凡人VRMMO(仮)

アルアール(?)

初のVRMMORPG

プロローグ1

〔主人公視点〕


時代は3XXX年。人類は数回の世界大戦と数十回の大災害を乗り越えて、生存圏を地球から宇宙へと広げていた。

科学技術は飛躍に進歩し、考えるだけで全てができるようになり、人は体を動かす必要が無くなった。

技術革新により生活必需品は購入する必要がなくなったのと、お金は嗜好品にのみ使われるようになったことで、世界の労働人口は激減した時代、それが現代だ。


そんな10世紀ほど昔のSF映画のような世界で、時代を逆行するように山奥で田舎暮らしをしているのが、

私こと「木佐 有華(きさありか)」だ。


私は今時珍しく「EG日本支部 自然安全保護省 保護課」というとこに所属して仕事をしている。(EGとは地球政府の略称)名前の通り日本の自然環境を保護する仕事なので住居が山奥にあり、インターネットなどは繋がっているが付近には大自然以外何も無いため、現代人が住んだら3日で発狂するようなとこだ。


そんなとこで住んでいる私の趣味は"読書"だ。ジャンルは色々あるが、全て物語である。もちろん漫画やアニメなども見るが、私は小説を好んでいる。漫画やアニメと違って絵はないが、だからこそ文字が存在感をもち、本の中に引き込んで行く感覚が非常に素晴らしく、物語の登場人物の想いと迫力が伝わってくるというものだ。

職場兼自宅のここには大量の小説が置かれており、それで暇を潰しながら生活している。


仙人みたいな生活を続けていたある日、私は欲しい物が出来た。


その名も「フルダイブ装置」というもので、日本企業により作られた「フルダイブ技術」という最新技術により作りだされたものだ。(以前からダイブ装置はあったが、不完全だった)


機能について簡単に言えば「2つ目の現実世界」を作り出し、その世界でアバターというものを動かしていろいろなことができる、という物。


最初は全く興味がなかったのだが、とあるフルダイブゲームの広告を見たことで考えが変わった。


「Oll Life Online」


ジャンルはよくあるMMORPGなのだが、他と違い異常なまでに自由度が高いようなのだ。


CMにはプレイヤーが戦闘をする場面もあれば、鍛冶をしたり、薬を作ったり、服を作ったりしていて、さらに配達員の真似事や盗賊のようなことをしている者もいた。


その光景が私の何かにクリーンヒットした。そう、どうしてもそのゲームをやってみたくなったのだ。


が、


現実は何時の時代も残酷なもので、既に初期の抽選は終わったようで、せめて装置だけでも買おうとしたが、最新技術ということで私の貯金を全てはたいても1割ほど足りない。


「はあぁぁあ……」


途方に暮れた私は、ふて寝した





翌朝。


私は電話の音で起こされた。本社からかと思い、寝起きの体に鞭打って電話に出た。


「はいしもしもー」


「も、もしもしお姉ちゃん」


相手は私の妹の「木佐 琴音」だった。大のゲーム好きで、私とは違いステーションに住んでいる。


「どしたの?琴音が電話してくるなんて」


「…!えっとね、一緒に「Oll Life Online」やってみない?」


「………え?」


琴音は「そ、そうだよね、「Oll Life Online」って言うのはVRゲームの1つで~」と説明をしていたが、私には聞こえず、私は自然にその言葉を口にしていた。


「___やる。やらせてほしい」


「え…?ほ、本当に?

えと、じゃあカセットと、ダイブ装置とかは持ってないよね…それも送っとく!明日には着くと思うから待っててね!ぜったい一緒にやろうね!」


「うん、もちろん」


そう口にした後、何やら呻き声のようなものが聞こえて電話が切れた。


私は夢うつつのような気持ちでしばらくボーっとしていたが、謎の感情が沸き上がり笑みを浮かべるのを止められなかった。

今まで感じたこともなかった、諦めていたものが叶う感覚!どうして笑わずにいられるだろうか!

私は最高の笑顔を浮かべながら身支度をし始めた。




〔妹・木佐琴音視点〕


わたしはお姉ちゃんの言葉に呻いたような音を出してしまいすぐに電話を切ってしまった。

さっきの会話から分かるように、私はお姉ちゃんと話すことにあまり慣れていない。昔、まだ私が小学生のある時まではとても仲が良かった。目の前にあるかのように写し出される楽しかった思い出。


でもそのある時からお姉ちゃんと話すとどうしても詰まってしまうようになったのだ。



私がこうなったのは12年前の11歳の頃。

私は学校でいじめられていた。(今思えば弄りのようなものだけどね)周りに相談も出来ず、でも1人で抵抗も出来なかった。そんなことが2ヶ月程続いたある時。いつも通り私がいじめられていて、俯いて泣き出しそうになるのを我慢していた。


「何してるの?」


お姉ちゃんの声が聞こえた。私ではなく、私をいじめている人達に声をかけているようだった。彼らは「ただ話してるだけだぞ?」と答えた。私はさらに泣きそうになった。


「じゃあ、なんで琴音は俯いて、泣きそうになってるの?」


私は声をあげそうになった。気づいてくれないと思っていたのに。いつの間にかクラスはシーンとなっていて、誰もが私たちを見ているような感じがした。


「琴音、いこう」


お姉ちゃんはそう言うと私を抱っこして教室を出た。何も言わず、ただ背中を撫でてくれて、私は我慢出来ず泣いた。


それ以来、私にはお姉ちゃんがヒーローか救世主のように見えた。だからどう接していいか分からなくなった。

姉と妹の関係か、ヒーローとそれに助けられた人の関係か、12年後の今でも分からない。周りから見ればくだらないと思われるような悩みで、私も9割位はそう思っている。でもその1割が私をいつまでも、いつまでも止める。


私がお姉ちゃんにVRゲームをやろうと持ちかけたのはそれが理由。一緒に遊べば、その壁も取り払えると思ったから。


「……また仲良く、できるかな」


私はつぶやくように願った。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る