第49話 ラリー・フィールド3

寝床で考えていた、昨日のレストランでの出来事は、俺にとっては印象深い出来事だった。

あの店主は、黒人を嫌っており、他の店でも少なからず、異物として見られる事もあると、俺も18歳になり、そういった目で見られるかな…今までだって、気付かなかっただけで、俺は所謂を受けてたのかも知れない。

まあ、出生不明で今までも、色眼鏡で見られたし、今更かも知れんが…。

朝、8時になったので俺は練習の為、1階に降りると、「おはよー」っと声がかかる。

マークだった。


「よう、スカー、よく眠れたかい? 」


「おう、眠れたよ」


「おはよう、諸君!」


マークと談笑してると、ラリーがジムに現れる。

「おはよう、ラリーさん」


「おはよう、ラリー」


「ちゃんと、眠れたのか 2人共? まあいい、マーク、俺の試合は段取りはどうだい? 」

「はい、難航していた、例の件はバッチリです」


「THE・ONE 《ざ・わん》、ジェームス・ロビンソン…との試合が決まりました、半年後です」


「そうか、私もようやく、奴との試合に挑めるのだな」


「誰だよ?」


俺の疑問符にマークは驚き、説明を始めた。


「ジェームス・ロビンソン、29歳、現在ミドル級王者にして全階級を通した最強の称号、パウンド・フォー・パウンドの持つボクサーさ、並ぶ者がいないことからTHE ・ONEとも呼ばれている凄い強いんだよ」


へー、そうなんだ…自分の無知を恥じる。

すると、そいつにラリーが勝つと…最強のボクサーなんだな。


「なあ、ラリー、そいつに勝てる? 」


「まあ、勝ってみせるさ…」


「ラリーさんだって、同階級の世界ランキング1位のボクサーだ、勝てるさ」


そうなんだ…俺にとって、最強のボクサーがラリーだから…最強対最強じゃないか!

すげぇ事が半年後、起こる訳だ。


「どうした、スカー、なんだか嬉しそうだな」


「だって、世界最強のボクサーとラリーがやるんだろ…ラリーが勝ったら世界最強じゃん」


抑えることがない興奮が、俺を包みこんだ、ラリーが、自分を教えたりスパーリングしてくれた人が、世界最強だなんて…嬉しいに決まってんじゃん。


「おいおい、スカー、まだ私が勝った訳じゃないんだから…そうだな…こう言うのも、何だが、、お前が挑めよ、んで世界一になれ」


「ラリーにしちゃあ、弱気な発言だな!そこはラリーが勝って俺に挑めって言ってほしい所だよ」


俺の言葉にハッとしたのか、ラリーは咳払いをしつつ、「そうだな、俺が勝つから俺に挑んで来い!」


「ああ、楽しみにしてるぜ、次期チャンピオン!」


「よし、じゃあ早速だが、ダマトさんに買い物を頼まれてたんだ、マーク、スカー、ちょっと付き合ってくれ」


「「はい!」」


駐車場に停めてある車に、運転席にラリー、助手席にはマーク、後部座席に俺といった席順に座り、ラリーが車のエンジンをかけ颯爽と車道へ出た。

スーパーがある所は、アルバート区の駅前に立っていて、買い物をドッサリ買うつもりだ。

今は3月、春で、マークがスライドドアからガラスを開くと、まだ冬の寒さが残った風が入ってくる。


「マーク、ガラス閉めてくれよ、まだ寒い」


「おお、そうか! じゃあ閉める」


そんな会話しながら、駅前のスーパーにつくと、駅前だからからか、人が賑わっていた。

そんな中、駅前で誰かがスピーチをしていた。


『我々の国は、黒人や黄色人に支配されている!!彼等は、我々、白人の職を奪い、あろうことか、特権まで受けている!! この国を白人の元へ返そう、そして、敵国ズィクタトリアへ通じてる黒人、黄色人から我々の国から追い出し国を守ろうではないか!!』


何てスピーチだ、しかし、よく通る声で聴衆の耳によく残る。

聴衆も周りに集まり、『そうだ!』『よく言った』『黒人も黄色人も死ね!』等、聞くに耐えない事を口ずさむ。


駐車場に降りた、俺は何だか後ろめたい気持ちになった。

なんだろう…この気持ちは、自分は生きててもいいのだろうか? そんな気持ちを抱かせた。

そんな中、ラリーはスーパーに向かわず、がいる、スピーチしている人物へ向かっていったのだ。

聴衆もラリーに気付き、『黒人は帰れ』『黒人が来たぞ、何かされるんじゃないか?』『やっぱり黒人は野蛮だな』そんな聴衆の嘲笑、冷笑にも目もくれず、スピーチしている本人に向かっていき、言ったのだ。


「貴方は黒人や黄色人を奪い、特権を受けてると言った、あまつさえ、ズィクタトリアへ通じてると言った、貴方が言った発言には根拠はあるのか? 」


それに対しスピーチしている白人の男は、自信満々に「あるとも」と言った。

そして、「我々、はこの国を愛し、それに刃向かう反乱分子を摘発するのが目的だ、そして黒人たる君はその活動を邪魔をすると言うのかね」


『そうだ』『邪魔するな』『黒人の癖に』

聴衆の野次にも臆せず、ラリーは、言った。


「たった1人の黒人に随分、動揺されてるようですが、貴方方の背後にいる支援団体なら、私もご存知ですよ」


「なんだね、言ってみるがいい」


「ユースティティア…今、この国で反社会的勢力である、あの団体と貴方は繋がりがあるでしょう」


白人の男は動揺せずに、「私も聞きたいね、それは何か根拠があるのかね」

「この国が発表されている公文書にも、憂国の集いに関する指摘がありますね、以前、情報開示請求をやってましてね、貴方方との繋がりを指摘されてる、文書で良ければ今から、ジムに取りに来ますが…どうします? 」


「ふん、そんなのは出鱈目だ、皆さん、この男の言う事を信用してはいけません、デマ、デマです」

そんな中、聴衆の中に、ラリーを知っている人が『あれ…ラリー・フィールドじゃね?

』『ああ、見た事がある、今度、世界戦に挑む、世界最強の男と戦うという』『ラリー・フィールド、俺と握手してくれ』

愚かな聴衆共だ、さっきまで、黒人は帰れだのぬかしておいて、ラリーの素性を知れば手の平返しかよ…。


「と、とにかく、私の演説は終わりだ、皆様、ご静聴ありがとうございました」

あの男は、ラリーの人気に気圧され、逃げるように、撤収していった。


ラリーは聴衆を掻き分け、俺達の元へ戻り、「すまんな、遅くなったが買い物しようか!」と爽やかな笑顔で言った。

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