輪廻転生とR.B.ブッコロー|前世の未練と現世の宿命

マダオゥ

プロローグ

「しながわ~…しながわ~」


銀色のボディーに黄緑色のラインが施された車両が、勢いよく駅のホームに滑り込んでくる。プシューという機械音と共に扉が開き、中から人が溢れ出す。


だだっ広いはずの駅の通路が、ゲームオーバー寸前のテトリスのように、あっという間に人で埋め尽くされていく。

ある人は仕事に遅れないようにと早足で、またある人は転ばないようにと俯いて、目的の場所に向かうため、駅の出口を目指す。

その光景を見下ろす1つの影があった。


人間はなんて愚かな生き物なんだ。

混雑する事が分かっていながら、あえてその時間を通勤時間と決め、この狭っ苦しい東京で、さらなる混雑を作り出している。


いや、それだけではない。


人類が生き抜く為の物資が不足している訳ではないというのに、自分が所属する組織の利益をあげる為、目標やノルマをかかげ、それに向けて自分の健康を害する事も厭わず働くのだ。

そう、3ヶ月前までの自分がそうだったように…。


人類は自分たちを食物連鎖の頂点にいると考え、自分たちの存在を奢り、あたかも地球の支配者であると勘違いしている。

しかし、実際はどうだろう。


確かに人間を捕食する生物はいない。

しかし、その人間同士で常に争い、略奪し、時には命さえも奪っている。

そんな生物が、地球を支配していると言えるのだろうか。


否!!


大切なのは、自分の生きたいように生きれるかだ。

大空を自由に羽ばたき、食べたい時に食べ、眠りたい時に眠る。

人間並みの知力を有し、生き抜く為の物資を調達し、後は自由に楽しむ。

つまり、真にこの地球を支配しているのは鳥なのだ。

いや、人類にはまだ知られていない「未知の鳥」というべきか…。


人々を見下ろすその黒い影は優雅に翼を広げた。

片方の翼だけで胴体の3倍はあろうかという長さだ。

何度か羽をバタバタさせる。

そしてあっという間に広大な青空へと飛び立つのだ。


人間の世界には「輪廻転生」という概念が存在する。

人は死んでもその魂は生き続け、別の生物として生まれ変わり、来世を生きるという考えだ。

生まれ変わった時には、前世の記憶はなくなっているので、輪廻転生の有無は、生きている人間には確認しようがない。

ある者は輪廻転生があると信じ、またある者はそんなものは存在しないと、輪廻転生を信じる者を糾弾する。


しかし、断言しよう

輪廻転生は存在する。

しかも、ごく稀に、人間だった頃の記憶を保持したまま、そして人間と同レベルの知能を有したまま、生まれ変わるケースがあるのだ。

はてさて、生まれ変わったこの体で、今日は何をしてくれようか…。



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