45th mission 吸血鬼よ! これでも食らええええ!
――十字架が効かなかった……。俺が知っている吸血鬼の情報と違ったんだ。どうしてだろうかと少しだけ考えてみた。でも、冷静になって考えてみれば……案外、そうなのかもしれない。
いや、というのも……大学生の時代に図書室で調べ物をしていた時にとある学術書に書いてあった気がする。
――十字架は、聖なる証。しかし、それはキリスト教圏の国々の人々が勝手に定めたものであり国や地域、民族が異なれば聖なる証というものの概念も異なってきて当然である。例えば、日本であれば十字架ではなく丸だろう。日本の国旗や天皇家の家紋など様々な所で〇を見る。これは、日本が日の昇る国であるという事を表しているからと言えるだろう……。
といった一文を大学時代に図書室の本で読んだ気がする。……つまりだ。十字架に弱い吸血鬼というのは、俺が元々いた現実世界に存在していた吸血鬼の弱点であって、こっちの異世界に生きる吸血鬼とは違うわけだ。それは、異世界において十字架というのが聖なる証ではなかった場合、当然こっちの世界の吸血鬼に十字架なんて通用しない。こっちの世界の吸血鬼を倒す場合は、こっちの世界のルールに基づいて……この世界に存在する聖なる証を吸血鬼に見せつけないとならない……。
――なら、俺が最初に知らねばならない事は……1つ!
俺は、立ち上がるとすかさずガリレオ達に声をかけた。
「……おい! ガリレオ! それからサマンサ! 教えてくれ! 吸血鬼の弱点はなんだ!」
すると、すかさずガリレオの怒鳴り声が聞こえてくる。
「……貴様! まだそんな事を! 良いか? そんなものはない! 絶対にだ。吸血鬼は、古代魔法の真なる力の発するエネルギー……神々の聖なる波動を与えていかないと倒せないんだ! 今のお前は修行の途中だ。だから、倒すには何度も何度も……聖なる波動の力を与えて行かないとならない!」
野郎の言葉に対して俺は、言い方を変えてもう一度尋ねてみる事にした。
「分かった! じゃあ、もうそれは良い! だったら1つだけ教えてくれ! お前、教会には行くか?」
俺が、そう尋ねるとガリレオは答えた。
「……あぁ? 当然だろう! 俺は、騎士だ。教会には暇な時いつも通っている!」
「その時お前は……何を持って行く!」
「……? いっ、いや何も持って行ったりはしないぞ……」
「嘘つけぇ! なんかあるだろう? 神に祈りを捧げる時に必要になってくるものがよぉ!」
しかし、ガリレオはそれでも首を横に振って答えてくるのだった。
「いっ、いや! 本当に分からないんだ! 俺は、いつも手ぶらで行く! もしかして、それはおかしな事だったのか? 神に何か供物をすべきであったか?」
俺は、野郎がお腹を抑えながら本気で申し訳なさそうに答える姿を見て心の中で舌打ちをしたくなった。
――どうやら、十字架のロザリオに相当するものでさえ存在しないようだ。……ホント、もう……オーマイガー! って叫びたいくらいだぜ!
しかしそんな時、ガリレオの隣から同じくお腹を抑えて苦しそうに藻掻き苦しんでいる黒服の美女――サマンサの声が聞こえてくる。
「……もしかして…………うっ……
そう言うと彼女は、自分の黒服の胸ポケットからネックレスのようなものを取り出して、それを俺に見せてきた。そのネックレスは、八角星をそのまま線にしたかのような形をしており、大きめの八角星だった。
その瞬間、俺の前に立っていた吸血鬼が一歩だけ後ろに引き下がって目を若干逸らし始めたのが見えた。
――この反応……やっぱり!
すかさず、俺はサマンサに向かって叫んでみた。
「……それを俺に貸してくれ! 早く!」
すると、俺がそう叫んだのと同時に吸血鬼の女の足が猛スピードで俺の方へと接近し始める……! 女はホラー映画の怪物のような恐ろしい顔で言ってきた。
「させん! それだけは……絶対に!」
その間に俺はもう一度、サマンサに向かって叫ぶ。
「早く! それを俺に!」
何を言っているのかさっぱりと言った様子だったサマンサだったが、慌てて彼女は手に握りしめたそのネックレスを俺の方へ投げた。ネックレスが空中に浮き、俺のいる方へ飛ばされる……。目でそのネックレスの進行方向を確認しながら槍を持った吸血鬼の位置を確認する俺。
まだ間に合う……。まだ……まだ! 頼む間に合ってくれ……!
心の中でそう願う俺だったが……しかし吸血鬼の高速移動スピードは更に加速する。それをチラッとだけ見ていた俺は、途端に焦り出す。
――まずい! 間に合わないかも……!? 頼む!
ネックレスは、どんどん近づいて来る。……しかし、その投げ飛ばされたネックレスよりも早くこちらに近づいて来る吸血鬼。俺は、とうとう我慢できなくなり……宙に浮かぶネックレス目指して大きくジャンプした。そして、空中に浮かぶネックレスをその手に掴もうと手を伸ばす。
――しかし……!
「……甘い! 今更掴んだ所でそれを私に見せる事などもうできまい!」
女吸血鬼が、ジャンプしている俺のすぐ目の前に迫って来ていた。彼女は、自分の手に持つ血でできた紅の槍の先を俺に向けて来てそれを思いっきり俺の足につき刺した!
――ズブッ! とグロテスクな音と共に紅の槍の先が綺麗に俺の足に貫通して大きな穴を開ける。俺は、槍の刺さった足のふくらはぎの部分の穴の開いた所から走る激痛に耐えられず、すぐに悲痛の叫びをあげてしまう。
「うううううううううううううううぐぐううううううううううううぅぅぅぅぅう!」
この何とも言えない強烈な痛みが俺の心を苦しめる。
――ダメだ……この痛みにもう耐えられない。……苦しい。今すぐ死んでしまいたい。……しかし、そうは思っても手を伸ばしたそれだけは……絶対に掴みたい! そう思って俺は手を伸ばして……そして、空中に浮かんでいた何かを掴んだ……!
それと共に俺のふくらはぎから槍が引っこ抜かれて……大きな穴が完成。痛みに耐えきれなかった俺は、そのまま着地などせずにその場で背中を地面に打ち付けて横になる。
「うっ!」
特大ダメージが入って苦しい俺は、地面に寝転がったまま足を必死に抑えて苦しみ続ける。のたうち回っていたのだ……。しかし、そんな俺の元に吸血鬼が現れて俺に言ってくる。
「……そのまま死ね!」
そして、俺のいる目の前で槍を大きく振り上げてそのまま俺の首に向かって槍をぶっ刺そうとしたその瞬間、俺は痛みを噛みしめながらもかろうじて反撃をしようと……最後の攻撃をするのであった。
「……うああああああ!」
それは、ちょうど手に持っていたけん玉。糸で吊るされた玉を飛ばして槍を刺そうとして来る吸血鬼に攻撃しようとした。吸血鬼は、途端に槍の攻撃をピタッと止める。そして、すかさず俺から距離を取るべく高い身体能力を使って後ろへ後転ジャンプ。その際にちょこっとだけけん玉の玉が吸血鬼の体を掠るだけしたが、しかしダメージにはならない位の微かに触れただけであったので……そこまで意味はなさそうだった。吸血鬼は、着地するとそのまま俺の方を見て高らかに笑いながら言ってきた。
「……ふふふっ。残念だったわね。後、少しだけそこの女の投げるスピードが速ければ……貴方にも勝ち目があったというのに……でも、もう無理よ。アナタは、この足を傷つけられた。もう自由に歩いたり走ったりなんてできやしないわ……。次の攻撃で仕留める。覚悟なさい!」
そう言うと女は、ゆっくりと俺の方へ近づいてこようと歩き出す。
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「……?」
しかし、歩いてこっちに近づいて来た事によって吸血鬼はある事に気づく。それは、本来なら足に強烈なダメージを受けて痛そうにしているはずの俺がとてもにこやかに笑っているのだ。
「……ククク……」
そのあまりに意味深な笑みに吸血鬼の足が一瞬だけ固まる。女は言った。
「なっ、何を笑っているんだ貴様!」
そう聞かれたから俺は、元気よく答えてやる事にした。
「……まだ分かんなぁ~い? おいおい? お前さん、やっぱりコウモリ脳みそだぜぇ~。んん?」
女が、口を開いて何かを言おうとしたその瞬間だった。
「……何を言っt…………」
突如として女は、口から血を吐きだし、苦しそうに胸を抑えて膝を地面についた姿勢になってしまう。そして、過呼吸になりながら苦しそうに俺に言ってきた。
「……きっ、貴様…………これは、一体何を?」
そう言ってきたので俺は、自信満々に手に持ったけん玉を吸血鬼に見せびらかす。女は、俺の手に握られているけん玉を最初こそ目を細めて見ていたが、しかしけん玉の色が銀色に光っている事を知った吸血鬼の顔は途端に青くなっていく……。女は、言った。
「……まさか、そのけん玉は……
俺は答えた。
「大学が歴史学科で良かったぜ〜。うーん。文系最高! ……これで、安心してテメェをぶっ殺せるわけだなぁ!」
――To be continued.
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