超絶美少女の幼馴染が「今から旅しない?」と提案してきた

あおぞら

第1章 幼馴染の誘い

#普通な俺の日常

 本棚がずらっと並び、分厚い大人向けの本や、子供の好きそうな図鑑や絵本に漫画、子供用の小説が綺麗に整頓されたとある小学校の図書室。

 その一角に仲良しげに隣り合って座る男の子と女の子がいた。


「なーくんは私の友達になってくれるの?」


 美しい亜麻色の髪の、幼い顔立ちながらもまるで作り物の如く整った美幼女が少し不安そうに眉尻を下げ、口をきゅっと閉じている。

 そしてそんな美幼女に、そこそこ顔の整った『なーくん』と呼ばれた男の子が子供らしい元気な笑顔を浮かべて頷く。

 

「うん! だってなーちゃんといるの楽しいもん!」

「!?」

「それにおれはもう友達だと思ってたんだけど……違ったの?」


 『なーちゃん』と呼ばれた美幼女は髪がボサボサになるのも気にせずブンブンと頭を横に振る。


「違う! 初めての友達だから……とってもうれしいのっ」


 『なーちゃん』と呼ばれた美幼女は、男の子に抱き付くと花が咲いた様な笑顔を浮かべた。

 

 ——————————

 ——————

 ——— 


「……またあの夢か」


 俺は見覚えのありすぎる天井を見ながらそう呟く。


 あれは10年程前の記憶だ。

 記憶に出ていた『なーちゃん』と呼ばれた美幼女は、本名を透月渚沙とうつきなぎさと言う。


 渚沙とは、小学1年生の頃に出会った。

 初めは特に接点はなかったが、ある日俺が家でずっと読んでいたとある子供向け小説を学校で読んでいる渚沙を見かけた俺が話しかけたのが始まり。

 そこから意気投合し、今でもそれなりに仲良くしている。

 俺はもう少し深い関係になりたいとは思っているが。


 懐かしい夢を見たな……と思いながら辺りを見渡す。


 いつ見ても変わらない慣れ親しんだ俺の部屋。

 男子高校生の部屋にしては大分整頓されていて綺麗だと思う。


 眩しい太陽の光が俺のいるベッドに降り注ぐ。

 その様子をぼんやりと見ながら、ベッドの横に置いているスマホに手を伸ばし画面をつけてみると———


『8:01』


「うおっ!? やべぇ遅刻する!」


 俺はガバッとベッドから起き上がり、クローゼットの中の制服を取り出して急いで着替える。

 昨日はアイツと明け方まで『FPS』と呼ばれるシューティングゲームをしていたため、寝るのが遅くなったのだが……それが悪かった。


 残念ながらマンションの一室を借りて1人暮らしをしている俺には起こしてくれる人が誰もいない。

 そしてこのマンションから学校まで30分は掛かり、学校の登校時間は8時30分まで。


 家賃を払ってくれている両親には感謝しているが、もう少し学校に近い所にしてくれれば良かったのにな。

 何でこんな遠い所のマンションにしたのか……。


「———って文句言ってる場合じゃねぇな」


 俺は制服を着ると部屋のドアを開ける。

 この家は3部屋あり、寝室とトイレ兼バスルーム、そしてキッチン付きのリビングだ。

 朝ごはんを食べるためにリビングに向かうわけだが、勿論そこに誰もいない———


「———あっ起きたんだ。おはよう」

「ああおはよう———じゃねぇ! 何で居るんだ渚沙!?」


 リビングには、制服の上からエプロンを着た渚沙が居た。

 俺と同じ高校3年となった渚沙は、昔よりも美しさに磨きがかかり、100人が見れば100人が美人と答えるであろう容姿になっていた。

 亜麻色のサラサラな髪は変わらないが、顔は昔よりだいぶシュッとして、可愛い系と美人系の間くらいの丁度いい感じ。

 身長は女子にしては高い160センチ台で、175の俺とは10センチくらいの差がある。


 しかし昔より1番成長したのは、制服越しからでも分かる豊かに育った胸だ。

 アニメや漫画の様なボインボインではないが、渚沙曰くEカップはあるらしい。

 それとアニメでのEカップは嘘だとも言っていた。


 まぁそれはさておき、テーブルにはキチンと2人分の朝ごはんが用意されていた。

 しかも俺が毎朝食べる様な卵かけご飯とかではなく、筑前煮や味噌汁まで用意されている。


 一体いつ作ったのか……と思っていると、ふと視線が気になり渚沙を方を見ると、此方をジト目で見ていた。


「な、渚沙……?」

「まずは感謝の言葉からじゃないの?」

「いや、ありがとうなんだけどさ……遅刻するぞ?」


 俺がそう言うと、渚沙は目をぱちくりとさせた後、ふっと鼻で笑う。


「そんなの分かってるよ。何当たり前のこと言っているの」

「いや分かってんなら少しは焦れよ」

「焦ったって意味ないじゃん。私もいつも起きるより30分も遅く起きちゃったんだもん」


 どうやら渚沙も寝坊した様だ。

 と言うかコイツ完全に遅刻せずに行く事を諦めてるな。

 まぁどうせ今から走った所でおそらく間に合わないし、目の前の美味しそうな朝ごはんを食わないと言う選択肢はない。


「まぁ偶にはしゃーないか」

「うん。偶にはしょうがないの」


 俺達はそう言ってクスッと笑い合い、椅子に座り手を合わせる。


「「いただきます」」


 俺は早速1番気になっていた筑前煮に手を伸ばす。

 里芋を取って口に入れると……うん、めちゃくちゃ美味い。

 語彙力がないから美味いとしか言えない。

 まぁ毎日おばあさんのも作ってる様だし、上達するのも早いな。


 彼女の家は俺のマンションの近くで、今はおばあちゃんと暮らしており、こうして偶に俺の部屋に来ては朝ごはんを作ってくれる。

 多分俺の部屋が此処なのも渚沙の家が近いからだと思う。


 そして何故渚沙がおばあちゃんの家に住んでいるのかと言うと———渚沙の両親が交通事故で亡くなってしまったからだ。

 俺達が15歳の頃の出来事で、当時は生気を無くしていた渚沙だったが、今ではこうして笑い合えるくらいには立ち直っている。


「相変わらず渚沙のご飯は美味いなぁ……俺にもその料理スキルが欲しかったぜ」

「なーくんには無理。料理は壊滅的じゃん」


 そう、俺は他の家事は出来るが、料理は不思議なほど全く出来ない。

 前回渚沙に手伝って貰ったにも関わらずゲロまず料理が出来たのは、ある意味いい思い出だ。


「———ごちそうさんでした」

「ふふっ、何よその言い方。はいはい、お粗末さま」


 渚沙は今日俺が夢で見た時よりも大人っぽくて艶のある笑顔を浮かべた。

 俺はそんな可憐で何処か魅惑的な彼女の笑みにドキッとするも、それは表に出さず出来るだけ自然に目を逸らす。


「あっ、また照れた? むふふ……相変わらず笑顔に弱いですなぁ?」


 どうやらバレていたらしく、先程とは違い、揶揄う様なうざったらしい笑みを浮かべた渚沙。

 俺は指摘されたことに恥ずかしくなり、頬が熱くなるのを感じた。


「う、うるせぇよ。ほ、ほらさっさと学校行くぞ!」

「あっ露骨に話逸らした。まぁいいよ、それじゃあ行こう?」


 渚沙は仕方ないと言った感じで肩をすくめてやれやれと言うポーズをしていた。

 その姿にイラッと来るものの、完全に図星だったのでふいっと視線を逸らして、靴を履いて玄関の扉を開ける。


 春の心地よい風が俺の肌を撫でる様に吹く。


「わっ、今日は風が強いね」


 同じく外に出た渚沙が耳元に手をやって風で靡く髪を抑えながら言う。


「お前……此処に来る時に外出ただろ? その時は風が吹いてなかったのか?」

「うーん……覚えてない」

「何でだよ。記憶力雑魚かよ」

「別に大して気にしてなかったからしょうがないじゃん! そんなこと言うならもう朝ごはん作らないよ!」


 それはダメだ。

 流石に毎日卵かけご飯と納豆ご飯は飽きる。  


 俺は取り敢えず少し頬を膨らまして此方を睨む渚沙に謝ることにした。


「すまんすまん。ほらもう行こうぜ。2時間目までには間に合わないと流石にマズいぞ」

「確かに。先生に怒られるのは確定だけどね」


 俺達はそんな事を言い合いながら学校へ向かう。


「あっ、そう言えばなーくん」


 渚沙がふと何かを思い出したかの様に立ち止まる。


「ん? どうした?」

「———誕生日おめでとう」

「……ありがとう」


 渚沙が俺に弁当の入った袋を渡してくる。

 気になったので中を覗こうとチャックに手を掛けようとして……渚沙に止められた。


「まだ開けちゃダメ。これは学校の昼休憩まで我慢してね」

「……了解」

「うん、よろしい」


 そう言ってにへらと笑みを浮かべる渚沙に、俺も笑みを返した。


 これが俺の日常だ。



 しかし、この日常が今日で終わりを告げることになるとは、この時の俺は微塵も思っていなかった。


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 10話毎日投稿で、それからは不定期投稿ですが、絶対に完結させます。

 全部で30話前後くらいです。


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