第4話 過剰反応
俺たちは、練習だろうが本番だろうが、その後の休憩だろうが、大抵カメラを向けられている。会社のカメラがビハインド動画を撮っていて、後で編集して公開するのだ。ファンの前に姿をさらせば、ファンがどこからでも動画を撮っているし、テレビの本番中はもちろんカメラに撮られている。
つまり、本当に家の中にいるプライベートな時間以外、テツヤ兄さんとくっついてはいけない時間はずっと続くのだ。他のメンバー達も気を付けてくれて、俺とテツヤ兄さんがちょっと隣になろうものなら、すぐに誰かが割って入り、俺たちを引き離す。ありがたいけれども・・・寂しい。今までなら、いつもテツヤ兄さんの存在を感じていられたし、すぐテツヤ兄さんは俺の事を抱きしめてくれたから、その幸せは常に俺の側にあった。
いっそ会えないなら、辛くとも吹っ切れる気がする。だが、目には映っているのに、すぐ側にいるのに、触れる事が一切出来ないというのがまた、寂しい。寂しさをずっと感じるのだ。だいたい、
「あ、テツヤ兄さん、これ。」
って、テツヤ兄さんの物を手渡しただけでも、タケル兄さん辺りがすぐに俺たちを引き離しにくるし、他のメンバーもピリピリしていて、過剰反応だとしか思えない。俺は正直、納得出来ない。
「何をプリプリしてるんだ、レイジ。」
ユウキ兄さんが、ふいに俺にそう言った。
「え?何ですか?」
ユウキ兄さんは年が上から2番目だ。シン兄さんは例によってちょっと幼い所があるので、実質一番年長者のような感じだ。落ち着いていて、ちょっと落ち着きすぎていて老けて見える時もあるのだが、時々突然弾けて、親父ギャグを言ってしまう辺りも、やっぱりだいぶ年上に見える。だが、こうやってメンバーの気持ちをすぐに察知して声を掛けてくれるところが、やっぱり優しい兄さんなのだ。
「機嫌が悪いのが丸わかりだぞ。つまり、ファンにもそれが伝わってしまうって事だぞ。」
ユウキ兄さんが言った。そうか、そうだな。反省。
「ごめんなさい。確かに、ちょっとモヤモヤしてました。」
今は撮影を前に、全員のメイクが終わるのを待っているような状態だ。
「テツヤとの事か?」
ユウキ兄さんが言う。
「何て言うか、ちょっと過剰反応なんじゃないかって思って。」
俺が、やっぱりちょっとふてくされて言うと、
「本当につき合っているわけじゃないのにってか?」
ユウキ兄さんがそう言った。俺はドキッとした。ユウキ兄さんの顔を見ると、ニヤニヤしている。うっ、見透かされている気がする。俺は何も言えなかった。
「まあ、喉元過ぎれば何とやらって言うだろ。もしくは、人の噂も75日?少しの間我慢すれば、また自然にしてもいい、というようになるさ。」
ユウキ兄さんが言った。だといいけれど。
一方、テツヤ兄さんも元気がない。回りを気にしてか、俺の方を見もしない。前よりも儚げに見える。美青年が儚げでは、もう綺麗すぎて。いや、そうじゃなくて、テツヤ兄さんの体が心配だ。テツヤ兄さんは繊細なのだ。ファンの言動に傷ついて、食欲を無くしてしまう事もあるのだ。でも、直接声を掛けて元気づける事も出来ない。あ、そうだ。
俺はスマホでLINEを送った。
「テツヤ兄さん、大丈夫?元気ないみたいだけど。」
そんな風に。すると、返事が返ってきた。
「レイジとくっつきたい。でも、出来ない。動画観ちゃった。けっこうショックだった。」
なるほど、動画を観てショックを受けたから元気がないのか。
「観ちゃダメだよ。今日、うちにおいで。」
俺はそうメッセージを送った。テツヤ兄さんから、元気な顔のスタンプが送られてきた。
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