第8話 痛み分け

ビクター・タイソンがスカーフェイスに突っ込んでくる。

頭を振り、的を絞らせないように。

俺は知っている、あれはマイク・タイソンが得意としていた、ピーカブースタイルだ。

まさか、異世界にてあのスタイルを拝見するなんて、あっ、右アッパーがスカーフェイスを捉えた。

顎を撃ち抜かれたスカーフェイスが、後退し、ロープ際まで飛ばされる。

追い打ちをかけるように、突っ込んでくるビクターに、スカーフェイスは、左回りに旋回しながら右ボディから左アッパーを繋げ、ビクターに命中させよろめかせる。

スカーフェイスがその瞬間を見逃さず、右ストレートを放つ。

ビクターも自分に追撃をしようとするスカーフェイスに、左ストレートを…両者の放ったストレートは交差し、両者に命中する。

ダブルノックダウンだ。

その瞬間、リングにネルソンが割って入る。


「ここまでだ」


両手を振り、ストップさせようとすると、ダマトが、批判する。


「随分、甘いのぉ、ビクターがよほど大切のようだが」


「御大、それは、そちらもそうなのでは?」


両者がまた立ち上がり、スパー続行を望んでいるかのように、歩み寄る。


「お兄ちゃん、止めて、スパーリングは軽くって約束だったでしょ」


先程、花束を渡しに来た可憐な少女が、いつの間にかおり、ビクターに呼びかけた。


「ラムール…そうだったな…おい、スカーフェイス命拾いしたな、あんた続けていれば、負けてたぜ」


「それは、そっちも同じじゃないかな、ビクター、スカーフェイスとのスパーリングでかなり消耗してるようだけど」


俺は思わず、ビクターに呼びかける。

見ていて興奮していたのかも知れない。


「ふん、勝手に行っとけ」


「タケシ、いいよ、言わせとけ」


中々、自分でもこうまで、肩入れするとは、思わなかった。

なんでだろう、自分でも不思議だ。


※※※


さて…ご覧の皆様、事実上ユースティティアが、擁するネルソン及びビクターは、スカーフェイスに小手調べの段階でスパーリングを切り上げました。

しかし、スカーフェイス…彼は不思議な男ですね。

事実上、試合で勝ってもそれが、ユースティティアに被る痛手というのは、たかが知れてるでしょう。

それでも、件の団体に何らかの痛手を与えたいスカーフェイスは、これだけで済ますのか、それとも、他にも何か考えがあるのか…気になりますね…わたくし、フィクサーとしては、胸がドキドキする事です。―――胸がドキドキすると、言えば恋の話も自然と沸き起こりませんか?

私だけですか…残念です。

という訳で、舞台はズィクタトリアへ一旦移ります。

拳闘哀歌とタイトルが付いてますが、ボクシングではないのです、ある女性の話しです。

気になる、気にならない皆様もどうか、この物語を拝見してください。

では、では……。

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