第4話
「ねえ、わたしずっと思ってたんだけど、横になった方が気持ちよく寝られるんじゃないかしら?」
椎葉先輩が、わたしが目を覚ましたタイミングで話しかける。
「いくらふかふかした芝生とはいえ、地面に直接頭を乗せて眠るのは抵抗ありますから」
まあ、椎葉先輩が予鈴直前に校舎に向かう時には、芝生に頭を乗せることになっているのだけど。
今日の椎葉先輩はいつものように適当な返事はしなかった。パタリと本を閉じて、芝生の上に置く。
椎葉先輩が腿から本をどかしたのは初めてかもしれない。そんなことを思っていると、椎葉先輩が腿の上を手で軽くポンポンと叩いた。
「使う?」
「何をですか?」
「膝」
「膝枕ってことですか?」
「ええ、そういうこと」
「わたしの頭重たいですよ?」
「知ってる。いつも肩に乗せられてるから」
わたしたちは淡々と会話を進めた。二人とも顔を動かさずに、視線を合わせることもないから、2人で独り言を言っているようにも思えた。
「先輩が嫌じゃないならお言葉に甘えてお借りします」
肩を借りるよりも腿で眠らせてもらった方が寝心地が良さそうだ。
「嫌だったら提案してないわ」
それならばと思い、わたしは椎葉先輩の肩から頭をどけた。そして、ゆっくりと椎葉先輩の腿に頭を乗せる。柔らかくて暖かい感触がわたしの頭を受け入れてくれた。
これでわたしは今までよりもさらに心地良い睡眠環境を手に入れた。これなら髪の毛に鼻先をくすぐられて途中で起きることもなさそうだし。
「明日からはもう少し早く来るわ」
「わたしに膝枕してくれるためですか?」
「あなたの好きなように解釈したらいいわ」
わたしは椎葉先輩に背中を向けた格好で、また眠ろうとした。けれど、ふと気になった。椎葉先輩の腿の上は分厚い英書の定位置なのに、わたしが使っても良いのだろうか。
「わたしが先輩の膝をお借りしたら本読めなくなりますけど、良いんですか?」
「それは大丈夫。そもそもわたし本は読んでいないから。英語はよくわからないもの」
そうですか、と適当に相槌を打ってから、わたしは眠りについた。
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