第2話 転生

 倉田莉緒31歳。

 呼吸器内科専門医を取得し、専門医としてこれからというところだったある日、病に倒れた。


 スキルス胃癌。

 他の胃癌と比べて、若年女性に発症しやすく、進行が速い。

 発見時には他臓器転移や腹膜播種をきたしていることが多く、極めて難治性であり、予後不良の癌である。


 倉田莉緒も発見時にはすでに腹膜播種をきたしており、手の施しようがない状態だった。

 数か月後、倉田莉緒は他界した。

 しかし、倉田莉緒の魂は、幸運にもというべきか、不幸にもというべきか異世界に転生した。


 異世界ヌーラ・メディシナ。

 ここは医学が存在せず、代わりに白魔術が怪我と病を治す世界だった。

 莉緒はとある国の地方貴族の末娘に生まれ、幼いころから白魔術師になることを志し、彼女のこの世界の両親はそれを素晴らしいことだと歓迎した。

 10歳になったとき、莉緒は白魔術師養成の名門アルブス・マギ学院に入学した。

 莉緒はこの世界の白魔術を学びつつ、元の世界の医学知識を白魔術に取り入れ、独自の理論と技術を構築し、6年間の課程を終える頃には希代の天才と呼ばれるようになっていた。

 学院を卒業し、国際認定試験に合格し晴れて白魔術師となった莉緒は、自身の名前を前世の名前にちなんでリオ・クラテスと改名した。

 希代の天才としてすでに名声を手にしていたリオは、宮廷魔術師でも、学院の助教でも、就職先はよりどりみどりだったが、リオはフリーの白魔術師として世界を旅することにした。

 世界を見て回りながら、自身の医学知識を世界に広めようと考えたのだ。


 そして、今、リオはとある国の首都に向かっていた。

 その首都では1か月前から伝染病が流行しており、死者が何人もでているのだという。

 リオの目的はその伝染病を調査し、治療法を確立することだった。


 その首都にに続く街道沿いの小さな街。

 リオは昨晩、この街に着き、宿屋に泊まったのだった。


 リオは窓から入ってくる朝の空気を思いっきり吸い、その細く華奢な体を上下に伸ばした。


 リオの泊まった部屋は3階にあり、街を貫く大通りが端から端までよく見渡せた。


 と、そこで、道行く人々がなにやら騒いでいるのにリオは気づいた。


「大変だ!! 靴屋の爺さん、昨日の夜から熱を出してるらしい!!」


「まさか、王都の伝染病じゃないだろうな!?」


「おい、あの爺さん、1週間前に靴を売りに王都まで行ってなかったか!?」


「ああ、今はやめとけって言ったに、もう今年の蓄えがないって言って!!」


「間違いない!! 王都の伝染病だ!!」


「なんてことだ!! とうとうこの街にも来ちまったのか!?」


 騒ぎの内容を聞いて、リオは冷や汗をかきながらも不敵な笑みを浮かべた。


「向こうから来てくれたってわけ?」



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