タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?―

すうどん拓郎

第1部 命懸けの恋人作りの幕開け

第1章 激変する俺の人間関係

第1話 「彼女を作るか、作らず死ぬか、さあ選べ!」

 中学生の時にどんなグループに属すのかで、その人の人柄は形成されてしまうのではないだろうか。イケてるグループに属していれば、やれ〇〇さんが好きだの、やれ△△君に振られただのの恋愛トークに花咲かせる機会が増え、何度もそういった話をして、されていくうちに自分もそうなりたいと思い始め、恋愛する努力をし始める。結果、高校生に上がったときにはもう青春真っただ中でエンジョイできるのだろう。そりゃ、対人コミュニケーションが主となる場に何年も身を置けば、自然とそうなっていくのは理解できる。環境に染まっていくわけだ。一方、イケてないグループ、例えば、アニメ漫画などの娯楽に全ツッパする人たちなどは、人以外に多くの時間を割くわけだから、当然コミュニケーション機会は減り、気が付いた時にはもう手遅れだ。よくアニメや漫画の中の男キャラで、モテるやつがうらやましいとひがんでいるキャラがいるが、モテる努力をせずにここまで来ているんだから、当たり前といえば当たり前なのである。

 さて、私はこれからある男の恋愛サポートをしなければならないのだが、困ったことにそのサポート相手は後者のイケてないグループにずっといた男なんだ。年内以内に彼女を作らせないと…いや、

 …ぼやいても仕方がない。やるしかないんだ。この世界の行く末は、私の手腕にかかっている。願わくば、この日記が読まれる日が来ないことがないように・・・。



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 6/8 (月)


 無機質な電子音が鳴り、いつものように目を覚ます。スマホのアラームももう聞きなれた。いつもならアラームのなる直前で目が覚めるのだが、今日はしっかりとアラームで目を覚ました。昨日寝る前に観たアニメの感想スレをだらだら見ていたせいだろう。碌に寝れていない証拠である。もうちょっと布団でダラダラしていようかなーなんてことを思っていたら、制服に身を包んだ、ポニーテールの小柄な少女が俺の部屋のドアを乱暴にあけ、

 

 「兄さん朝だよ~起きないとブザーを鳴らしちゃうよ~。」

  

 と言いながら防犯ブザーを鳴らしてきた。スマホのアラームとはけた違いのやかましい不快音が頭に響く。しぶしぶ起き上がると、防犯ブザーを鳴らしてきやがったちんちくりん…天海有希は呆れた眼差しで、軽くふんぞり返りながら

 

 「ほんと、毎回毎回一人で起きてよね。いいかげん疲れ来るよ。」

  

 いや、本当はすでに起きていたんだよ?布団の中で目を開けているのといないのとでは大きな差があるんだ―――――なんてことはいつも思っているけど、言わない。昔は言っていたけれど、「だから何?」とか「ウザい」とか「それで寝過ごしたことあるじゃん」とか返され続け、俺の心が先に折れた。馬の耳に念仏である。ポニーテール少女なだけに。

  

 「頼むから、ブザーじゃなくて普通に起こしてくれよ…。ほら、もっとこう『お兄ちゃん!朝だよ起きて~!』って言いながら馬乗りになってさあ!」

 「はいはいキモイキモイ。朝食出来てるから。早く降りてね。私の役目はこれで終わったからね~」

  

 俺の話を聞くこともなく、用が済んだとばかりに早々と有希は部屋を出た。……俺の話が聞かれていないのも日常茶飯事。だってあいつ、ブザー音を和らげるために耳栓してるんだぜ?なのにあたかも話がつながっているように聞こえるのは、俺がキモイこと言うのわかって先読みして言葉を置いているんだ。俺の扱いよくわかってんじゃんな~。

 ちなみに、有希は俺のことを「兄さん」と呼んでいるが、俺の妹ではなく一歳年下の従妹だ。同居しているので、よく男友達からは羨ましがられるが、俺自身この状況を役得だとはあまり思っていない。一緒にいすぎたせいか、従妹というよりはもう妹のようなものなのだ。

 階段を下りて食卓に着くと、有希ともう一人がすでに朝ご飯を食べ始めていた。

 

 「まったく、毎回毎回有希に起こしてもらわないで一人で起きたらどうなんだ?ほら…さ…お前のアレがビックボスになってるかもしれないじゃん?」


 この下品な人は国広与一といい、俺の父親の兄にあたる人だ。職業は作家のため、いつも家にいる。この家には俺、国広遼と有希、そして叔父さんの三人で暮らしている。俺の両親…父は建築士としてロンドンで働き、母は父に連れ添っていった。単身赴任は母親的に許せなかったらしい。ただ、子供のうちから海外に住まわせることには悩んだらしく、ちょうど常日頃から嫁がほしい子供が欲しい(=家事してくれるお手伝いさんが欲しい)と叔父さんがぼやいていたため、ちょうどよかったらしい。俺としても、住み慣れた日本にいれるのなら、そちらのほうがよかった。

 そんな叔父さんはかなり下品で、生み出す作品が素晴らしいものである以外に尊敬できる点があまりない。もっと発言に気を付ければモテると思うんだけどな、なんていったけど、無駄だった。結局ほしいほしいと口に出すだけで、そのための行動をとっていないので、これはある種のパフォーマンスなんだなと理解した。それ以来、煽ること以外では何も言わないことにしている。

 

 「・・・・・・」


 気づくと、有希が侮蔑の目を叔父さんに向けていた。昔はぷりぷり怒ってかわいらしいものだったのに、今となっては俺も叔父さんもゴミ扱いされているようだ。両者ともにヘンタイなのだからもうしょうがない。俺はあんな大人になっちまうのかなあ。

  

 さっと食事を済ませて、俺も制服に着替えた。玄関に向かうと、ちょうど有希も家を出るタイミングだった。有希は朝飯の時にはすでに制服に着替えていたのにもかかわらず、出るタイミングが同じということは・・・

 

 「ゆ、有希・・・俺を待っていてくれるなんて優しいじゃないか!」

 「は?たまたま忘れ物に気づいて時間食っただけなんだけど・・・」

 「お兄ちゃん嬉しいおっ・・・!」

 「話何にも聞いてないし・・・」

 

 有希はやれやれとあきれた顔をこちらに向けた。そんなことはいいつつも、これまでも同じタイミングで家を出れば一緒に登校してくれるので、ある程度の信頼はもらえているんだなあとは思う。

 

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 6月にしてはやけに日差しが強く、札幌も地球温暖化のあおりを受けているんだなと悲しい気持ちになった。暑さと悲しさと眠さのトリプルパンチで、自然と足取りが重くなり、背筋も丸まってきた。 

 

 「中学の制服もそうだったけど、高校の制服も暑苦しくて嫌になるよね・・・あと偏差値もう少し上げられたら、私服の高校に行って涼しい格好で登校できたのになあ。」 

 「偏差値少し下げても私服の高校あったじゃん。でもそうしなかったのは、私服はお財布事情が透けて見えるからいやだってのと、柄谷と一緒の高校がいいって理由でしょ?」

 「そりゃ、そうだけど・・・」


 俺らの通う北山高校は市内ではトップクラスの進学校だ。俺らが住む南区からは、まず最寄り駅まで徒歩で向かった後、地下鉄に乗って移動する。地下鉄降りてからまた徒歩。だからアクセスは良好だ。通過点には札幌駅もあるから、定期券があれば街中で遊び放題となるため、放課後も楽しい。もうオタクにはたまらんのですよ。問題なのは家から最寄り駅までそこそこ歩くこと。それだけ。

 駅に向かう途中、住宅街の曲がり角からは見慣れた顔の女性が出現した。足取り重く歩くその姿は・・・まさしく“出現した”という言い方がふさわしい。彼女は俺に気付くと、怠そうにこちらに手を振ってきた。

  

 「おっす、朝から怠そうだな。暑いからか?」

 「ほんと辛いんだからさ・・・・・・・・・返事をするのが。」

 「返事がつらいのかよっ!」

 

 この年にしてもう色素が抜けたのかと思うほどの白に近い灰色、髪の先端がパーマがかったショートヘア。そして、死んだ魚のような腐った眼を重く開く・・・彼女は荻原静乃。俺の小学校からの腐れ縁である。

  

 「静乃さん、おはようございます!」

 「ああ、おはよう、相変わらず遼の従妹とは思えないくらい美少女だな。ぼくにも分けて。」

 「そんな、私なんて全然ですよ、静乃さんには適いませんって。」

 「いやぁ、これは照れるなあ。」

 

 

 確かに顔は悪くないと思う。むしろ小学時代は男女問わず慕われていた。ただ、小学6年のある時を境にどんどん陰鬱な雰囲気へと変化していき、卒業時には今よりやつれた見た目になっていた。中学からは、猫背に、生気の感じられない瞳に、ひねくれた言動をするもんだから、一部を除いて誰も関わろうとはしなかった。クラスカースト最底辺の陰キャ少女だったわけ。ただ、今は最底辺の頃よりは落ち着いて、関わりたくない最底辺のカーストから、ノーマルカーストに位置するくらいにいる。

  

 「・・・おいおい、俺抜きで話を進めるなよ~」

 「いやいや、有希ちゃんの髪の毛の手入れ具合は尊敬に値するよ。ぼくも見習わなきゃな。」

 「・・・って、おいおい!俺の扱いがぞんざいじゃないか!」

 「・・・え?なにまだいたの?」

 「アッハイ、なんかすいませんでした・・・」

  

 彼女は俺への扱いが酷く適当で、年々苛烈さが増している。もっとも、直接的な暴力とかはなく、あくまで言葉でのいじりなのだが、成長していく中でボキャビュラリーが豊富になっていくので、さまざまななぶり方をするようになった。けれど、そのなぶりの一端に俺へのリスペクトというか、超えてはならない一戦は超えないようにしているのが見受けられるから、不快に思っているわけではない。だてに年数長く付き合ってきていないので、そこらへんは互いに理解していると信じたい。

  

 「ああごめんごめん。そんな離れなくていいよ~」

  

 静乃に言われた通り、俺は静乃たちに近づいた。こうして、また、一日が始まるのである。

 


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 俺も静乃も二年六組。二人一緒に教室に入ることも多々あるため、何も知らない人がこの光景を見ると、あたかもカップルが朝から登校してくるかのようにも見えるだろう。だがしかし、そんな愉快な勘違いをする人はいないだろう。なぜなら、周りから見れば俺は静乃のオモチャとしか思われてないからだ。人間の扱い受けてェ~

 俺らが教室に入ると、さっそく声をかけてきたのが2人いた。

  

 「おはよう遼っ…。俺の勧めたこれゾンは見たかっ…?」

 「静乃、おはよう。」

 

 朝っぱらからアニメの話を吹っかけてきたのは伊藤修二、顎もとがってるし、例のあいつにしか見えない。例のあいつと違うのは、クソオタクの同志であることだ。

 次に、静乃に簡潔な挨拶をしたのが中河刹那。肩にかかる程度の黒のツインテールで、前髪にはヘアピンを付けている。すらっとした長い足を白のニーハイで覆い、絶対領域がちらつくなんとも股間によくないすばらしい恰好。顔面偏差値もトップクラス、学内屈指の美少女である。普通の偏差値もそこそこ高いため、完全に神が二物を与えている。静乃とは中学からの知り合いで、つまり、俺も彼女のことは昔から知っている。ただ、

  

 「静乃、今度のテストもまた微妙な点で終わる気がしてなりません。何か有効な策はありませんか。もう会長に微妙な顔をさせたくないのです。」

 「ええっと、神様に何とか頼んでみれば?」

 「この世に・・・神なんていませんっ・・・!」

 「あーはいはい、じゃあ、地道に勉強するしかないねー」

 「ううっ・・・会長・・・」


 彼女は生徒会に属しており、そこの会長に心底惚れている。もちろん、敬愛のでだ。ときおり、会長を前にすると暴走気味になってしまうのが玉に瑕なのである。



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 つつがなく授業は進行し、気が付けば放課後だ。みんな帰り支度をしている最中、

  

 「遼っ・・・!これからこれゾン二期放映会をするつもりなんだが・・・お前はどうするっ・・・・・・?」

 「いや、普通に部活あるから。」

 「そうか・・・なら仕方ないっ・・・!ちゃんと配信で見てくれよっ・・・!dアニにあるからさっ・・・!」

  

 なんてことを言いながら、颯爽と伊藤は教室を出た。やつは帰宅部で、俺以上にオタク趣味に時間を全ツッパしている。すごいぜ。なお、静乃と刹那も早々に教室を出た。静乃も帰宅部なので、いつもさっさと帰っている。部活動はだるいらしい。一方刹那は生徒会役員としての活動にいそしんでいる。生徒会の会議がない日でも、生徒会室に行って自習とかしているらしく、勤勉さがうかがえる。こういうところ、真面目系委員長キャラだよなあって思う。 

 

 俺は『ゲーム研究部』に所属しており、場所は6階の廊下の隅だ。このゲーム研究部は文化部で、なにより部員が四人であるため、かろうじて部活が成立しているのが現状だ。よって、部費は当然少ないし、あまり生徒の行き来しないところに追いやられてしまうのである。だるがりながらもてくてく歩き、部室のドアを開けた。

  

 「こんちわーっす。」

 

 俺はそう言って部室に入ると、まず最初に第一声俺に挨拶をしてくれた。

 

 「国広先輩、こんにちはです。」

 

 そいつは俺の後輩、柄谷栞。肩に触れるか触れないかくらいのでボブカットであり、少し青系統によった髪色。清純で物静かであり、控えめな性格であるので、初見だと文学少女ととらえる人がいても不思議ではない。実際に彼女は教室内や部室内で本を読むことが多いが、その本の中身はゲーム攻略本やライトノベルである。有希の親友なので、叔父さんが出版社に向かう時を狙ってときたま家に呼んだりしていた。

 そんな彼女の手に収まっているのは本ではなはシャープペン、広い長机にはノートと教科書が広がっている。どうやら、試験勉強でもしていたらしい。そして、

 

 「ちょっと遅かったじゃない。待ちくたびれたわ~」

  

 回転いすに座ってくるくる回りながら俺に挨拶(?)をしてきたのは、我らが部長、宮永龍華さんだ。栗色のセミロング。全体的にウェーブのパーマがけがなされている。いつも美容院にしっかりと金を落としてキメて来ているらしい。 

 

 「やあ、国広。二日ぶりだな。」

 

 彼は武士道。『ぶしどう』じゃなくて、『たけ しどう』と読む。ただ、彼がご飯を食べるとき、”ハムッ!!”って音が聞こえてくるかのように豪快に食うものだから、みんなハムと呼んでいる。金髪に染められた天パは、今日もしっかりキマっていた。彼は自分磨きにいつも全力なのである。ただ、発言がいちいち中二病臭いので、ちょっとおなか一杯になる時が多々ある。 

 

 「じゃあ、全員揃ったところで会議を始めるかな。栞ちゃんは勉強を一回ストップしてね~。」

  

 回転するのをやめ、立ち上がった部長はよろめきながら「きもちわるい…」と言葉を漏らした。気持ち悪くなるのはわかっているんだから最初からやらなければいいものを。

 よろめきながら奥にあるホワイトボードに手をかける。そこで数秒気を落ち着けると、ホワイトボードを引っ張り出して…

 

 「では、FLDの戦術会議を始めるっ!」

  

 この部活はただのお遊びクラブである。ただ、目標がないとだらけちゃうので、毎回何かしらやることを決めて、それに打ち込む、ということで部活の体裁を保っているというわけだ。学校には、将来e-sports部を設立するための試験段階として認めさせてくれと頼み込んで、設立を許してもらえたらしい。部長もよくやるよ。今の時期は、ゲーセンのアーケードゲーム『フォースレイドライブ(通称FLD)』の大会が近いので、それでできるだけ勝つというのが目標だ。四人一組 or 二人一組の団体戦のTPSのため、連携が大切になるわけだ。


 「とりあえず、今月末にある地区予選を突破が目標で。一回戦負けだけは避けたいね。そのためにも、組み合わせを決めよう。3セットのうち、1、2セットは二人一組のゲームになる。ここ二つ落としたら終わりだから、最強のメンツで迎えたいわけ。でね、どの組み合わせが一番勝ちにつながるのか、今日それについて決めちゃいたいんだけど、ダイジョブ?」

 「え?今ここで決めるんですか?」

  

 柄谷が意外な顔で部長を見ていた。部長は、首を横に振り、ぽりぽりと頭をかいた。

 

 「これからゲーセンに乗り込んで、いくつか実戦してから決めようと思ってる。だから、これから時間は空けておいてよ~。」

  

 それを聞いて、柄谷は肩をなでおろしていた。が、俺はそうではない。 

 

 「今からですか?今ちょっとそんなに金持ってきてないですから、明後日にできませんかね?」

 「明後日?明日じゃなくて――あ、先輩明日はバイトの日でしたっけ。」

 「そうそう、資金をためないとな。」

 「そこは社会の経験のためとかにしときなさいよ・・・・・・でもまあ、それなら仕方ないか。今すぐ決めなくちゃならないってわけでもないし。じゃあ明後日ってことで。」

 「心得た。」

 「わかりました!」

 「じゃあ、今日はもう特にすることもないので今日は自由行動で!」

 

 部長の号令の後、みんな各々の作業に戻った。柄谷は勉強。ハムは筋トレ、部長はなんかパソコンまでキーボードをカタカタしていた。俺は――――俺も勉強することにした。中間試験が近いんだ。 

 

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 日が暮れたころ家につくと、有希は特に何かをしているわけでもなく、リビングのソファの上でごろごろしていた。

  

 「あぁ・・・・・おかえりなさぁい。」

 「なんか眠そうだな。」

 「だって実際眠いんだもん・・・あー・・・眠い。」

 「そんなに眠いなら自分の部屋に行って寝てくればいいじゃないか。」

 「なんかねぇ・・・今って夕方でしょ?昼寝っていうわけでもないし・・・もう少したったら夕飯だし・・・すごく中途半端じゃん。もっと早く家についていたら寝てただろうけど…」

 「ああーそうかい。」

 

 相手にするのが面倒になったので、早々に自分の部屋に向かった。

  


 夕飯を終え、テスト勉強を終え、特にやりたいこともなかったのでいつものようにあとは寝るだけとなった。ああ、また同じように毎日の繰り返し。別にうんざりはしてないさ。うんざりしていたとしてもどうしようもないしね。

 俺は部屋の明かりを消して目を閉じる。明日も一日頑張るぞい!なんて、糞みたいなことを思っていた。だが、この日みた夢から、俺の人生は大きく動くこととなったのだ。



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 何者かに蹴られて、俺は目を覚ました。有希め、ついに実力行使に来たな、と思っていたのだが、目に前には何もない真っ白な空間が広がっており、そんな中ひときわ目立つ黒いスーツを着た男が不機嫌そうな面構えで腕を組んで俺の傍に立っていたのに気づいた。若くはないが、おっさんでもない。30代前半くらいの印象だった。今日の夢は変だな~なんて思いながら立ち上がった。

  

 「――――あなた誰?」

 

 そういうと男はふんぞり返って

 

 「・・・そうだな、神様とでも言っておこうか。」

 

 どうやら俺は随分カオスな夢を見ているようだ。神だと自称する脳内お花畑の痛い人がいるとは。仮に神だったとしてもこんなスーツ着た男が神には見えんって。あとちょっと言い淀んだだろ。設定ガバガバすぎひん?

 

 「ちょっと、そこは呆れるところじゃないから―――まあいい、本題に移ろう。」

 

 男はそのおどけた感じから一変、真剣な表情になった。

 

 「唐突だが国広遼君、君は今の環境―人間関係に満足しているかい?」

 「あれ?俺自己紹介したっけ?」

 「神様なんだからそれくらいオミトオシさ。」


 アッそっすか・・・。まあいいや、今の環境だって?それは・・・・・・・

 

 「う~ん・・・別に普通としか言えないかな。改めて思い直すことでもないし。」

 「本当にそう思うかい?今、ものすごく幸せだと感じないのかい?」

 「確かに幸せといっちゃ幸せだけど、別にものすごく恵まれてるってわけでは…」

 「女性関係は?」

 「う~ん……別に彼女とかいるわけじゃないしねぇ……普通じゃないっすか?」

 

 するとこの男は軽く声に怒りを込めて、

 

 「女の幼馴染、義理の妹のような存在、クラスメイトの女子、部活の先輩・後輩、生徒会の会長、そして教師陣。全員美人だ。普通、一般的な男子生徒はこんなに複数の女性と・・・こんなに可愛い女性と親密な関係を持つなんてことはありえない。イレギュラーなんだよ。それなのに君はどうだ?君は、こんなに恵まれた環境を特に幸せとも感じず・・・。」

 「そういわれましても・・・それを幸せと思うかどうかは、個々の価値観によりますし・・・」

 「君にとっては、そうかもしれない。が、客観的にみると、相対的には非常に恵まれていることを自覚したほうがいい。」

 「はぁ……」

 

 まあ確かに、時々周りの友達からそんなようなことは言われるけど、だからと言って主人公ハーレムみたいな展開なんて皆無だし・・・。

 

 「でも俺、知り合いが多いってだけで、誰と特に仲がいいってわけじゃないっすよ?」

 

 すると男は、ニマリと笑い、

 

 「そこなんだよ。複数の女性と関係を持っていながら、誰とも特別に仲良くなろうとしない。私が何を言いたいのかわかるかい?」

 「さぁ・・・」

 「こんなに素晴らしい環境、これは男子の夢!その環境にいながらお前は彼女も作らず平々凡々と暮らしている・・・日頃ひもじい思いをしている悲しいすべての弱者男性に詫びろ!」

 

 もういやこの人。

 

 「君には罪が多すぎる。よって、お前に処置を施すことにした。」

 「理不尽だなぁ……つか、その処置とやらはいったいどんなものなのですか?」


めんどくさくなってきて、適当に相槌を打つことにした。だが、そんな俺とは反対に、その男は真剣な面で―――


 「それは――――」


 自称神は一拍おくと、

 

「『お前の周りの女性との関係をリセットさせる』――というものだ」

  

 なんてことを言ってきた。

 内容が想像通りぶっ飛んでいて、俺は妙な安堵を覚えた。

 

 「きっとお前はこう思っている。『想像通りぶっ飛んでいる内容だ』と。だが、これは冗談で言っているわけではない。そもそも、こうして君と会話しているのは君の夢ではなく私が君の意思に干渉しているものなので、私の存在自体が、君の創造で生まれたものではないことを理解していただきたい。」

 

 ……厨二病乙。

 

 「はいはい、俺は呪いをかけられても、それでもかまわないよ。彼女なんて作る気ないし、俺の環境が悪くなろうがどうでもいいし。俺は自分のやりたいことがやり続けられればそれでいいんだよ。」

 

 その言葉を聞くと男は含みがあるような顔つきでこう述べる。

 

 「その行動が、君の周りの女性――――そうだな、今日会った女性だと・・・萩原静乃、天海有希、柄谷栞、中河刹那、宮永龍華、に影響するとしても?」

 「そりゃあまあ、リセットされるんだもの。当たり前だろ。」

 「周囲との関係をリセット…いいかえれば、君の中からその女性、もしくはその逆でもいいが、存在がなくなってしまえば、関係は初期化される。つまり、女性側をぶっ殺してしまえば、“君”という存在は彼女らから消えるよね。あるいは、”君”を殺すか。」

 「・・・は?」

 

 意味が分からなかった。正確には、文字どおりの意味はとらえていたが、何故そんな論理の飛躍になるのか、理解できなかったのだ。

 

 「もう一度言おうか、彼女を作るか、作らず死ぬか、さあ選べ!」

 「いや、そんなこと急に言われても・・・」

 「まああくまでも、このままの態度をとり続けるなら、ね。」

 「そんな含みのある言い方をするってことは、それを回避する方法があるってことだな?」

 

 すると男はにやりと笑って、

 

 「ああそうさ。この事実を回避する方法。それは『君が年内中に彼女を作る』ことだ。」

 「はぁ。」

 

 なんとなくそんな予感はしていたさ。でも、だからといってすぐ実行できるものでもないし。というか、できる保証はない。むしろ出来ない。オタクを舐めないでいただきたい。

 

 「まあ、いきなり彼女を作れと言われても、ずっと自分の世界に閉じこもっていた男がそれを成すのは難しい。だから、せめてサポートはしてやろうと思う。」

 「それは神の気まぐれか?自己矛盾も甚だしいぜ。」

 

 そういうと男は真剣な表情だったのが一瞬曇り、そして

 

 「私は人間の負の感情を均すことを主の仕事とする神だ。特に、近年は弱者男性の負の感情は飛躍的に上昇している。給与が低く、顔も醜い、投資したのは自分の趣味にだけ、そんな自分を作り出したのは、自分自身に他ならないのに・・・。そんな大人がどんな後悔するかわかるか?あの時もっとああしておけば、というものだ。特にそれは、学生時代に恵まれていた環境に置かれていた奴ほど強く思う。だからこそ、今の君の立場は非常に危うい。他者の負の感情を逆なでするだけでなく、将来の君の負の感情も爆発する恐れがある。それはまずいんだ。だから、感情があふれる前に、処理を行う。もちろん、彼女を作って正の感情があふれるならそれでよし。できなくても、君を消せば周りと将来の君の負の感情もなくなるからよし。win-winなわけだ。」

 「……まあ、理屈は分かった。けど、何がwin-winだよ!一方的にそっちの主張をぶつけてきやがって。こっちは―――――」

 

 そのとき、ふとあることが脳裏をよぎった。

 

 「一つ疑問なんだけど、神の力とかを使って負の感情を均すことはできないの?」

 

 男は数秒黙った後

 

 「そんなことできたらそもそも君にこんなことはしない。―――まあとにかくだ、私としては、君には幸せになってほしいと思っている。だから、そのサポートの一つとして《告白券》というものを君に与える。」

 「なんすかそれは?」

 「それは――――おっと、もうあんまり時間がないようだ。君のサポートのためにエージェントを送っておく。告白拳についてはそいつから聞いてくれ。明日の夕方以降には会えるはずだ。」

 「ちょっ……中途半端に終わらせ―――」

 

 そして、男は俺の前から姿を消し、俺は意識を失った。



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