中編

ヒーローは何故あんなにも輝かしいのか。

それはあの世界は表の陰と戦っているからなのでは無いかと僕は考えている。


だから現実ここには居ないんだ。

裏の陰が蔓延るこの腐った世界だから。

◆◆◆

「お前のその態度が気に食わねぇんだよ」

殴打音が耳に響く。

あれはいじめの主犯格の1人だ。

部活動などではとても評判が良いと聞く。


だから日頃の鬱憤をいじめで晴らしているのでは無いかと考えているのだが、結局は屑であることに間違いはない。


何度も何度も殴る。

「さっさと居なくならないと明日も殴るからな。」


そして1日の終わりを告げるチャイムが鳴る。

今日も何も出来なかった。

なんでこんなに無力弱いなんだろう...。


罪悪感に苛なまれる。

これでいい、動けない弱い自分はこうやって苦しめばいい。ここで沈んでいればいい。

弱い自分へ課せられた罰だ。

◆◆◆

今日もまた1日が始まる。

少年は今日学校に来なかった。

「あいつが死んだか見に行こうぜ」

「賛成!これで死んでたらな〜」

「早く行こうぜ!」


家を知っているのはどうせあの教師の仕業だろう。

そして今日も心に靄がかかりながらも1日の終わりを告げるチャイムが鳴る。

僕は席から立ち上がり、重い足を引きずった。


帰り道の途中、いじめの主犯格の奴らの背が見えた。

その時、僕の心は激しく荒ぶり始めた。

何だろう、この気持ち。


必死に偽善が善に変わろうとしていた。

動悸が激しくなり、苦しい。

だけれど今すぐ追わないと見失ってしまう。

僕は深呼吸をした。

僕は息を潜めながら歩みを進めた。

◆◆◆

歩き始めて20分程経っただろうか。

主犯格の奴らが歩みを止めた。

そして目の前のインターホンを鳴らす。


何度も、何度も、何度も、何度も、何度も

そして口を開く

「早く出て来いよ」

それでも応答は無い。静寂が僕を襲う。


痺れを切らしたのか主犯格の1人が

「じゃあここに大事なもの入れておくからきちんと取っておけよ」

「まぁ生きてるか分からないけどな笑」

嘲笑しながらそう言って彼らは去っていった。


暫くした後、少年が姿を現した。

そしてポストに入った封筒を手にし、足早に立ち去ろうとした。


考えるよりも先に僕は行動に移していた。

「あ、、、」

掠れて素っ頓狂な声しか出ない。

少年はもう家の中へ言ってしまう。


「あの!」

声が届いたらしい。

少年は驚いた様子で振り向いた。


歯を食いしばる

「ごめん、動けなくて、止めれなくて。」

この期まで止めれなかった癖にこんな事しか言えない自分に嫌気がさした。


ただただ長い沈黙が流れる。

数十秒時間が過ぎた頃、視線を前に向けると少年は涙を流していた。

◆◆◆

その少年の涙を見て、益々自分に嫌気が差した。

そして僕は少年に近づく。

「本当にごめん。」

僕は頭を下げることしか出来なかった。


少年は酷く震えて掠れた声で

「本当にだよ、止めて欲しいよ。」

少年は今まで我慢していた涙が溢れ出ていた。


そして少年が弱々しく持っていた封筒を手に取り、中に入っていた紙を見る。

いつもと同じ罵詈雑言が書かれていた。

僕はその紙をビリビリに破いて放り捨てた。


過去の自分に別れを告げるように。

偽善者に。

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