第8話 感謝
昔の出来事を、父親の事を、つらつらと気付けば雨音に話していた。知られたくない過去のはずなのにどうしてだろう。
彼女になら心置きなく話せてしまう。いや、話しても良いという気持ちになる。
それはきっと雨音の裏表のない性格が、太陽の様な笑顔が、僕にそうさせるのかも知れない。
ぐすん。ひっく。
雨音はいつの間にか目を赤らめて大粒の涙を頬に流していた。
「どうしたの雨音?」
「ごめんなさい」
謝り始めた彼女に僕の理解が追いつかないでいた。
「辛い過去が原因でヘッドホンをし始めたって聞いて……
私、無責任な事を言ってしまったなって。
音を楽しもう、だなんて……」
その言葉に僕は少し意地悪をして答えた。
「確かに。強引だな〜とは思ったよ」
「颯斗く〜ん」ぐすん。
しょげる雨音を尻目に話しを続けた。
「ただ、ただね。
雨音には感謝してるんだ」
僕が音を楽しむようになってこれて居たのは、疑いようもなく雨音のお陰だ。
無音だった僕の世界を素敵な音色達で飾り付けをしてくれた雨音。
照れくさい部分もあり雨音には端折って説明したけれど、僕は感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとう。音の世界を教えてくれて。楽しませてくれて。一緒に居てくれて」
雨音の顔が一瞬固まったように見えた。どうしたのだろう?
「え、ちょっと待って、嬉しんだけど……一つ言っていい?」
真剣な顔に僕は少し戸惑いつつウンと頷いた。
「颯斗くん死なないよね?」
死ぬ?どうしてこの流れから?死ぬなんて話し一言もしてないけどと思いつつ「死なないよ」と笑い飛ばした。
「なんか死ぬ前の人が言うような台詞言ったからさ、そういうのフラグが立つって言うじゃんか〜やめてよね〜」鼻水を啜りつつおどけている。
少し前まではいつ死んでもいいかなと思っていた、けど今は死にたくない。一緒に居たいと思える人がいる。
僕はそんな思いを胸にしまい込み、少し音痴な雨音とのカラオケを目一杯楽しんだ。
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