第25話 決断
オットーの母親は血相を変えて彼をたしなめた。
「オットー、何を言ってるの!? この人の言っていることがどういうことかわかって言ってるの!? 」
「わかってるよ!! だって、このお姉ちゃんの言う通りじゃないか!? 魔法省の護符も、薬草も、全然効かないじゃないか!? それなのに、税金はむしり取っていく!! でもこのお姉ちゃんはタダで父ちゃんを治してくれるって言ってるんだよ!!」
オットーの言葉に母親は閉口した。
魔術はこの世界の絶対的な力の象徴だ。
だが、伝染病という未知の脅威によってその地位は揺らぎ始めている。
人々の心の中に魔術の絶対性を疑う心が芽生え始めているのだ。
オットーはさらに畳み掛けた。
「母ちゃんも聞いただろ。昨日、向かいのロニーの父ちゃんが死んだんだ.........」
その言葉に母親の表情は一気に曇る。
「ロニーも他の家族もわんわん泣いてたよ。すっげーかわいそうだった。けど、次はうちの番かもしれないんだよ........」
オットーの目には涙が滲んでいた。
母親は震えながら、自分の夫の方を見た。
変わらず苦しそうに息をしている。
だが、その呼吸もあと何日続くかわからないのだ。
母親はリオの方に向き直った。
「本当に、その器具で夫は助かるんですか?」
「絶対ではありません。ですが、助かる可能性は上がります」
リオは彼女の目をまっすぐに見た。
これ以上の言葉は無意味だ!!
見極めてもらうしかない!!
私の思いを!!
母親はため息をついたあと、絞り出すように言葉を吐き出した。
「わかりました.........やってください........」
その言葉を聞いて、リオは頭を下げた。
「ありがとうございます!!」
リオはオラフの方に向き直った。
「ライナ、介助おねがい!!」
「はいよ」
リオはベッド際に屈み、懐から太いゴムのひもを取り出し、オラフの上腕を縛った。
心臓に帰っていく静脈血が流れを遮られ、静脈が浮き出てくる。
と言っても、脱水のためその血管はか細い。
リオは入念に血管を確認し、穿刺ポイントを定める。
場所が決まったことをライナが悟り、無言で消毒用の綿球を差し出し、リオも無言で受け取る。
リオが穿刺点を綿球で消毒し終わると、ライナは次にの点滴の先端の針を差し出してくる。
針先がリオの手に刺さらないよう、先端を自分の方に向けていた。
ライナはリオの点滴の処置の手伝いをもう何百回と行っており、今では無言で動ける程になっていた。
リオは受け取った針の先端を、一点の迷いもなく静脈に突き刺した。
先端が血管壁を越えた軽微な感触がリオの手に伝わる。
針先が血管内にあると判断し、上腕を縛っているゴム紐を解いた。
「流して」
最後のここだけは重要なところなので、リオもはっきりと指示を出す。
その指示を受けて、ライナが点滴チューブの途中にある金具を操作する。
革袋のなかの液体が血管に流れてこんでいく。
ここで針先が血管から外れていたら、点滴は皮下に広がって膨れてくるが、そんな気配はない。
「速度は全開で」
点滴はどんどんと血管内に流れ込んでいった。
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