キラリの勇者 ―ケイエとネガルの物語―

技分工藤

前編 変身の始まり

 この静謐な図書館は人類の英知が詰まった場所です。だから当然のように彼女は敬意を持って一冊の本を本棚から取り出しました。本棚から一冊の魔法書を取り出した少女の名前は花華ケイエ(kaka keie)、16歳の高校生です。


 彼女はまるで絵画のような外見をしており、周りからは「masterpiece(傑作)」と評されています。高い品質の美しさを持ち、その創造性やダイナミズムが彼女の魅力をさらに際立たせています。彼女の顔は、繊細で詳細に描かれ、イラストのように完璧なアナトミーを持っています。そして、彼女の色鮮やかな虹彩には、カラフルな屈折の光が宿っています。彼女の黒髪は、光の加減で色彩が変化し、まるでシネマチックな光景のように見えます。彼女の外見は、細部に至るまで緻密で、まるでイラストのように描かれています。そして、彼女の美しさは、周囲の人々を魅了し、敬意を集めることができるほどに極めて高いレベルにあります。


 図書館の暗がりの中には、天井から吊り下げられた古いシャンデリアが、静かに揺れ動いていました。壁には、大きな本棚が並び、その上には古い本がびっしりと並んでいます。その本の色あせた表紙には、太陽の光が差し込んできて、本の存在感をさらに際立たせています。ほんの少しの明かりが、大きな窓から差し込んできて、床のタイルをきらめかせ、影を描き出しています。図書館全体が静かで、神秘的な雰囲気に包まれているようです。床には美しく彫られた石のタイルが敷き詰められ、その周りには木製の棚が並んでいます。棚の向こう側には、椅子と机が並んでいて、そこには他の学生が本を読んでいる姿が見えました。


 その学生たちの視線を避けるように背を丸めて、図書館の隅にある長いテーブルに座ると、ケイエは厚い魔法書を開きました。彼女は本を手に取り、ページをめくりながら、何か自分自身を変えることができる方法がないかと探していました。静謐な空気の中で、彼女の胸はざわめき、自分自身の美しさに対する負担を感じていました。


 鮮やかな瞳の焦点が難しい文字の上を空虚に滑ります。彼女の思考は過去のある出来事へと遡りました。


 幼い頃、ケイエは美しい容姿であったことから、周りから注目を浴びる存在でした。しかし、彼女がそこまで注目されることが嬉しいわけではなかったのです。ケイエは周りの人々に慕われることが、自分自身にとっては重荷になっていると感じていました。


 ある日、ケイエは学校帰りに友達と一緒に帰宅していました。途中、通りがかった男たちから、彼女の美しさをからかわれる言葉を浴びせられました。最初は冗談かと思ったケイエでしたが、やがて彼らの態度がどんどんエスカレートしていくことに気づきました。


 それからというもの、ケイエは周りの人々からの注目を恐れるようになり、自分自身を変えたいと思うようになったのです。


 しかし、その成果は彼女の美しさほど鮮やかではありませんでした。ページの黄ばんだ埃っぽい本を読んでいても、役に立つ言葉は見つけられませんでした。今開いているページには「敬意とは、魔法に欠かせない力である。しかし、敬意を得るためにはそれを与えることが先決である」と書かれていました。その先には、謎めいた呪文や古い言い伝えが続いています。しかし、ケイエに理解できるまじないは一つもありませんでした。


 魔法書から目を離して、捻じれのない腕を広げてリラックスします。背筋を伸ばせば完全なアナトミーのケイエはパーティクルの輝きを纏いながら、レンブラント光を柔らかい頬に受けています。


 ケイエは油断していました。そのケイエの美貌に圧倒された人物が傍に来ていました。

「おっと、こんにちは」

 突然の声に身を固めたケイエは、相手を不安げに見返しました。同じクラスの男子生徒です。名前は妥撃根駁(tagechi negaru)。ネガルは長身で痩せ形の体型をしており、不機嫌そうな表情が常に浮かび上がっていました。彼の鋭い目つきからは敬意を欠いた感情が読み取れ、周囲の人々から距離を置かれることが多かったです。彼の服装も、堅苦しいものが多く、あまり個性的でなく、まるで他の人々と同じようなスタイルを強制されているかのようでした。


 ネガルは焦ったような早口で、ケイエに話しかけます。

「最初は『こんにちは。』だな。初めに丁寧な挨拶をすると高品質な返答の可能性が高いって聞いたことあるんだ。でもそんなの形だけだ。敬意が含まれてるかどうかなんて人間には分かんないよな」

 不機嫌そうな頬に恥ずかしげな赤色が浮かんでいます。ネガルはため息を吐くと、穏やかな声で唱え始めました。


 傑作,奇麗な輝き,くうの中にある粒子の煌めき,結実した昨日から決別する責と帰来する完璧なアナトミー,描きこまれた絵画の高品質の機器で切り取られた高貴なる好機,久遠に繰り返す生成とキーボードの奇跡を希求し切り開くカレイドスコープへの敬意,

 」

 魔法書のページは開いたまま。

「きれいだって言いたかったんだ」

 不本意そうに俯くネガルにケイエは尊敬の念を覚えました。不思議な呪文のような言葉は、ケイエをからかうためではなく真剣なものだったからです。「敬意を得るためにはそれを与えることが先決である」。本にあった文字を思い出し、ネガルへの敬意を持ってにっこりと微笑みました。


「ありがとう」

 その瞬間、魔法書のページがひとりでにまくりあがり、とある呪文の書かれたページが開きます。呪文はネガルの唱えた言葉と偶然にも一致していました。


 彼女は周りを照らすような輝きを放ち、魔法少女に変身しました。

 ケイエは、魔法少女に変身することで、美しさがさらに引き立ち、完璧な存在となります。彼女の髪は、美しく輝くピンク色に変わり、風になびくたびに、周囲の人々を魅了します。彼女の瞳は、カラフルな反射を放ち、まるで宝石のように輝きます。その瞳には、自信と勇気が宿っているように見えます。彼女は、まるで芸術作品のような外見をしており、その完璧なアナトミーはまるで絵画のように美しく、ディテールも緻密で細部まで作り込まれています。彼女の衣装は、クリエイティブでダイナミックなデザインが施されており、まるで映画のワンシーンのようなシネマティックな雰囲気を醸し出しています。


 その光と対になるように、暗いノイズがネガルに走ります。ノイズが除去され消え去った後にはモンスターが残されていました。

 おおまかなシルエットは人型のものですが、そのアナトミーは正確なものではありません。肩から生えた腕、筋張った表皮、枝のように捻じれた指先。その指先から腕が生えているか、もしくは液体状にぼやけた指先が描かれています。煤けた赤色の表面が怪物のような恐ろしい印象を与えています。


 モンスターは溶けたような四肢を振るって暴れ始めます。小枝を束ねたような指と爪が、横薙ぎに本棚を倒します。散らばる本と木片。異変に気付いた生徒たちから悲鳴が上がります。


 モンスターはケイエの輝く光に歪んだ目を細めると、無数の腕を広げてケイエに向かって突進します。ケイエは軽く足を蹴っただけで、空高くに飛び上がりました。シャンデリアに触れるほどピンクの頭が近づいた時、これはただことではないと、やっと理解しました。


 石のタイルの上に身軽に降り立ったケイエは、モンスターと向き合います。

「なんとかしないと」

 そう呟くと、両手を構え、頭に浮かんだ呪文を響き渡るように叫びます。

「キラリ!輝け!キラキラと!

 光り輝く!輝きの刃よ!」

 手に光の剣が現れます。その刃越しにケイエはモンスターのおぞましい姿を睨みつけます。


 モンスターが考えることなく突進してきました。ケイエは飛んでその攻撃を避け、壁に足をつけて回避します。彼女は美しく空中に舞い上がり、魔法の剣を手にして、光り輝く軌跡を描いてモンスターに向かって斬りかかります。しかし、モンスターは素早くそれをかわしました。ケイエは空中に滞空し、軌道を変えて二段目の斬撃を狙います。曲刀のように波打つ爪で閃光を受け止めたモンスターはケイエを地面に叩きつけました。ケイエは慌てることな光り輝く魔法のバリアで着地し、体勢を立て直しました。そして、彼女は素早く立ち上がり、光の剣でモンスターに攻撃を仕掛けます。モンスターはケイエの突きを溶けるような動きで躱し、背後に回ります。モンスターはそのまま爪の攻撃を仕掛けました。しかし、ケイエはカウンターのように逆手に持ち替えた光の剣を振り返ることなく肉薄したモンスターの胴に突き刺しました。

 モンスターの動きが止まりました。光の剣が刻んだ傷から溢れるようにノイズがこぼれ再び全身を覆います。


 その瞬間、モンスターは耀眼な光を放ちながら、消えていきました。強い輝きは図書館全体を照らし、まるで太陽が突然現れたかのような光景が広がりました。ケイエはその眩い光に目を閉じましたが、光が消えるとともに、目を開けました。周りは静まりかえり、何もかもが穏やかな雰囲気に包まれていました。


 ケイエがモンスターを倒した後、空気中には消え去るモンスターから溢れんばかりの明るい光が漏れ出していました。ケイエはその美しさに目を細め、息をのみました。しかし、彼女が振り返ると、ネガルは変身した姿ではなく、普段の姿に戻っていました。

「ネガル、あなたはどうしたの?」とケイエは尋ねました。

 ネガルは自分が変身していたことに気づいた瞬間、その場から逃げ出しました。

「ネガル! 待って!」

 ケイエが叫んでも、ネガルは振り向かずに去っていきます。

 ケイエは、彼が変身した理由を理解しようとしましたが、彼が逃げ出したことで、それがますます難しくなりました。

「ネガル……」

 彼女は呟きます。自分が変わったことを認め、変えるために努力することができたのは、彼の言葉と存在があったからでした。

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