親友がハーレム主人公らしいですけど
バリ茶
1.邂逅しました。
2015年:5月2日
どうやら俺は転生したらしい。
今は転生先で中学に上がった記念として、親に買ってもらったスマホで日記を書いている。
今までも家族や友人に隠れながらこっそりノートに日記をつけていたので、三日坊主ということにはならないと思う。
ちなみに日記担当を直筆ノートからスマホへ乗り換える際、証拠隠滅のために今まで使ってたノートは燃やした。
幻の二冊目とかはないので安心だ。カスみたいな恥ずかしいポエムなんて最初からなかった。
──誕生日を迎えて十三歳になった今でも、前世の記憶はそこそこ残っている。
といっても、そこまで思入れがあるわけでもないけど。
確か死因は、高校一年生だか二年生の時に電車に轢かれたことが原因だったはず。
転んでホームから線路に落ちた子供を助けて、俺はホームに上がるのが間に合わなくて、ブレーキをかけつつも止まらない電車にぶっ飛ばされて星になった。ミンチよりひでえかもしれない。
そこまで前世に未練がないせいか、転生当初は混乱こそしたが後悔はしなかったと記憶している。
ガキの頃に事故で両親は他界してたし、親戚の家をたらい回しにされて、結局高校に上がるころには叔父から生活費を貰いつつ細々と貧乏な一人暮らしをする始末だった。
兄弟もいなかったし、天涯孤独で不幸な自分に酔って中二病をこじらせてた時期もあったっけか。
いつもポケットに手を突っ込んでたり、陽キャの後ろで気づかれないように『お前たちはいいよな……俺と違って”闇”を知らないんだから』と心の中で呟きながらニヒルな笑みを浮かべたりとか、思い出したら死にたくなるような鳥肌立つことばっかしてた。いや既に一回死んでるわ俺。
まぁ死んでも悲しむ人間がほとんどいないってのは転生した身としては正直ありがたい。
俺が死んだ後の事とかあんまり考えたくないし。
──あぁ、でも一人だけ。
俺の人生の中でたった一人だけ、特別仲のいい男の親友がいたな。
ずいぶん気のいいやつだったけど、あいつ今頃どうしてるんだろうか。
できれば俺の死に悲しんで一日くらいはふさぎ込んで欲しい。で、そこから忘れたように前を向いて生きて欲しいもんだ。
★ ★
2015年:5月3日
そういえば昨日は転生したこの世界と、自分についての詳しいことを書いてなかった。
別に誰かに見せるものでもないし、あくまで俺にとっては事実でも他人にとっては妄想虚言の類だろうから、むしろ見られたら恥ずかしさでもう一回転生しちゃうかもしれない──じゃなくて、とにかく自分の頭の整理のためにこの日記を書いているのだから、いろいろ書き残しておかないと。
端的に言うと、この世界はほとんど前の世界と変わらない。
といっても知ってる人間がいるとかではなくて、単純に世界観とか文明レベルが一緒ってことだ。
シンプルに言うなら別の現代日本。総理大臣も聞いたことのない名前の人だった。
それから前の世界と特に違う点が、この世界では非科学的な存在がわりと散見されることだ。
やばそうな超能力が使える女の子とか、空を飛べる怪物とか、マスコットっぽい謎の生物とか時代錯誤な着物幽霊とかいろいろ。路地裏とか夜の住宅街でたまに見かけるので、野良猫よりちょっと珍しいくらいの存在だ。
それらは表立って姿を見せているわけではなくて、あくまで日常の影に潜んで生活している。
一昔前のアニメとかラノベとかエロゲにありがちな感じだと思う。
言うなれば王道ってやつだろう。多分悪の集団とか正義の味方もいるんじゃなかろうか。
それで、ようやく自分のことだけど。
つまりは男の子から女の子に生まれ変わったというわけで。転生ってつまり生まれ変わるわけだから、性別が変わっても不思議ではなかったけど、どうせ女に生まれるんなら前世の男の記憶は消しておいて欲しかったとたまに思う。
存在するかも分からない神様に不平不満を漏らすのも虚しいので、記憶が残ってることに関しては一応深くは考えないことにしてるけど。
日記書くのつかれた。ねる。
★ ★
2015年:5月4日
日記なのに昨日はその日のことについて一切書いていないことにようやく気がついた。昨日の夕飯はカレーでした まる
女になった俺──私だけど、この世界では最初から女として生まれてきたこともあってか、そこまで前世に引っ張られて違和感を覚えることはなかった。
しいて言うなら、一回だけマジで間違えて男子トイレに入ったことはある。おしっこしてた男の子がビックリして変な声出してたな。ごめんね。
あと、どうやら趣味嗜好は前世に寄っている傾向があるようで。
つまりは幼少期から男の子が好きそうなことやものばかり好きになっていた。
今でもそれは健在で、クラスの女子と仲が悪いとかそういうのはないけど、主な話題の相手はいつも男子生徒だ。
特に一人、小学校の頃から気の合う男友達がいる。
付き合いの長さやお互いの信頼度から考えて、彼と私は『親友』という言葉が合っていると思う。
もちろん今の私は女なので単純に考えれば仲の良い関係の男女なのだが、こうして中学に上がっても彼と色恋沙汰になることは自然となかった。
あくまで気の置けない友人というだけで……あと、多分私の外見が彼の好みから外れているから、という理由もあると思う。
おっぱいの大きい子が好きらしい。そして私は小さい。背も低い。
同年代の女の子も育ってる子は結構育ってるので、将来的に私が巨乳になることはなさそうだ。安心したような、ちょっと悔しいような。
今日はそんな親友と買い食いしながら帰って……あぁ名前書いてなかった。
その少年の名は
小学三年生の頃に、体育の授業で足をくじいた私を保健室まで運んでくれたのが最初の出会いだ。
あの時は小学生だったし前世の記憶がなかったら普通に惚れてたと思う。あったので惚れなかったけど。
通っていた小学校は2クラスしか存在せず、体育の授業はいつも合同で行っていたので、クラスが別々の私と零矢が知り合うきっかけがソレだったのも割と必然だったのかもしれない。
そんなこんなで、前世と違ってご存命でお優しい両親に恵まれていて、しかし前世と同じようにバカみたいな話をし合える親友と、なんやかんや楽しく過ごしている。
誇張なしに割と不幸だった前世で憧れていた『普通』ってやつが、今のこの生活なのかもしれない。
でもこれを普通と呼ぶには、私は少々贅沢すぎる気がしなくもない。
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