第16話 待ち合わせは駅前で。

「お待たせしました、せん、みさきさん。……由都と出掛けることも楽しみにしてくれていたのに、ごめんなさいね」

 やってきました、デート……当日。


 庭園の最寄り駅に着いたら駅前の噴水前にすらっとした雰囲気のある(すごい)美人さんがいた。


 私の待ち合わせ相手、土岐みさきさんだ。


 11月の下旬。

 そんなに人が多く集まる駅ではないのに、道行く人の視線が伝わる。


 自宅の最寄り駅から電車に乗ってこの駅に降り、噴水が見えた時には驚いた。

 陽光を反射しながら跳ねる水しぶきとみさきさんがすごく絵になっていたから。


 その様子をこっそりと見ていたら、二人連れの女性が遠慮がちにだけれど、みさきさんに声掛けをしそうになって。慌てて私が声を掛けたらそそくさと離れて行った。


 みさきさんは、そういうのはいつものことらしくて、何もなかったですよ、みたいに出迎えてくれた。


 しずるさんに会えた、嬉しい! という全開の笑顔で。


 水しぶきよりもまぶしかった。


「まだ10分前です。こちらこそすみません。実は、しずるさんがいらして下さるのを待つのが嬉しくて、一時間前に来てしまったんです。由都ちゃんは私にも昨日、電話をしてくれましたよ。しばらく会えなくなるお友達からのお誘いなんですよね? 楽しんで来てね、また三人で会おうね、とお話をしました」

 少しだけ厚手の白い襟シャツに、黒のパンツ。凛々しい。


 みさきさんに声掛けしようとしていた女性たちの事は全く気にならなくなったけど、逆に少しだけ不安になってしまった。


 どうしよう、私……二人きり、大丈夫かしら。


 正直、愛娘由都がここにいてくれたら、と思ってしまった。


 そう、本当は三人で一緒にデートをするはずだった愛娘、由都。


 あの子がいてくれたら、さっきも「みさきさーん!」って叫んでくれていたかも。


 高校のお友達(スポーツ推薦で大学に合格済)が急遽大学から事前合宿に誘われたそうで、しばらくの間学校も欠席になるのでいきなりで申し訳ないけど遊べたら遊びたいと数日前に誘われていたのだ。


 お友達はこの機会に高校からも正式に大学の推薦合格を告知されたそうで、きちんとした理由でのお休みになる。

 それなら、推薦合格仲間のお友達と楽しんで来てね、と送り出した。母親としては当然だ。


 けれど。

「お母さん、デートの間はみさきさんのことを一番に考えるんだよ?」


 今朝、出掛けに言われたの。これってやっぱり、愛娘に心配かけてるのよね、私。


 そんな私の今日の服装は由都に確認してもらって「ばっちり!」と言われた薄オレンジ色のワンピース。

 一応、カーディガンも手荷物に入れている。


 それから。


「……あの」


 じっ、と手を見ているみさきさん。


 あら、みさきさん顔が……赤い?


「……爪。ありがとう……ございます」


 え。もう気付いてくれたの?


「ワンピースも、素敵です。いえ、しずるさんが素敵で……その素敵な貴女の爪を私の選んだ色にして頂けているのが嬉しくて……。あのう」


「はい?」


「手を……つないでも、良いでしょうか。もちろん、恋……人つなぎ、とかではなくて、いや、なくてじゃなくてつなぎたいですけどまだ、その、時期尚早と言うか……」


 かわいい。


 指輪とか、結婚(!)とか、三人の筈が二人になったデートとか、驚いたり緊張したり、やっぱりこの人は女性からも人気なのね、とか、少しだけ不安(?)になったりもしたけれど。


「もちろん、つなぎましょう。爪に気付いてくれてありがとう」


 分かった。


 みさきさんも、緊張してくれていたのだ。


 だから、私は軽く握った。


 朱鷺色の指先を伸ばして、土岐みさきさんの手を。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る