第31話 [愛娘 由都]まん丸ハンバーグとお蕎麦と芋羊羹と。
「メールをくれたのは、やっぱりみさきさんだったわ。お家に着いたみたい。明日の連絡待ってるね、って由都ちゃんに伝えてほしいそうよ。あ……」
「お母さんへのメッセージまで読まなくていいから。ね、返信してあげたら? 私の方はさっき直接聞いたし、あとで自分からメッセージするから。うん、そうだ、2階とかでメールしてきなよ」
メールを確認した時のお母さんの顔がいつも以上に和やか。
言われるまでもなく、相手はみさきさんだと分かっていたけどちゃんと娘に報告してくれるお母さんが大好き。
それにしても、本当に。
先達庵の素敵なお二人にはありがとうございます、と直接お伝えしたいなあ。
お蕎麦も天ぷらも蕎麦つゆも、すっごくおいしかった。
庭園のお蕎麦屋さんって、高校生が一人で食べに行くにはハードルが高すぎるけど、本気で行きたいくらいにおいしい。
この芋羊羹も蕎麦茶も。
そうだ、おいしいと言えば、思い出すのは、あのハンバーグ屋さん。
まん丸ハンバーグ……また食べたい。今度はチーズインの目玉焼きのせかな。
ハンバーグ屋さんでもはなしてたなあ、お母さんとみさきさんの初対面の日のこと。
あの日の私、お父さんの代わりにお迎えをして、最寄り駅からずっとお母さんのことを褒めまくってたんだけど、私がお母さんのお話をすると、褒めずに話すのが難しいんだよね。
みさきさん、あの頃はみさき先生。
私がすっごく褒めるお母さんのこと、気にはなっていたんだろうなあ。
元々、お父さんの元奥さんで今も仲良しさんってことで評価高だったみたいだし。
それで、すぐ着いたんだよね。家は駅から徒歩約10分だから。
「着いたよ、先生! あ、お母さん!」
って玄関に突撃した私。
お母さんのお出迎えはいつでも嬉しいから。
「……初めまして、由都の母でございます」
うんうん、やっぱり私のお母さん、かわいい! って感心しながら自慢のお母さんを紹介しよう、ってみさき先生の方を見たら。
……びっくりしたよね、正直。
凝視、って言うの?
他の人がお母さんに対してあんな風にしてたら追い返してたな、多分。ううん、速攻でお父さん呼び出しかな。
……でも、ね。
思い出すのは、みさき先生の言葉。
「はい。礼をして頂いた時の佇まいで、お二人に聞いていたよりも可愛らしい方だと思いました。……それから私の目を見て和やかに笑って、そして」
うんうん、初対面でそこまで見抜くのはさすが! やるなあ! って拍手したくなったもの。
更に!
「お帰りなさい、と由都ちゃんに微笑んでいらした。……それが決定打でした」
そう、決定打。
人の心が、カキーン! って打ち抜かれた瞬間、見ちゃったんだよね!
しかも、それが私、つまり愛娘(ここ大事!)に微笑んだお母さんに一目惚れ、ってお目が高い! だよね?
実は私、お父さんと同じくらいカッコいい人って初めて見たし、その人が女性だったのにも驚いた。
けど、そんな人がお母さんに打ち抜かれて、可愛くなってたから。
もう、びっくり!
やっぱり、先達庵のお二人に会いたいなあ。お母さんとみさきさんのデートの様子、聞きたいし。
私のこのお話もお二人なら聞いてくれるんじゃないかなあ。……あ、でもお仕事の邪魔になっちゃう……。
いつか、そんな時間が過ごせたら良いなあ。
そうだ。今日たまたま遊べた友達にも連絡しなきゃ! スポーツ推薦合格だから、大学の合宿でしばらく会えないし。
もしかしたら延長で年末年始も、とかかも知れないよね。
あれ、スマホのメッセージアプリの音。友達と……。
うん、みさきさんからも入ってる。
じゃあ、お母さんそろそろ戻ってくるかな。
その前に、やっぱり芋羊羹、もう一切れもらっちゃおうっと。
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