【超短編】熱血先生の天敵

茄子色ミヤビ

【超短編】熱血先生の天敵

「ヤマモト先生、あなたのやり方は古いんですよ」

 新卒の数学教師アマデラがそう耳打ちしてきたのは、私が校長室の前で気持ちを整えている時だった。


 今日は『あの事件』に対する関係者への説明会の日だったが、私は参加することができなかった。というのも、その日は元々以前赴任していた学校の生徒の相談を受ける日に設定してあり、どうしてもズラすことが出来なったからだ。

 当然そのことは自宅まで謝罪と説明に伺ったが「前の学校の生徒の方が大事と仰るの?!あなたがうちの子供に何をしたか分かってらっしゃるの?!」とタノウエの母親は耳を貸してくれなかった。

 私にとっては生徒は皆平等に大事な大事な存在であり、相談を持ちかけてくれた生徒の相談内容を聞いた私は、そちらを優先すべきだと思ったのだ。

 アマデラ先生は生徒から非常に人気のある先生だ。もちろん私のような暑苦しいおっさんではなく、いわゆる若くてイケメンで高身長で頭の回転も非常に早い教師だ。

 全校集会で新任教師の紹介で歓声が上がったのは、この学校初だったのではないだろうか?

 しかも女生徒だけではなく、男子生徒にも人気がある。

 最初は男子生徒からは目の敵にされている様子はあったが、その取り入り方が実に上手かった。まず各学年の男子の人気者や、各部活の部長と仲良くなったのだ。 歳も近,ということもあって、頼れる兄のように、気軽に相談できる友人のように。爽やかな雰囲気も相まってそれは上手く行っていた。是非ともその手法をご教授願おうと思っていたくらいだ。

 しかし、アマデラ先生は私のことは嫌っていた。

 周りの教師とは上手くやっているのだが、どうも私に対しては手厳しく、先日の仕事終わりに酒でも酌み交わしながら理由を聞こうと誘ってみたが「僕はそういうのいいんで」と、取りつく島もなかった。それでもと私が食い下がると

「…中学の時にヤマモト先生みたいな人がいましてね。良い思い出がないんですよ。熱苦しく「目標は!?」だの「やりたいことは!?」だの…そんな調子で迫られると、自分の意見を言えない生徒は山ほどいるってことを少しは分かったほうがいいですよ。」

 と、言われてしまった。


 アマデラ先生に乱された気持ちを改め…私が校長室のドアを開けると、校長は自分のデスクでこめかみを指でトントンと叩いて私を待ち構えていた。

 校長室に呼び出されるのは今年に入ってから何度目になるのだろうか?呼び出される理由は、基本的には私の指導方針の内容だ。

 先日の『あの事件』に対しては…正直私もやりすぎたと思っている。

 思っているが、決して後悔していない。「悪いのは彼らで私はそれを更生してやった」などと偉そうに語るつもりはないし、そのような軽薄な理由で私は生徒に接した事など一度もない。

 私は教師として…職業的責任者として、私は彼らに拳骨をお見舞いした。

「なんと言われても私の行為は妥当なものだと思っています」

 校長に散々説教されたあとに私がそういうと、校長は呆れた様子で椅子の背もたれに体重を預けて天井を見上げた。

「もういい…君の今後の処遇は追って通達させてもらう。こんな世の中だ。今後教師という職業に就けると思わないことだ」

 校長はそのまま内ポケットから携帯を取り出し操作を始めた。

 教育委員会か、それとも先方の親御さんか。

 私は黙って立ち上がった。

 教師人生30年。

 自分のやり方が時代に合っていないことは分かっていたが、どうしてもやり方を変えることが出来なかった…後悔は、ない。

「「「待ってください!!」」」

 校長室の窓の外に大勢の生徒が立っていた。

 その中にはなんと私が指導した不良達もいるではないか。何事かと校長は携帯を手放し、窓を開け事情を聞き始めた。そして…


 今年も春が来て、私は一年生を受け持つことになった。

 『あの事件』の解決は生徒たち自身によって行われ、校長もご満悦の様子だった。

 また、私の評価も多少は見直され教職を続けられると知り胸を撫でおろした。

 もちろん今の私のやり方では通用しないことは今後も沢山出てくるだろう。

 灰色の問題に白か黒かの決着をつけなければならない時もくるだろう。

 しかし私はこれまで通り、正面から正々堂々と生徒とぶつかっていこうと心に誓おう。

「おうガキども!!副担任のクロシマだ!なんかあったら頼れや!全力でぶつかってこい!」

 しかし問題は不良上がりの私の副担任の新任教師だ。

 この暑苦しさがどうにも気に入らない。

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