第56話 スマホの着信とプレゼントと。

 由都と京さんが私の誕生日のお祝いで用意してくれたチーズケーキと京さんが入れてくれた紅茶。

 それから、みさきさんが今日遠くの店舗まで直接行って購入してきてくれたチーズタルト。


 そのうちの三種類のチーズケーキのうち、フロマージュブランを由都と分けて食べている。……嬉しい。

 どうぞ、としてあげたらあーん、で食べてくれた。小さい頃みたいでかわいい。今ももちろん、愛娘はとてもかわいい。


 みさきさんが用意してくれたチーズタルトの白玉と黒蜜ゼリーの甘さが二種類のほうじ茶の香りと相まって、もちもちな食感もたまらない。

 京さんがすすめてくれた紅茶、キームンのお花の香りも主張が強すぎなくて控え目でそれがまた良い。


 そんな感じで、由都と一緒に心ゆくまでケーキ達を味わっていたら、みさきさんのスマホが鳴った。


「……はい、はい、はい!……分かりました。ええと、明日朝8時ですね。大丈夫です。必ず伺います!ありがとうございます! はい、失礼いたします、暦さん」

 みさきさんのスマホへの着信。内定を頂いたところの社員さん? かしら。


「暦君だね。……内定先で何か? 訊いても良ければだけど。」


 ちょっとだけ表情を変えた京さんが尋ねた。暦さん……なら私も聞き覚えがある名前だ。


 確か、京さんの元教え子の方だわ。確か、みさきさんの大学で準教授をされている方の同窓生でいらした筈。

 ……良かった。京さんが卒業してからもちゃんと進路を把握しているような方なら、みさきさんも安心なくらいに頼れる方に決まっている。


「あ、はい。明日朝イチに会社に伺えれば、資料室でお手伝いをさせて頂けるそうなんです。過去にファイリングされた紙ベースの資料をデータベース化しているらしくて、それ関連で。ジャージ持参で来てね、何なら着てきてくれても! だそうです」

「棚卸しみたいだねえ。まあ、暦君なら無茶はしないし、土岐さんに無理はさせないから良いと思うよ。暦君なら会社に掛け合って日給も必ず出すだろうから心配しなくて良いと思う。……あ、じゃあお宅まで車で送るよ。それならぎりぎりまで居られるでしょう?……何時に出る?」


「ありがとうございます! そうして頂いて良いですか? 今、18時だから、30分後に。……しずるさん、すみません。お祝いの最後まで居たかったのですが」

 さすがは、京さん。気遣いが細やかだわ。


 内定先さんからも一目置かれているみさきさんの為に私も、何か……。そうだ。


「ううん、電話でお祝いの言葉をもらって、このチーズタルトまで頂いて。……あ、おにぎりと卵焼き、それから京さんと由都の合作、おいしいサンドイッチ、持って行ってね!……そうだわ、チーズタルト!」

 無理に引き留めたりしないで、差し入れを。


 みさきさんの好きな具材のおにぎり、由都と京さんのサンドイッチ、卵焼き、それからケーキも持って帰ってもらえたらお夕飯とお夜食にしてもらえるわね。


 ……そう、みさきさんのチーズタルト!


 テーブルの上には、まだ全く使われていないみさきさんのチーズタルトのお皿とフォークがあった。


「はい、あーん。……あ、ごめんなさい……つい……」

 ……何をしているの、私……。チーズタルト、みさきさんの、と思ったら、つい、無意識で……。


 みさきさんに、あーん、て……。


 なんで? どうしてなのよ、私! 由都にしてあげて、楽しかったからかしら?


「はい、頂きます。……おいしい。チーズタルトに白玉と黒蜜のゼリーが重なるとこうなるんですね。……待っていて下さい。プレゼント、お持ちしますから」


 みさきさん……。私がフォークを置く前に、あっさりと……ぱくん、て。


 チーズタルトの層が作る味の感想も好評で良かったわ。私のお気に入りだから。……でも、やっぱり恥ずかしい。


 それに、みさきさん、私への誕生日プレゼント、って……。


 そうだった、チーズタルトとは別に、だったわ……。









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