天才魔法使いさん、辺境の村でモンスターと一緒にポーションを売っています〜万能魔法《調合》で全部混ぜてしまいましょう!

水定ゆう

プロローグ

第1話 エンドロールみたいなプロローグ

 春。それは出会いと別れの季節だ。

 講堂の中に集められた十八歳の少年少女達は、皆同じところに視線を向けていた。


 そこには全員から羨望眼差しを受ける少年がいた。

 いかにも真面目で優等生な彼は、この由緒正しきパラディシオン魔法学校の主席卒業生だった。


 今は卒業生代表として在校生に言葉を贈っていた。

 それを聞いている卒業生の中にはやや幼い少女もいた。


(頑張ってるなー。しかも真面目。凄い)


 少女は同級生で主席の彼のことを褒めていた。

 何様かと思うかもしれないが、みんな彼のことをタメ口で呼んでいた。


 それだけ信頼されていた。

 しかも少女は彼とは三年という短い学生生活の中でもかなり深い交流があった。


 だからだろうか、主席の言葉が全部友達の言葉としか聞こえなかった。

 そんな少女は意外にも長い卒業式を噛み締めていた。


(もう卒業なんだね。まあ、良い感じかな?)


 これからパーティーがある。

 そこが同級生との学生としては最後の交流になるのだ。


(でも本当に大変なのはこれからなんだよね。あはは……頑張ろ)


 少女は天井を見上げていた。

 やや紫色をした黒い瞳がキラリと光ったような気がした。


 しかし表情は笑みを浮かべていた。

 ミクス・アウェイクは楽しそうだった。


 *


 卒業式の後、卒業生達はパーティーに誘われていた。

 貴族も平民も関係無しで、その中には当然のことだがミクスもいた。


「まあ私はお酒飲めなんだけどね」


 パーティー会場にはワインも並んでいた。

 平民では絶対に手が出せないような高級品だった。


 しかしミクスは未成年なので飲めなかった。

 だから少し残念に思いながらも、オレンジジュースで我慢した。

 少し酸味が効いていて美味しかった。


「うん、酸っぱくて健康そう!」


 ミクスが笑みを零した。

 するとミクスの元に誰かやって来た。

 同級生のルームだ。


「おーい、ミクス!」


 手には赤ワインをワイングラスに入れて持っていた。

 ミクスの元に辿り着く頃には、中身が飛び出しそうになった。


「うおっとっと! お待たせ」

「走ってこなくても良いのに。せっかくのドレスが汚れちゃうよ?」


 ルームの格好はミクスと違ってドレスを着込んでいた。

 スリムな体型なのでルームはやけに似合っていた。


 それとは対照的にミクスはドレスを着ていなかった。

 ミクスは貴族……の爵位はもってはいたが、ドレスを買う程固執していなかった。


 ましてや借りることも視野に入れていなかった。

 この辺は少し抜けていた。

 最近忙し過ぎて、ミクスの灰色の脳細胞が焼けてしまった。


「はい、ミクス!」

「あっ、ごめん。私飲めないけど?」

「……えっ!? あっ、そっか! ミクスって十五歳だっけ?」

「そうだよ。ルームは十八だから飲めるんだよね」


 この国では十八歳からお酒が飲める。

 けれど十五歳のミクスだけが完全に空気に溶け込むことができなかった。


「ごめん。私、空気読めなかったよ」

「いいよ。別に気にしてないから」


 ミクスはルームの肩を優しく叩いた。

 すると今度は別の声が聞こえた。

 周りにはキャーキャー声も混じっていた。


「すまない。悪いけど、これからお友達としばしの別れの挨拶をするんだ」


 この言い回しは一人しかいなかった。

 貴族にもかかわらず平民にも優しかった。

 だからこそ、誰からも好かれているのだ。


「あっ、居た。ミクス、ルーム!」

「やっと来た」

「おーい、ブライト! こっちこっち!」


 ルームは手招きをした。

 すると周りにいた他の女生徒から辛辣な目を向けられてしまった。


 しかしブライトは全く気にしていなかった。

 ミクスやルームも特に気にも留めなかった。


「主席さんは大変だね」

「お情けで貰った主席だよ。それよりもルーム、そのドレス似合っているね」

「ありがとう、ブライト!」

「それに引き換え……やっぱりドレスを貸した方が良かったね」

「別に良いよ」


 ミクスは非常にあっさりしていた。

 そんなものは特に意味を成さなかった。

 しかしブライトもルームもジト目になった。

 ミクスは勿体無いくらい可愛らしく、ドレスが非常に良く似合いそうだった。


「それより今日も大変だね」

「うん。卒業パーティーと言うこともあってね。俺も肩の荷が降りないよ」


 ブライトは貴族だ。

 しかも大貴族なので、周りから常に羨望の眼差しを受けていた。


 その中には何とかして婚約者になろうとしている者もいた。

 本当にうんざりな様子で、溜息を零しそうになった。


「そうだ、二人はこれから如何するか決めているのかな?」

「私は大学に進学して、もっと高度な魔法技術を身に付けようと思いっているんだ!」

「ルームらしいね」

「それ以上強くなるんだ」


 ミクスとブライトはルームの強さを知っていた。

 学生時代はその力に幾度となく助けられた。


「ブライトは家のお手伝い?」

「うん。時期当主として、他国との交流で忙しいよ。勉強も山積みさ」

「大変だね。って、ミクスは如何するの?」

「私?」


 ミクスは話を振られてしまった。

 本来ならミクスも大学に行くはずだが、残念なことに大学に入るのはもう少し先になってしまった。


 大学に年齢制限はなかった。

 しかしやりたいことが見つかっているので、大学には十八歳からにした。


「そうだね。私は薬を作ろうと思うんだ」

「「薬?」」


 二人は首を捻った。

 突然のことで何の脈絡もなかったのだ。


「急に怪しいことに手を出すの!」

「流石にお友達としてそれは容認できないな」

「違うから。私ももっと魔法を活かしたくて、薬を作ろうと思うんだよ。そのために資格も取ったし、この機会にやってみようと思うんだ」


 ミクスはやる気に満ち満ちていた。

 ルームとブライトはそんなミクスの背中を押すことしかできなかった。


 もちろん背中を押されなくても決めていた。

 だからだろうか、ミクスは明日を楽しみにしているのだ。


 所詮は今は過去の産物だ。

 まるで一つの区切りをつけたように清々しい様に、二人は感服してしまった。

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