有隣堂にて

ユー・リンドー@中庭通信局

有隣堂ライブラリー

 窓際の、星空が見える席が好きだ。

 室内の明かりは通路を照らすフットライトだけなので、閲覧カプセルのシールドを下げずに見上げれば、一面に星空が広がる。

 宇宙は奥深く広いと思う日もあれば、まるで点々と光る壁に見える日もある。

 今日は利用者が少ないのだろうか。なんだか室内がいつもより一層薄暗く、星空がくっきり見えた。

 いけない。今日は大学のレポートの締め切りが近いのだから、空を眺めている場合ではなかった。

 私はフッとため息をついて、カプセルのシールドを下ろした。

 手首のIDをかざしてシステムを起動すると、いつものようにR.B.ブッコローのロゴマークが表示される。

 ブッコローは目を引くオレンジ色のキャラクターで、ミミズクがモデルらしい。なんでミミズクがオレンジ色なんだろう?

 そんなことをゆっくり考える間もなく、検索ナビゲーターが起動した。

「いらっしゃいませ。有隣堂ライブラリー、ナビゲーターのR.B.ブッコローです。今日はどのような本をお探しですか?」

 レポートのテーマに選んだベネチアン・グラスをキーワードにすると、目の前のスクリーンには次々と資料のリンクが展開し、すぐに視界いっぱいに資料リストが広がる。

 無数にピックアップされる資料全部は必要ないので、リンク・マップやキーワードで絞りこんでいく作業から始めることにする。


 この「有隣堂ライブラリー」は民間の会員制閲覧施設で、ネットワーク上にあるさまざまな本や各種メディア資料を閲覧できる。

 ネットワークに繋がっているのは公共図書館だけでなく、学生証を使えば大学図書館ネットワークの資料も閲覧できるので、資料の数は膨大で、大学生のレポートに必要な資料ならほぼ間に合う。

 私の通う大学は学生数が多くて、逆に大学図書館の閲覧ブースは学生数より圧倒的に少なく、大学院生には優先枠があるらしいけど、一般学生では予約なんて到底取れないので、結局みんなこういう民間ライブラリーを使うことになる。

 それに民間ライブラリーは大学より設備がきれいで、それぞれ独自のナビゲーション・システムがあり、使いやすいところが多い。


 1時間近く集中して文献や動画を見ながらレポート用のメモをとったりして画面を見つめていたから、目が疲れてきた。

 深呼吸しながら目を閉じると、集中しすぎて頭が熱くなっているような気がするし、そういえば喉が渇いたので、一旦カプセルを出て飲み物を買ってくることにした。

 公共図書館では閲覧室での飲食禁止のところが多いけれど、こういう民間ライブラリーでは軽い飲食ができるのも長時間利用には便利でいいと思う。

 甘いものが飲みたい気分だったので、コンシェルジェ・デスクの向こうにある自動販売機コーナーで、激甘で有名なチョコレートドリンクと、口直しのほうじ茶を買った。

 自席のカプセルに戻って作業を再開すると、あっという間に予約した2時間になってしまったので、めぼしい資料を自宅でも閲覧できるようにブックマークを付けて、カプセルを出た。


 この「有隣堂ライブラリー」は有隣堂のビルの5階にある。

 有隣堂は紙書籍の時代の書店から始まったらしく、ビルの1階にある書籍コーナーでは、今でも発売時限定で作られる紙書籍がいくつも並んでいる。

 1階は他に普通の書店同様のインフォメーション・デスクと本の試し読みをして購入できる端末のコーナーの他に、時期ごとに物産展のようなことをやっているコーナーがあり、今日来た時にちらっと見えたのはドライフルーツだった。

 2階は科学のコーナーで、専門書も扱っているけど、実験道具や子供向けのおもちゃっぽいキット、模型やお手頃価格の宝石や化石なども売っていたりして、小さな博物館みたいでたまに行くと面白い。ただカウンター近くでは、ブッコロー・グッズと一緒に謎の恐竜?のマニケラトプス・グッズというのが色々売っている。有隣堂オリジナルキャラクターらしいのだけど、ブッコローといい、なんだか不思議なキャラクター展開をしていると思う。

 3階が文具や雑貨コーナーなので、私はここによく来る。

 4階は専門書やオンデマンド印刷のコーナーで、一度だけチラッとのぞいたことがあったけど、近づき難い雰囲気だった。

 5階と6階の半分が、今日私が利用した大人向けの閲覧ライブラリーで、6階の残り半分はレストランだか居酒屋だかそんな感じの飲食店がある。

 地下1階にもカフェと、じゅうたん敷きのキッズルームがあり、キッズルームでは読み聞かせイベントがあったり、子供用の調べ学習ができる端末があったりして、私も小学生くらいまではよく来ていた。


 資料の持ち歩き用外付けメモリーが足りなくなってきたので、3階の文具コーナーに寄って帰ることにした。

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