後編 敬意の絆

 滝から落ちる水は、滝壺で跳ね返り、白い泡とともに舞い上がります。水しぶきが舞う中、滝の周りは緑豊かな植物に覆われています。大木や苔むした岩々が谷間に連なり、空気は新鮮で清涼感に満ちています。森の中には、小鳥たちの歌声や、葉や枝のざわめきが響き渡り、時間が止まったかのような静かな空気感が漂います。太陽の光が差し込み、木漏れ日が緑の葉っぱを照らし出します。全身に心地よい涼風を感じながら、森の中を歩くと、神秘的な遺跡が現れます。静かな森の中に、過去の歴史を感じさせる建物が佇んでいます。滝や渓谷の音、鳥のさえずり、風の音が響き渡る中、遺跡の美しさは際立っています。

 ケイエは学校の校外学習で遺跡に来ており、周囲は自然に囲まれた静かな場所です。しかし、途中で同級生のネガルがいなくなってしまいました。生徒たちは心配し、ネガルを探し始めました。森の中を探していると、滝の音が聞こえてきます。それはまるで森を包み込むように響いていました。生徒たちは滝に近づいていくと、そこには壮大な滝が現れました。水の流れは力強く、岩肌にぶつかる音が響いています。滝の周りには苔や草木が繁茂しており、美しい景色が広がっていました。生徒たちはネガルを探しながら、この美しい景色を堪能していました。しかし、そこで彼らは思わぬ光景を目撃します。


 岩場の上にネガルは苦しそうに立っています。ネガルが不気味なノイズを纏い、その姿は次第に人間離れしたモンスターへと変貌していきます。生徒たちは恐怖に震え逃げ出し、ケイエだけがその場に残って立ち向かう覚悟を決めました。

「ネガル、大丈夫?」とケイエが尋ねるも、その声はかき消されるほどの轟音が響き渡りました。


 モンスターは手にした巨大な鎌でケイエに斬りかかります。ケイエはかわし、魔法の剣を振るいましたが、それを容易にかわされてしまいます。そして、モンスターは再び襲いかかってきました。


 しかし、ケイエは絶対に負けられないと決意し、身体に力を込めます。光の粒子が彼女の体を包み込むように舞い上がり、突如、ケイエ自身も光を纏った姿へと変身しました。


 モンスターとケイエは剣を交え、激しい戦いを繰り広げた。しかし、ケイエは戦いの中でネガルを見つけ、彼に対して説得を試みます。


「ネガル、大丈夫だよ。私たちが一緒にいる。どうか、自分を取り戻して…」


「敬意を持つことの意味がわからねぇ」と、ネガルは反論しました。


「俺は幼少期から周りから十分な敬意を受けられなかった。俺が自分自身に対しても敬意を持てないのに、他人にも敬意を払うことができるわけがないだろ。それに、お前らだって、俺に対して敬意を持っているわけじゃねぇだろ」

 ネガルは口調を強めて言いました。

「俺は自分を受け入れてもらえない存在だと学んだんだ。だからこそ、俺はモンスターとして生きることを選んだ。お前らは俺を受け入れてくれなかった。だから、俺もお前らを受け入れねぇ」


 ネガルとケイエは相手を凌駕する攻撃力を持っていましたが、ケイエは強靭な身体能力を持っていたため、ネガルの攻撃を一方的に受け流していました。ネガルは一瞬の隙を見つけて、鮮やかな爪でケイエを攻撃しました。しかし、ケイエはすばやく反応し、その攻撃を軽々とかわしました。ネガルは軽い驚きを隠せなかったようでした。ケイエは追い打ちをかけるように、ネガルに向かって突進しました。ネガルはそれをかわし、反撃を試みましたが、ケイエはその攻撃を簡単に受け流しました。彼女は優雅な動きで攻撃をかわし、ネガルに近づきました。


「ネガル、あなたが周りから十分な敬意を受けられなかったことは分かります。でも、それはあなたが敬意を払うべき人々にも敬意を払えなかったからだと思います。あなたが自分自身に対しても敬意を持てないなら、まず自分自身に対して敬意を持つことから始めてください。あなたが自分を大切にしなければ、他人からの敬意を受け取ることはできないと思います。私たちはあなたを大切にしています。だからこそ、あなた自身が自分自身を大切にすることが大切だと思います。」


 ネガルは軽蔑の表情を浮かべ、新たな攻撃を仕掛けました。しかし、ケイエは軽やかな身のこなしでそれをかわし、再びネガルに近づいていきました。ネガルは驚愕したような表情を浮かべ、ケイエの身のこなしに興味津々の様子でした。ケイエはネガルの攻撃を容易にかわしながら、彼女自身の攻撃を準備していました。そして、一瞬の隙を見つけて、強力な攻撃をネガルに浴びせました。ネガルはそれを受け、意識を失いました。ケイエはネガルの倒れた姿を見つめ、彼を助けようとする気持ちが芽生えました。彼女は優しい表情を浮かべ、ネガルに近づきました。


 ネガルが倒れた後、ケイエは疲れた体を押し付けたまま、倒れ込んでいました。しばらくの間、彼女は深呼吸をして、周囲の状況を確認しました。森の中はまだ静かで、鳥たちのさえずりだけが聞こえました。しかし、ケイエはまだ警戒し、周囲を見回しました。


 しばらくの間、何も起こらなかったため、ケイエは疲れた体を引き起こし、ネガルの様子を確認しました。彼はまだ倒れていて、意識を失っているようでした。ケイエは彼を優しく起こし、彼の顔を見ました。彼の表情は穏やかで、彼が安心して眠っているようでした。


 ケイエは彼を抱きかかえ、森を抜けて、学校に戻りました。学校では、彼女を待っていた生徒たちが、ネガルがどこにいるかを聞いてきました。ケイエはネガルが倒れたことを告げ、彼を助けるために学校の医務室に行くことを提案しました。


 生徒たちは同意し、ケイエと一緒にネガルを医務室に連れて行きました。医務室で、彼は適切な治療を受け、すぐに回復しました。


 ケイエはネガルを医務室に運び、治療を受けさせました。ネガルが目を覚ましたとき、ケイエは彼の横に座っていました。


「大丈夫? 痛いところはない?」とケイエが聞きました。


 ネガルは何も答えず、ただゆっくりと頭を振りました。


「ネガル、君がモンスターになる前の姿を覚えていますか?」とケイエが尋ねました。


 ネガルは少し考えた後、うなずきました。「覚えてる。でも、あの頃の自分は弱かった。誰にも敬意を払われず、自分自身にも自信がなかった」


「でも、今の君は違うよ。君は強くなった。そして、あなたに対して敬意を持っている人がたくさんいる。私も含めてね。」


「でも、俺はお前に傷つけられたんだ。どうしてそれを許せばいいんだ?」とネガルが問いかけました。


「私はあなたを許すよ。だって、あなたは人間だもの。誰だって間違いを犯すことがあるし、傷つけられることもある。それでも私たちは、自分自身や他人を許してやらないといけないんだよ」


 ネガルは黙り込み、しばらく考え込んでいました。そして、静かに言いました。「ありがとう、ケイエ。君がいなかったら、今頃は……」


「当然だよ。だって、私たちは友達だから。」


 ネガルはケイエに微笑んで、彼女の手を握りしめました。そして、泣きながら言葉を発しました。「ごめん、本当にごめん。」


 ケイエは彼の手を握り返し、微笑みました。「もういいよ。私たちはもうここから新しいスタートを切るんだから。」


 ケイエとネガルは医務室で座り、話し合っていました。ネガルは自分が間違っていたことを認め、自分が幼少期から周りから十分な敬意を受けられず、自己価値感が低いということが原因だと告白しました。


 ケイエはネガルに向かって言いました。「でも、敬意とは、素晴らしい点を評価することだけではないと思います。醜いものや邪悪なものでも、敬意を持って接すれば、それが素晴らしいものに変化することがあります。私たちは、事態を好転させることができます。あらゆるものに敬意を払うと、最もありふれたものでさえも非凡なものになることがあります」


 ネガルは驚きの表情を浮かべましたが、ケイエは続けました。「今、私たちはこの場にいます。そして、私たちは、お互いに敬意を持って話し合うことができました。私たちは和解し、未来に向けて前進することができます」


 ネガルはケイエの言葉に深く感動し、頷きました。「あなたが言う通りです。私たちは過去を変えることはできませんが、未来は変えられます。今日から、私たちは新しい出発をすることができます」


 二人は、過去の出来事を乗り越え、未来に向けて新たな一歩を踏み出しました。敬意を持って接することができたことで、彼らは友情を深め、共に歩んでいくことを決めたのです。


 数ヶ月が経ち、ケイエとネガルは学校で普通の生活を送っていました。彼らは新しい友情を築き、より良い人間関係を持つために、お互いに努力していました。


 ある日、学校で行われた音楽祭に出演することになりました。ケイエはネガルに声をかけ、一緒に演奏することに決めました。彼らは一緒に練習し、ステージに立ちました。演奏が始まると、ケイエとネガルは素晴らしいハーモニーを奏でました。


 彼らの演奏は会場を感動の渦に巻き込み、多くの人々が涙を流しました。それはまるで、彼らが以前に持っていた敵意や争いが、音楽の力で癒され、新たな友情が生まれたかのようでした。


 その後、ケイエとネガルは音楽を通じて多くの人々と出会い、彼らの心に響く素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。そして、彼らが持っていた敬意と和解の力が、彼らの周りの人々を幸せにしていくのでした。

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