賢者の身代わりスライムだったのがバレて勇者パーティ追放されちゃいました

薬研チユ

賢者の身代わりスライムだったのがバレて勇者パーティ追放されちゃいました



「これでトドメだ!!!」


勇者が振り上げだ剣が光を放ち、魔王の身体を貫く。


「グアアアアアア」


核を破壊された魔王は咆哮のような断末魔をあげその身体はパラパラと塵になって、やがて完全に虚空へと散った。


「やった!俺たちの勝利だ!」


「これで俺たちは英雄だな!」


「ようやく世界が救われましたね」


共に旅をして来た勇者たちは歓喜に沸き、僕もようやく肩の荷が下ろせると安堵した。

そろそろ、この身体にも限界を感じていたのだ。

でももうこれ以上耐える必要はない。元の生活に戻れる。


「勇者と聖女は王都に戻って結婚するんだろ?」


「あぁ。騎士は引退したいって言ってたよな」


「そうだな、報奨金貰って今後は新人の育成でもするかな」


「魔王はもういないから魔物も減ってこれからは平和な時代になるものね。賢者はどうするの?」


「………」


僕は紙を取り出してそこに文字を綴る。勇者たちは見慣れたようにその時間を待ってくれる。


『僕は研究室に戻るよ』


「そっか。結局、お前が話してるところ一度も見られなかったな」


「極度のあがり症だってそろそろ慣れてもいい頃なのに」


『ごめん、緊張して言葉が出てこない』


「そんなんでお前今までどうやって生きてきたんだよ……」


魔王を倒したという気の緩みから、僕もみんなもすっかり和気あいあいとした雰囲気になってしまっていた。


僕に本能的な魔力感知能力がなければ間に合わなかっただろう。


「……!!!」


ドッ!!!


突然さっきまで勇者がいた場所に闇魔法でできた槍が無数に生み出され床に突き刺さる。


「賢者っ……!!!」


勇者に体当たりしてそこに入れ替わった僕を巻き込んで。


「くっ……最期の最期でもしくじったか……」


どこからか魔王の声がそう呟いたが、本当にただの残滓だったようで最後の力を使い果たすと永遠に消滅した。

闇の槍が消え支えを失った僕はそのまま床に倒れこむ。


ドシャ……


「賢者!」


「賢者さん!」


勇者たちが倒れる僕に駆け寄って身体を優しく抱き起こしてくれる。

あぁ、僕はもうダメだ。


ヌルッ……


「あぁ賢者!こんなに血が……血………え、」


「ひっ……!?」


勇者は僕を投げ捨てるように床に放り慌てて後ずさる。投げ捨てられた僕は抵抗も出来ず床に散らばった。


ぼとぼと


手や足が取れてしまった。

けれど僕は痛くはない。苦しくも、熱くも寒くもない。

そんな風に無表情で今を受け止める僕を、勇者たちは化け物を見る目で見ていた。


「おいお前、なんで身体中に穴が空いてるのに生きて、いや、血も出てないんだ……?」


あーあ。これまで完璧に上手くいっていたのに、最後の最後でしくじってしまった。


ひとまず身体のパーツがあちこちに散らばったこのグロテスクな光景を収めるため、僕は身体を伸ばして手足を拾ってくっつけた。手足が元通りになったので僕は立ち上がり彼らと目線を合わせる。

その瞬間、


「おい、動くなよ。動けば切る」


騎士が背後から僕の首に剣を突きつけた。まぁ、当然と言えば当然の結果に僕は抵抗する意思がないことをアピールするために両手を上げた。


「……お前は何なんだ。本物の賢者をどこにやった」


「………」


僕は首を横に振った。

その態度に勇者は苛立ち声を荒げた。


「早く答えろ」


僕は懸命に首を振り、口をぱくぱくと動かす。


「勇者、待って。彼は言葉が話せないんじゃないかしら」


「……確かに、道中一言も話さなかった。最初から……そういうことか」


勇者はキッと僕を睨みつけ質問の仕方を変えた。


「お前は魔王の仲間か?」

僕は首を横に振る。


「お前は俺たちの仲間か?」

首を縦に振る。


「お前の主人は俺たちの仲間か?」

首を縦に振る。


「お前の主人は王国に所属している?」

首を縦に振る。


「お前の主人は国に忠誠を誓っているか」

首を縦に振る。


「……どうやら味方だと主張したいみたいね」


「だが嘘の可能性もある。そもそもなぜこいつが賢者のふりをしていたのか尋問しなければ」


僕は本当に勇者たちの味方だったが、やはり怪しいものとして信用されていないようだ。

こうなるならば、もっと早くに真実を告げるべきだったのかもしれない。伝えていれば受け入れられていたかもしれない。全てバレないでいけるかもしれないと自分を過信しすぎた僕のせいだ。


「お前が賢者に扮したのは何年前からだ」

僕は指で3と示す。


「3年前は勇者として旅に出た頃だな」


「つまり賢者を殺して勇者パーティに入り込んだ?」

僕は首を精一杯横に振った。


「ふむ……なら、賢者は生きているのか?」

僕は首をすくめ、手で分からないとポーズした。


「うーん……お前はゴーレムか?」

首を横に振る。


「お前は悪魔か?」

首を横に振る。


「お前は魔植物か?」

首を横に振る。


「……お前は、スライムか」

首を縦に振る。


その瞬間、騎士の剣が僕の首を裂いた。

同時に勇者が剣を構え、聖女が護りの陣を敷く。


「こいつ、エンドスマイムより強いぞ!気をつけろ」


スライムは種族レベルが低ければ小さく知能も低く大した敵ではないがレアスライムになれば物理無効がつき、ハイスライムにまでなると人を丸呑み出来るほどの大きさになる。エンドスライムでは勇者パーティ全員でかかってもハイポーションがいくつも必要になるほどの強敵だ。

さらに僕は……。


「賢者と騙せるほどの知識も魔力もある。目的が分からない以上絶対に生かしておけない、ここで仕留めるぞ!」


先ほどまで仲間だった彼らが、まるで怪物を見るような目で僕を見る。躊躇なく首を斬り、明確な殺意がある。

もはや僕がいくら敵意がないとアピールしても無駄だろう。

何度も想像した結末の中で、一番残念な結果だ。


僕は和解を諦めこの場から撤退することにした。

離れた頭と身体を2つに分けたまま切れた箇所を再生し、同時に別方向へと走り出す。


「なっ……!?」


分裂し逃げることを想定していなかったためか、彼らは初動が遅れた。その間に一体は窓ガラスをぶち破り外へ、一体は広間の転移装置で逃げ出す。

スライムの逃げ足は早い。スライムは人間より自由な構造故に自由自在に動け疲れも感じないから逃げる知能さえあれば人間は追いつけない。しかもエンド級スライムを個々に分かれて単独で追いかけるなんて無謀な真似はしないだろうから、僕は逃げ切ることに成功したと思っていいだろう。


念には念を入れて魔界を抜け、人間たちがこない未開の大地まで移動し僕はやっと一息吐くことが出来た。

僕は二つに分かれた分体を一つに融合させながら今までのこととこれからのことを考える。


勇者たちが散々疑念を抱いていた、スライムである僕がなぜ賢者として勇者パーティにいる理由といえば、単に本物の賢者の身代わりだ。けれど何か深い事情があるとかでは何でもなく、ただ本物の賢者が極度の人間不信であるという何とも軽い原因だった。



本物の賢者は王宮所属の研究員で、彼は年中研究室に籠り魔法の探求にのめり込んでいた。しかし勇者が選ばれた際に慣例に従いパーティメンバーとして騎士と聖女と賢者が選出され、国で1番魔法を使える者として彼が賢者として選ばれた。

賢者は焦った。何せ彼は極度の人間不信で人見知りでコミュニケーションにかなり難があり、初対面の人間と旅に出るなんて到底無理だったから。しかし、王命であり断ることもできない。

もはや命を絶つしかないとまで思い詰めたとき、彼は影武者を用意することを思いついた。しかし、自分と同じ顔同じ背丈同じ力量を持つ人間を短期間で用意するのは不可能だ。


そう、ならば人間でなければいい。


彼は研究室で飼っていたスライムに自分の身代わりをさせることにした。変幻自在のスライムなら自分に似た姿をとらせることも可能だと信じ、彼は賢者に等しい知恵と己の魔力をそのスライムに注ぎ込んだ。

その割合およそ6割。正気じゃない。

そんな高い知能と高い魔力を持つスライムが誕生してしまえば、国を崩壊させかねない。

反逆者と呼ばれても相違ないほどの頭のおかしい実験だった。そうして研究室で飼われていた平凡なスライムである僕はハイエンドスライムへと進化した。


魔王を倒す旅の最中でさえ僕はその正体を隠し実質“人間擬態縛りプレイ”をしていたわけで、その状態を最後まで隠し通せた僕はもはや地上最強の魔物なのではないかとさえ思う。

旅の中で経験値も随分上がってしまった。


僕は別に人間なんてどうでもいいし、魔王を倒したのも使命感とかはなくて、ただ唯一の友達である賢者の助けになるならと大人しく賢者の身代わりとして勇者パーティに加わっただけだ。

今頃本物の賢者は誰も知らない土地に逃げて好き勝手気ままに大好きな魔法の研究を続けているだろう。

……飢えて死んでないといいけど。


そして正体がバレた今、僕は国指定、いや大陸指定のSS級モンスターとして指名手配される可能性がある。

そうなるともうこの賢者の姿は使えない。


まずは姿を変えよう。


僕は頭の中に新しい姿を思い浮かべる。

どんな姿がいいだろう。

魔物に擬態するのは討伐されるリスクが高すぎるし、人間に紛れるのも人間関係が面倒だ。

なら動物とか?犬や猫なら誰も危害を加えようとは思わないだろう。うん……うん。

よし決めた!


具体的なイメージを身体に伝えていくと、僕の体は縮んでいき両手で収まるくらいのサイズへと凝縮される。

そして俺の身体は、どこからどう見ても雑魚スライムにしか見えないプルプル緑スライムへと変わった。


ハイエンドだろうと僕はスライム。

ちょっぴり変な知恵と力を入れられてしまったけれど、僕はスライムであることを後悔したことはない。

これからは面倒な人間関係とか使命とか何のしがらみも気にしないでただ森でぼんやり草を食べて過ごすんだ。



目指せ!ハッピーのんびりスライム生活!







(あ……ついでに賢者の行方もそのうち調べよう)

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