第18話 竹林にて。

 手をつないで庭園内の竹林まで歩いて来た。


 さすがは11月だ。


 紅葉の方に観覧者が多いらしくて、私達以外には人がいない。


「風が通っていて、気持ち良いですね」

 本当に。竹の香り? も爽やかだ。


 奥には小径こみち……二人で通ることが出来るくらいの狭い道があるけれど、今私達がいる所はかなり広くて、見渡すと、竹で作られた四角いベンチもある。


「座りましょうか」

 みさきさんにこう言ってみた。


 疲れた、なんてことはないのだけれど、一緒に座ってみたかったので。


「はい。……あれ、意外と座り心地、良いですね」


 そう、堅すぎたりするかと思っていたけれど、座り心地が良い。


 不思議。座ってみたら、立っていた時よりも風が竹林を抜けていくのを感じられた。


「しずるさん……手、まだつないでいても良いですか?」


 みさきさん……今日は私から手をつないだみたいなものなのに、あくまでも自分がしたかったから、にしてくれているのね。


 だったら、こう応えましょう。


「ええ。みさきさんが竹林の写真を撮りたいとか、そういうのでなければこのままで」


「あ、写真を、ではないのですが。じゃないな、しずるさんの写真は撮りたいです! けど、今はそれではなくて……」


 ……何だかはっきりしないみさきさん。


 まさか。


「もしかして、私の手が汗ばんでる?」

 言い出せなかったのかしら?


 空いていた片方の手を見たら、違います、と手を振られた。


「しずるさんの……爪を、両手を見せてもらいたくて。……すみません」


 みさきさんから頂いた、今日の私の爪。


 ……朱鷺色のネイルだ。


「ど、どうぞ!」


 慌てて空いていた手も渡したら、大きな手でまとめてそっと握られた。


 とても、優しく。


「きれいです。ネイルの瓶の中の色よりも。きらきらしていて、かわいらしくて、きれいだ。竹林の風に溶けてしまいそう」


 貴方の方がきれいですしきらきらもしていますよ、みさきさん……! 声もいいし!


 失礼にならない様に、視線を少しだけずらす。


「……はい、どうぞ。ただ、他の観覧者さんがいらしたらさすがに、ね……?」


「大丈夫だと思います。皆さん紅葉に一直線です、多分」

 みさきさんが、入場券と一緒に頂いたらしい案内図とチラシを見せてくれた。


 紅葉観覧のご案内。


 どうやら、竹林を横切らなくても紅葉の所に直接向かえる通路があるらしい。


「……じゃあ、風も気持ちいいし、しばらくこうしていましょうか」


「はい! あ、いつでも声をかけて下さいね!」


「ええ」


 長い黒髪、きれいな黒い目。


 普段はどちらかと言えば落ち着いた美しさの人なのに。


 今、私の指先をじっと見つめるその表情は嬉しそうで、生き生きとしていて。


 そんなみさきさんを、私もつい、見てしまって。


 ……結局、お昼過ぎまで竹林に座っていた私達なのでした。









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