第32話
すみれさんとソラを飼う時は何も躊躇いませんでした。しかしりんを飼う時はかなり両親と私は悩みました。
それはソラが病気で急死した辛さと後悔がトラウマになったからです。お犬様や猫殿などペットを飼われていらっしゃる方々には必ずやって来るお別れ。
しかも人間より遥かに短い間しか一緒に過ごせません。こればっかりはどんなに手を尽くしても抗えない事です。
そんな中すみれさんの場合は大往生での老衰でしたしやれるだけの事は全部やれたと悲しかったけれど
心は穏やかでした。しかしソラはあまりにも呆気なく病気という形でたった一人で病院で逝ってしまいました。残された両親や私は「もっとたくさん一緒に過ごせるはずだった」「もっとやってあげる事があったはずだった」「もっと…」と『はず』ばかりが心に残りペットロスになりました。
幸い私はカウンセリングを受けて立ち直るのが早かったですが、両親は長い間引きずっていましたね。
それから両親と私は「もう絶対に何も飼わない!」と決めていました。あんな悲しい思いはたくさんだったからです。後悔と心残りばかりのお別れは辛すぎます。
…と思っていた四年後、りんが我が家にやって来ました。もう飼うまいと心に決めたはずだったのですが何故かまた飼う事になったお犬様。
片手に乗るくらいの小さな小さな子犬を誰が保健所にやれますか?何にも悪くない小さい生き物を簡単に保健所に連れて行けますか?
半ば脅されたと思わなくも無い出会いでしたがこれも何かの縁でしょう。我が家にやって来て元気に走り回っているりんを見るとつくづくそう思います。
今はもうすみれさんのように大往生してくれれば良いですね。その為にやれるだけの事はやります。
ソラのような最後はもうゴメンですからね。
そんな家族の愛情を知ってか知らずか、りんは今日も元気に走り回っています。ちょっと身体が弱い所もありますが元気に郵便屋さんのバイクに吠えまくっていますよ。
そしてすみれさんやソラの時とは違う父が誰よりも溺愛してます。「おいっ、どうした父ちゃん!?」とちょっと引いてしまうくらい溺愛してますね。
その父の愛情にもりんは全身で応えてます。なかなか良いコンビだと思いますが、母と姉と私から見ると明らかにりんは父を自分より下と思っています。
そもそもりんの中で誰が飼い主なのか分かりません。皆んな友達だと思っている節があります。
…姉は敵視してますがね。
小さい頃にあれだけ嫌な事をされていたらそりゃ懐かないはずですよ。今だって嫌がるりんにちょっかいをかけてますからね。「やめとけ」という周りの忠告なんて無視して嫌がるりんを無理矢理抱っこしようとしてますから。いつになったらお犬様の接し方を学んでくれるのでしょうか…。
生き物を飼うには「好き」や「可愛い」だけでは飼えません。最後まで面倒をみる責任とたくさんのお金が必要です。現実的な話ですよ。
生き物を飼うって大変なんです。躾やトイレの世話など人間と同じ労力が要ります。
ご飯あげとけば良いっていう問題ではありません。
可愛がるだけではいけません。
そんな事を思いながらりんの香ばしい肉球の匂いを嗅ぎながら思います。
すみれさんとソラは日向の匂いがしましたが、りんはポップコーンみたいな香ばしい匂いがします。
そして今日もりんは元気に父を下僕扱いしながら我が家で過ごしています。
そんな毎日が長く続くようにと家族に見守られながら…
犬の肉球は香ばしい 立花万葉 @sumire303
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