第50話 二人からのお祝いのケーキと。

「いらっしゃい、土岐さん。……ね、しず、心配しなくても、ウケたでしょう?」


 私の38歳の誕生日の今日、由都と京さんが贈ってくれたリネンの割烹着と本格的な鍋掴み。

 一緒に贈ってくれたギャルソンタイプのエプロンも機能的で、かつ、洒落ていて。二人が私のために考えてくれたんだ、って感激したわ。


 その上、割烹着のポケットにリネンの三角巾がこっそり潜んでいて、由都と京さんのセンスに脱帽したのだけれど。


 鍋掴みと三角巾をつけてみて、は分かるのよ? 割烹着やエプロンよりも使い勝手が人によって違うからよね、京さん?

 ポケットの中の三角巾には私、気付いてなかったから嬉しさも倍増だった。


 ただ、なんでみさきさんが来てくれるのに、わざわざ? と思ったことについては私は間違っていないと思う。


 みさきさんを連れてきてくれた由都は三角巾見付けたんだね! って、弾けるような笑顔だし。

 ……ちょっと複雑。京さんに教えてもらえたから喜んでくれているかわいい由都が見られたのよね……。


 でも、ね?


「京さん……。みさきさん、今日が私の誕生日だから何か言うのを控えてくれているのよ、きっと。……ね?」

 ……京さん、笑いすぎ!


「心配しなくてもお似合いですよ。しずるさんは、由都ちゃんのお母さんですから。」

 ……なんて大人なの、みさきさん!

 聞いた? 京さん!貴方はみさきさんの恩師なのよ!


「……ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。……ね、由都? みさきさん、気を遣って下さってるわよ? お客様に気遣わせてどうするの? まあ、外さなかった私も悪かったわね。京さんも、ほら、とか言って三角巾、出してくるんですもの。……あ、もちろん、三角巾も他のプレゼントも、とても素敵よ?」

 そうよ。二人のセンスの素敵さと言ったら!


 ……良かった、みさきさん、肯いてくれてる。じゃあ、とりあえず鍋掴みは外して、三角巾を取りましょう。


 そもそも三角巾は「ほら、つけてみて」って京さんが、さりげなく頭に結んでくれたんだった……。


「しずにすごく似合っていたのは間違いないでしょう? はい、土岐さんが揃ったからケーキを」


「ありがとう、でも、お迎えスタイルとしては……」

「みさきさんが笑顔だから良いんだよ! はい、まずは私とお父さんが選んだチーズケーキです! 三種類! でも小さめだからたくさん食べてね!」

 由都の言うとおりで、確かにみさきさんは笑顔ね。ちょっとだけああ……、みたいな感じなのは、少しだけ緊張しているのかしら。


 もしかしたら、私の誕生日当日にお祝い、っていうことを意識してくれているのかな。


 だとしたら、尚更私は自然体で。私まで意識してしまうと、ぎこちなくなってしまうものね。


「マスカルポーネはミルキーで深いコク。カマンベールは豊かな香りと味わい。フロマージュブランは軽い口あたり。……しず、どれがお好みかな? 全種類もありだよ」

 説明してくれる京さんは、私の気持ちはお見通しみたいね。もしかしたら、鍋掴みと三角巾も、場を和ませる為に、だったのかしら? 京さんならその可能性あり、よね。


 それにしても、小ぶりのチーズケーキが三種類。小ぶりな分、数が多い。たくさん並んでいてかわいらしいわ。


 ……あ。


「カラメルクラッシュまで!」

「そう、このカラメルクラッシュだけは僕達で作ったんだ。これをかけて、バーナーで炙るのはどうかな?」

 そう言って、京さんはバーナーを見せてくれた。


 カラメルクラッシュは、顆粒かりゅう状態のカラメルのこと。


「もちろん、そのままでも! お母さん、どれにする? ね、一番先に選んで!」


「先生、由都ちゃんも……。しずるさんのお祝いの為に、って気持ちがすごく伝わります。見習いたいなあ」


 今度は本当に、いつもの爽やかな笑顔のみさきさん。


 良かった。二人と二人のケーキのおかげね。


 ……京さん、由都。


 二人は冷凍のを解凍したんだ、みたいな感じだったけど。


 やっぱり、この素敵な誕生日のケーキ、二人の手作り(みたいな)ケーキで、良いんじゃないかしら?

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