牧野まきのさん。

 澤村さんは2人分のコーヒー代を支払った。

「いやいやいやいや、美味しいコーヒーだったし、俺も嫌な事があったの忘れちまったな。ここは俺が支払うよ。」と牧野さんが言い、よくあるお支払いのやり取りがあった。

「では、今日は私が。次回はご馳走して下さい。」そして澤村さんは僕に向き直り、「また次のコーヒーも期待してるよ。」と残して去った。

「あの人、って…いつ来るんだ?さりげなく俺を常連にしやがったな。」

 そう言って笑いながら、牧野さんも帰って行った。


 き、緊張した…

 お店を開ける事に集中して、忘れてたけど。

 僕は…ちょっぴり自閉症なんだ。

 けど、僕が淹れたコーヒーを誰かに飲んでもらうのはとても嬉しい!

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