49th mission 必死の抵抗
──早く。早く! 行かねばならない……! なのに……この槍が。槍が刺さって……。
「いってええええええ!」
引き抜こうとすると逆に痛い。激痛が体と脳みそに走り続ける。ビリビリする。電流のようなものが俺の体を駆け巡る。
――耐えろ! 耐えるんだ! ここを耐えて……突き進むんだ!
自分で自分に気合を入れなおす俺。こんな事、この世界に来る前は一度もした事ない。こんな熱血系じゃなかったんだけどな……。でも、ここでこの吸血鬼を倒さないと……。アリナを傷つけたこの野郎どもを俺は……。
そうやって俺は、自分に勇気を入れ直した後に槍を力強く掴んだ。ギュッと握りしめたその槍を精一杯俺は、引き抜こうとする。
「……抜けろおおおおおおおおおおお!」
怒気の籠った声が地下空間全体に響き渡る。しかし、そんな中でも敵は刻一刻と俺の元に近づいて来ていたのだ。
チラッとだけ視線が、吸血鬼の方に移る。すると、女が俺の巻き付けた銀のけん玉の糸を更に更に千切っている姿が見えた。女は、苦しそうに息を切らしながらも必死に糸を千切って行った。しかし、今回のけん玉の素材は、鉄製。しかも、聖なる証だ。吸血鬼の方もなかなか順調には糸を断ち切れない様子だ。
――だが、油断はできない。向こうもどんどん糸を千切っていっている……。いつ何処でこっちに近づいて来るか……。全く読めない。早く外さねば……。
俺は、深く突き刺さった槍を必死に抜こうとする。
それは、まるで昔読んだ。大きな株の話のように力いっぱい引っ張ってもなかなか簡単には抜けない。
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――だが、そんな時俺に奇跡が起きたのだ。ふと、俺の手に突き刺さった槍が、少しずつするする……と手のぽっかり空いた穴から抜けていき……とうとう、俺の右手から深紅の槍がすっかり抜け落ちてしまっていたのだ。
「……抜けたァッ!?」
喜びと痛みと微かな爽快感の混じった気持ちで俺は、引き抜いた紅の槍を何処かにポイッと捨てる。そして、ビリビリと痛む右手を……そして、穴の開いた手の甲を眺めながら……俺は、もう1つズキズキ痛む足を引きずりながらも必死に階段を1段……1段と昇っていく。
――もうちょっとだ! もうちょっとで……あの扉に手が…………。
だが、しかし……運命は何処までも残酷なものだ。もう少しで扉に届くはずだった俺の手は後少しの所で一気に離されてしまう。それは、他の誰でもない吸血鬼の仕業であった。
俺の体が突如、後ろにいた吸血鬼のせいで吹っ飛ばされてしまう。それは、なんと……吸血鬼の伸ばして来た深紅の触手のようなものによる攻撃のせいだ。まるで、タコの足のように伸びたその真っ赤な触手に捕まった俺は、そのまま地上へ上がるための階段とドアのある方向とは正反対の場所に飛ばされてしまう。
――まっ、待て!? これは……! これは一体!?
強烈な攻撃に俺の体が触手で引っ張られて、ドアとは反対側に移動する。地面に叩きつけられると俺はそのまましばらくその場でゴロゴロと地面を転がっていった。
少しして回転が止まった頃に俺は、うつ伏せになった状態で吸血鬼の方を見た。すると、吸血鬼の女はまだまだ体に巻き付いた糸を解けてなどいなかった。しかし、それなのに俺のいる所へ近づいて来ているのは、この紅色のタコの足のようなもので蜘蛛の如く歩いているからだった。女は、蜘蛛の足のように地面に突き刺さっている紅の8本のタコの足のようなそれを2本ほど俺に見せつけるかのように前へ突き出してくると、苦しそうな顔を浮かべながら言ってきた。
「……血の魔法。応用編。……体中を駆け巡る血液を外に放出してタコの足みたいにできるのよ……。あんたのせいで……今まで吸って来た人の血のほとんどを消費する事になっちゃったけど……もう良いわ。そこで横になっている2人も含めてあなた達全員をここで倒して血を吸ってやるわ。……フフフッ! な~に、安心して? そこの毒をくらった2人は、後5分で死ぬから……。あの人間達が口にした毒は、私の血から作った毒でね……。私を倒さない限り……15分で完全に体に回り切って死ぬようになっているの……うふふふ! あっはははははは!」
「……な、んだとぉぉぉぉ!」
――それを先に言いやがれ! クソォ!
しかし、相手はそんな事など全く知らないと言った様子で向こうで横になっている2人を見つめながらそう言ったのだ。俺は、地上へ出れるドアを見つめた。
――振り出しに戻っちまった……。
そう思いながらも俺は、再びびっこを引きながら進みだす。しかし、そんな俺を見て女は言ってくる。
「……無駄よ! アタシの触手からは逃れられない! 体は、確かにこの気色の悪い糸で拘束されて動けないかもしれない。……しかし、そんなものどうでも良い! なんせ、今さっき良い処刑方法を思いついたのだからね!」
「……んなっ!?」
突如として、俺の目の前に吸血鬼の作り上げた紅の触手が伸びて来て攻撃してくる。そのあまりに強烈な一撃に俺は再び吹っ飛ばされてしまい、地面を転がって行ってしまう。
そして、転がりきってよろよろになった俺の元に女は更に触手を伸ばしてきて、その触手でまず、俺の手足を掴んで、拘束。そして張り付けられたイエスのようにされた後、更に今度は俺の口の中に触手を伸ばしてきて、突っ込む!
「……んぶっ!」
――なっ、なんだぁ!? 何のプレイだよ! これぇぇぇぇぇ!
と、一瞬だけ取り乱したりもしたがすぐに吸血鬼が回答を告げる。
「……貴方にも私の血で作った毒を直で流し込めば良いんだわ。そうすれば……私は、アナタを15分間足止めするだけで勝てる。そう言う事ね!」
その刹那、俺の口の中にドロドロした熱い液体を流し込まれる! 俺は、必死に抵抗して飲み込まない様にグッと堪えていたが、しかし……そんな事お構いなしに……女は、俺に毒を流し込んで来る! 口の中がいっぱいになって、吐き出す事もできず……どうしようもできなくなってしまった俺は、とうとうそれを飲み込まざるを得なくなってしまう。
――それでも……それでも!
必死に抵抗する。だが、女の触手はどんどん俺の口の奥へ奥へと侵入してきて……もう俺自身の手じゃどうしようもできない。
――助……けて…………。
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――ゴクッ……。
――To be continued.
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