デートのあとと、誕生日までと。
第30話 先達庵さんはあらまほしきこと、でした。
「……それで、みさきさんが格好よくてかわいらしいからって改めて素敵な人に思われてるんだなあ、って自覚した訳だね、お母さんは。うんうん、良いことです。先達庵さんのお陰なのかな?……それにしても、この海老の天ぷら、おいしい! トースターでもこんなにおいしいんだから、出来立てはすっごくおいしいよね? お蕎麦はもちろんだけど!」
みさきさんを見送ってダイニングに入ったら、愛娘由都がお蕎麦をゆでて、天ぷらもトースターで温めてくれていた。お蕎麦のおつゆもきちんとお鍋で。……由都、大好き!
あれ、でも、先達庵さんのお陰で私がみさきさんとのことを強く意識出来たってこと、何で分かったの?
「何で分かったの、って顔してるね、お母さん。説明するからとりあえずお蕎麦、ちゃんと味わって頂こうよ」
うう、尤もすぎる。
……そして、お蕎麦と天ぷら、おいしい。
……結局、ゆっくりとお蕎麦や天ぷらを頂いてから例のお揃いの茶器で蕎麦茶を入れて、由都に今日の素敵な出会いのことを伝えた。
由都が言うにはお土産の風呂敷包みに蕎麦茶まで入っていたらしい。芋羊羹も。
『芋羊羹はアルミホイルに包んで冷凍すると良いですよ』と書かれた付箋を由都が見せてくれた。さすがに芋羊羹は後で頂こう。愛娘にはちゃんと二切れ出したけれど。
……あと、お二人にはメールではなくて、きちんとお礼状を書こう。そう思った。
「……芋羊羹もおいしい!……本当にお母さんとみさきさんにとっての先達さん達だったんだね、先達庵のお二人とだんな様達は。あ、先達ってね、ちょうどこの間文系科目を教えてもらった時についでだからって中学の古典をお父さんと復習したんだけど、『
話を聞き終えた由都は満面の笑み。芋羊羹のおいしさもあるのだと思う。
ところで、徒然草、とは?
確か、鎌倉時代の随筆……
私、一応文系だけど経済学部だから古典とかはあんまり……。
京さんは理学部物理学科卒だけど文系科目もかなりの人で学生時代は私も一般教養、助けてもらったわ……。
そうだ、「しず、復習は
娘ともども、お世話になってます。
「由都ちゃん、教えてもらっても良い?」
「もちろん! 先達は案内をしてくれる人、先導者のことね。……
うん、確かに中学の国語で学習した……気がする。由都に教えてもらえるのも嬉しいわ。
そして、先達庵のお二人……。
「……そうなの。さち江さんとあや芽さん、それからお二人のご主人がとても素敵な方達だったから、私もきちんとみさきさんの気持ちを尊重しようと思えたの。勿論そう思っていたからこそのこの爪、なのだけれど。更にその気持ちが強くなったわ。……確かに由都ちゃんの言う通りね。素晴らしいことをお二人とご主人達には教えて頂いたの」
「……先達庵さんがそこから名付けられたかは分からないけどね。でも、みさきさんもきっと同じだよ。お母さんの誕生日、告白できてからちゃんと訊きたいからって私に言ってたのに電話だと自分で聞けたみたいだったから、何か良いことあったんだろうなあ、って私も嬉しかったから」
蕎麦茶もおいしい、とふうふうと冷ましてから口にする愛娘由都。
「次は三人? か京さんも入れて四人で、ね。皆で先達庵に伺いましょう」
「うん!」
そこに、スマホからメールの通知音が。
……みさきさんかしら?
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