天に選ばれた君と地獄に選ばれた俺

天倉ましろ

第1話 地獄へようこそ

 二千二十三年四月七日俺は高校生になった。そして今高校生になって初めての春休みだ。


高校一年これといって何も頑張らなかった。頑張りたいと思えるようなものが思いつかなかった。


成績も後ろから数えた方が早い。問題児ってわけではないが、よくいる、真面目そうなのに勉強できないやつ。俺はそれだ。


趣味もアニメ鑑賞などいわゆる陰キャが好むような趣味ばかり。友達は三人しかいない。


春休みということで宿題が出ており、春休みが始まって一日目の昼頃宿題を今から始めようというところだ。


「名前何回も書くのだるいな」


一度は経験あるだろう、何回も冊子の裏に名前を書いたこと。


冊子の裏に【七瀬 凪】と何冊も書いた。なんとも『な』が多い名前なんだろうか。


窓を開けているので春っぽい心地よい風、暖かい日差しが俺を眠気に誘う。


「まあ、春休みは一ヶ月ぐらいあるし明日からやればいいか」


そのまま俺は眠りについた。


––––三時間後––––


 俺は目が覚め気づいたら午後三時になっていた。


喉が渇きリビングに飲み物をとりに行き、テレビをつけソファーでくつろいだ。


両親は共働きなので夜遅くまで帰って来ない。兄弟もいない。なので、ここは今独り占めできる空間だ。


テレビを見ていると驚くべきニュースが舞い込んできた。


「こちら宮崎県宮崎市です。今人々が妖狐などのさまざまな怪物、いや妖怪に襲われています。どうか皆さん助けt・・・」


そこで映像が途切れてしまった。


ニュースによると今宮崎県は侵入禁止区域に急遽設定され、隣接する県の県境には即座にバリケードを作ったり、『陰陽師』と呼ばれる人達が事態に対処しているらしい。


まず妖怪やら陰陽師が現実に存在していることが驚きだし、俺の住んでいる愛知県まで妖怪が来たらと思うと怖くなった。


だが俺はどうせなんとかなるだろと軽く考えてもいて、他人事でもあった。


カーテンを少し開いて外の様子を伺うと、いつもより人通りや車通りが多い。


みんなニュースを見て怖くなって逃げるように日本の上の方に行っているのだろうか。


(日本中を巡ってみたいな)


なんとなくそう思った。一人で旅行したことがない。行ったことのある県も少ない。自分探しで行ってみるのもいいなと思った。


そんなしょうもないことを考えていると母さんが帰ってきた。


「凪、いますぐ荷造りして。今すぐ静岡のおばあちゃん家に行くわよ」


母方のおばあちゃん家だ。母さんはかなり焦っていた。理由をきても怒り気味で教えてくれない。


多分おばあちゃん家に今すぐ行く理由はさっき外を見た時に外にいた人と同じだろう。母さんもさっきのニュースを知って怖くなったのだ。あとはおばあちゃん達も心配なのだろう。


そして俺と母さんは新幹線で名古屋駅から静岡にある三島駅という駅まで向かった。新幹線の中は満席だ。みんな考えることはやっぱり俺の予想通り、一緒らしい。


周りの乗客の顔をよく見ると、不安と恐怖に駆られている表情をしている人ばかりだ。


(俺達も大丈夫なのかな・・・)


周りの人を見ているとその不安などが俺にも伝染し始める。


約一時間半新幹線に乗り続け、三島駅という駅についた。


おばあちゃん家は沼津というところにある。なので、三島駅から沼津駅に在来線で向かった。


 沼津駅に着くとそこには驚愕する光景が広がっていた。


「なんだこれは、街が燃えている。しかもあれは妖怪、それにあの人達は噂の陰陽師?」


俺達は初めて見る妖怪や陰陽師に戸惑いが隠せなかった。それどころか街はキャンプファイヤーのように燃え上がり、住民はほとんど駅に避難したり、駅の近くのショッピングモールに避難したりしている。


妖怪には多分陰陽師である人達が奇妙な技や妖怪を使って戦っている。沼津駅周辺には結界みたいなものがあるのが肉眼でも見える。


沼津駅に結界があるため駅にはダメージはなく、そのため誰も他の駅員は気づかず、電車も正常に動かしていたのだろう。さらにこの街だけ電波も電気も止まっている。そのせいでスマホも使い物にならない。


駅では避難民で溢れている。まるでコミケのようだ。


「これじゃあお母さんがどこにいるか、まさかもう。」


母さんは現実を見て絶望して膝をついた。


「きぁー!はぁはぁ。助けてー、だれk。」


目の前で陰陽師が助けきれず結界の外で女性が大型の妖怪に食われるのを目にした。


周りを見ると俺達と同じように他県から来て絶望している人、ここの住民で悲しんでいる人、赤ちゃんが泣き喚く様子。風は生暖かく、とても暑い。


(これを地獄と呼ばずになんと呼ぶんだ、生きている方が辛い)


俺もメンタルが限りなくマイナスになり、目の前の地獄を呆然と見ていた。

  

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