第19話 紅葉を抜けたらお食事処でした。
「お昼の営業に間に合って良かったです」
「本当に。……おいしそう。頂きます」
遠回りになったけれど、竹林の小径を抜けたら紅葉を観ることが出来た。
ただ、庭園のお食事処がお蕎麦屋さんだった為に昼休憩が早かったので紅葉観覧は短めにしてそのお店、
逆に、混雑する時間帯は外せた様でお客さんはちらほら、というくらい。
私は天ざるおろし蕎麦の冷やしを注文した。
海老と茄子と
生わさびを小さなおろし金で自分でするのも良かった。緑色が印象的。
すりおろしたら、鼻をつんとする香りが爽やかだった。
「すみません、私がずっとしずるさんの手を、爪を眺めていたから紅葉鑑賞の時間が短くなってしまって」
食事処の営業時間帯は開園から14時迄と、庭園がライトアップされる夕方から夜にかけての時間帯の二部制だった。
あとは全て準備中になるとのこと。
私達は念の為に、と紅葉をゆっくりと観覧する前に営業時間を確認したのでこうしてお昼を食べられたのだ。
「そんな事ないわよ? そもそも、庭園にお誘いした私が調べておくべきだったわよね……。ごめんなさい」
本当に。
庭園の場所と最寄り駅とお休みの日の確認だけで済ませていた私が全面的に悪い。
「……いえ、しずるさんにお誘い頂けたのが嬉しくて、私、こちらの庭園のホームページとか色々確認していたんです。紅葉観覧期間中は詳細は直接庭園に、って告知されていたのも見ていたのに……。さっき、入場券を購入した際にもっと確認しておくべきでした。すみません……」
いけない。若い人をこんなに恐縮させてしまうなんて。年長者として、何か元気になってもらえる会話をしなくちゃ!
「本当に気にしないで。もし、お蕎麦屋さんに間に合わなかったらじっくりと紅葉を鑑賞してから外で何か食べたら良かったし。それに、入場券売り場の女性がみさきさんに見とれていたから、あまり長くお話をしないでくれて逆に嬉しかったし、竹林に行っていたから長く手もつなげた……し……っ!」
違うでしょ、何を言ってるの私!
元気になるどころか、混乱させる会話でしょこれじゃあ!
「ごめんなさい、何てことを……」
恥ずかしい。もうすぐ38歳になるのよ、私……。
みさきさん、あぜんとしてる……!
炊き込みご飯とざる蕎麦の定食のお箸が止まってる!
「本当に今のは忘れてね。さあ、食べましょう!」
そう、わさびの香りが飛んでしまう前に。
「そうですね、食べましょう。だけど、忘れませんよ、絶対に。……嬉しいですから。……あ、おいしい」
みさきさんがそう言うのは、きっと偽らざる本音なのだろう。
大きな手で
嬉しい、とおいしい、を同じ響きで言う人の、その所作はやっぱり、きれいだった。
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