第45話 天賦

 1時間後、外科結びの基本を一通り教え終わったが、リオは驚愕していた。


 この子、センスの塊だ……


 パルス王女は両手結びをすぐに習得してしまい、今はもう片手結びの練習に入っているが、それもすでにリオと遜色ないレベルに達していた。


 それに、すごい集中力……


 パルスはリオと同じように椅子の肘掛けを軸に、片手結びで糸を結んでいるが、瞬き一つせず一心不乱に結び目を作り続けている。


 これは、明日にはあたしより上手くなってるわね……


 結び目を何十も作り、手元の糸が短くて結べなくなったころ、ようやくパルスはその手を止めた。


「いかがですか!? リオさん!!」


 パルスは目を輝かせながら、手技の出来栄えを確認してきた。


「申し分ありません。このまま練習を続けながら、徐々に実戦でも試していってください」


 リオの言葉に満足し、「ありがとうございます!!」と礼を言い、はさみをとりだして、糸の根本の輪を切った。


「では、次は持針器を使った機械結びを……」


 リオが次の手技の指導に入ろうとしたところで、ライナが声をかけてきた。


「お嬢、そろそろ……」


 そう言われて、リオは「あっ」と窓から外を見る。

 まだ明るいが、日はだいぶ傾いてきている。

 ここから礼拝所の病院に戻るのに2時間以上かかるので、そろそろ帰らないと日が暮れてしまう。


「パルス様、申し訳ありません。私どもはそろそろ戻らねばなりません。もしパルス様が宜しければ、また明日の午後に御伺い致しますので、続きは明日ということに」


 リオは心苦しそうに頭を下げた。


「名残惜しいですけれど、致し方ありませんね。明日の午後の予定を空けておきますので、是非お願い致します」


 そう言って、パルスも頭を下げる。


「ところで、リオさんとライナさんはどちらに滞在しておられるのですか?」


「西のファブール区です」


「もし宜しければ、私の客人として王宮の客室に滞在されませんか? そうすれば、時間を気にすることもなくなりますし」


 その話を聞いて、リオとライナは仰天して顔を見合わせた。

 王宮の客室に滞在するなど、国賓クラスの待遇である。

 食事から寝室のベッドまで、すべてこの国の最高級のものであろう。

 そんな経験、これから先死ぬまで二度とないだろう。

 リオは一瞬その話に飛びつきそうになったが、すぐに礼拝所の病院のことが頭に浮かび、ため息をついて諦めた。

 なによりリオは伝染病を鎮圧するために王都に来たのだ。

 王宮で優雅に過ごしているわけにはいかない。


「身に余るお心遣い痛み入ります。ですが、実は今、私達は伝染病の治療施設のようなものを運営しておりまして、そこを離れるわけにはいかないのです」


 リオはとても心苦しそうに断ると、そこでパルス王女は目の色を変えた。


「治療施設!?」



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