第6話 診断
リオは鞄の中から小さな薄いガラス板といくつかの薬品を取り出した。
関節液をガラス板上に少量乗せ、薬品の一つを一滴たらし、その上にさらに極薄のガラスを載せる。
「ライナ、顕微鏡出して」
「へーい」
ライナはそう言って背負っていた木箱を下ろす。
中から出てきた物は、金属性の筒と台座だった。
リオがそれらを組み立ててると確かに顕微鏡のような形になった。
この顕微鏡も協力者のクラフターたちとともに制作したものである。
この顕微鏡にはレンズが二枚仕込まれており、元の世界の光学顕微鏡とほぼ同じ構造である。
だが、この顕微鏡にはこれだけでは足りないものがある。
“光”だ。
リオは関節液の載ったガラス板を筒の下にセットした。
そして、別に持っていた魔法陣のような紋様が描かれた紙を顕微鏡の横に広げる。
リオはその紋様に手を翳し声を発した。
「ルクス」
その声をで紋様の上に5cmほどの光球が現れる。
「コンデンサティオーネ」
リオがそう言って台座に乗ったガラス板を指し示すと、光球からガラス板に向けて、光の筋が走り、観察対象の液体を照らしている
リオが今行ったのは、光を生み出す魔術の応用であった。
これこそ、この世界でリオが開発した魔法と科学を組み合わせた魔法顕微鏡とも呼ぶべき代物である。
この光魔術を組み合わせたのはただ単に光源という役割を果たしているだけでなく、当てる光の性質を変えることができ、対象物を様々な形でとらえることができるのだ。
準備が整い、リオは顕微鏡を覗き込んだ。
先程検体にたらした薬品は元の世界のメチレンブルーとほぼ同じもので、細菌を見やすく染色できる。
もし、この染色で菌が見えれば、男の診断は化膿性膝関節炎ということになる。
そうなると、かなり治療は厄介だ。
だが、顕微鏡を覗き終わったリオは「ふぅ」と安堵のため息をついた。
関節液の中に細菌はいなかったのだ。
リオはもう一度関節液をガラス板に載せ、今度は薬品をかけずにカバーガラスを載せ、台座にセットする。
そして、また光の呪文を唱える。
「ポラリゼーション」
光は心なしか色調が変わった。
リオは再び顕微鏡を覗き込んだ。
そして.........
「ビンゴ!!」
リオは感嘆の声を発した。
そして、老人に向き直る。
「あなたの病名がわかりましたよ!!」
「なんですって.........私は何の病気なんです..........」
「あなたの病名は.........」
リオは安堵の笑みを浮かべながら、その名を口にした。
「偽痛風です」
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