キャズム

明日見 慧

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 ゴミ置き場を思わせる、廃棄用の段ボールが積み重なった廊下の片隅に、私達はいた。何でこんな風にこそこそ隠れなきゃいけないのか、ちゃんと説明は出来る。だが説明した事実をそのまま認めることは出来かねた。それが起った原因を跳ね返す前に、その重みで潰されてしまうと、分かっていたから。たぶん私達が若くて、女だから、そうさせてしまう隙があるのだろう。若いことと、女であること。確かに私達のレッテルは便利だ。どちらか一つでも経験してきた人ならば分かると思う。一つだけでも便利なのに、二つ揃うと、もう。便利過ぎて妬ましいから、レッテルなどという卑称を与えられているのかもしれない。でも当事者からすると、これは押し付けられた武器でもあるから、ありがた迷惑でもある。だが、引き裂こうとすれば繊維質が見えるほど身体や心と同化していて、「私」と密接に絡みついているこの武器を、いらないと突き返すことも出来ない。そんなことしたら私が死ぬ。

 だから姿勢を示すことが重要だと思う。すなわちこの武器を使うのか、使わないのか、使うのであればいつ、誰に、どんな風に使うのか。ありとあらゆる場所でこの問いを繰り返しながら、生きるバランスを取らなくてはならないと思う。奇妙な方向に作用する、根拠不明の重力の重みで私達の身体が引き裂かれて、粉々になってしまわないように。最初から何もかもが無かったことにされてしまわないように。

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