第80話 目撃

「他にお聞きになりたいことはございますか?」


 沈黙を破りシモンがそう問いかけるが、リオは首をふる。


「いえ、もう大丈夫です。ご協力、本当にありがとうございました」


 リオはそう言って深々と頭を下げた。




「いやー、やっぱり気味悪いっすねー」


 ジラール家を出たあとライナが身震いしながらそう言ったが、リオは答えなかった。


「お嬢!!」


 ライナが強く呼びかけ、リオは「わっ」と驚く。


「あー、ごめん……」


「さっきからやたらと考え込んでますけど、なんかわかったんすか?」


「いえ、まだ何にも。わからないことだらけよ」


 リオはそう言ってため息をつく。


「でも、ちょっと引っかかることがあるのよね……」


「引っかかること?」


「いえ、私の考えすぎかもしれない。とりあえずリストの家を全部回ってみましょう」


 リオは懐から“消える死体”のリストを取り出し、ここから一番近い住所を選び出した。




 それから2日かけてリオとライナはリストの家を全て回った。


「これで最後の14人目……」


 リオは14人目の家をでてきたあと、リストに最後のチェックを入れた。


「はあ……やっと終わりましたねー……」


 ライナはそう言って、両手を上げて背を伸ばした。


「ライナ、どう思う?」


 リオはリストに目を落としたまま静かにそう問うた。


「俺にわかるわけないでしょ。さっぱりですよ。一番気になってたのは死体がどんな風に消えるかでしたけど、どれもばらばらだし」


「そう、ばらばらなのよね……」


 リオは“消える死体”の遺族から聞いた話を振り返った。

 ライナの言う通り、一番気になっていたのは死体が消える瞬間だった。

 だが、その様子は、「光の粒子のようになって消えた」、「煙のように消えた」、「まばゆい光を放ったあと消えた」、「水蒸気のようになって消えた」など様々だった。

 だが、最も多かったのは「消えた瞬間を見ていない」だった。


 最初からもしかしたらと思ってはいたけど、この現象ってやっぱり……


 リオがある仮説に思いを巡らせていたところで、遠くからリオを呼びかける声が響いてきた。


「リオさーん!!」


 その人物は20代の男で、王都に展開した治療施設の統括を行っている本部のスタッフだった。

 治療施設の運営上の問題や重症患者が発生した場合に備えて、リオと連絡がつくように今日の訪問先を伝えていたので、それを頼りにここまで来たのだろう。


「どうしたの?」


 リオは何か問題が発生したことを察し、短くそう問うた。


「自宅で療養していたある高齢患者が急変したらしいんですが、それがかなり重篤らしいんです!! それでリオさんに直接診てもらえないかと連絡がきてるんです」


「わかった!! すぐ行く!! 場所は!?」


 リオはその重症患者の住所を聞き、その場所に急行した。



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