第2話 助けてくれた人
走って走って、息が切れても歩き続けて、気付いた時には見知らぬ町角に来ていた。舌を出して、熱い息を吐く。体に籠った熱を吐き出し、軒下に座り込む。
(これ、どういうこと?)
頭の中にあるのはその思いだけ。わけもわからないまま、それでも中学校に行かなければという使命感だけはある。猫になってしまったということは事実であることは間違いなく、わたしは混乱しながらも中学校を目指して歩き始めた。
とはいえ、猫の目線では知っているはずの道が知らないものに思える。何度も道を間違えながら、わたしはようやく中学校に辿り着いた。
勿論のこと、授業はとっくに始まっている。校庭で遊んでいる生徒が見えるから、昼休みに入っているのかもしれない。
(まいったなぁ)
このままの姿では授業に出ることも出来ない。登校初日で無断欠席なんて、笑えないじゃないか。
仕方なく、わたしは柵の間に空いた隙間に体を入れてするりと中学校に入り込んだ。生徒にも先生にも見付からないよう、身を潜めて移動する。更に一度来ただけの学校の建物の位置がわからず、迷いながら考えることはいつの間にか空腹に変わっていく。
(お腹、空いたなぁ)
気付いてしまえば、お腹が鳴る。わたしはよたよたと歩きながら、とりあえず休める場所を探す。そして見付けたのが、大きな木の下にベンチがある庭だった。
でもそこには先客がいて、文庫本を読んでいる。わたしはその男の子の邪魔にならないよう、離れた木陰に身を潜めるつもりだった。
でも彼はわたしに気付き、目を丸くする。
「きみ、どうしたんだ? ふらふらじゃないか」
「みー」
「待ってて。……とりあえず水。それから、これも」
そう言って男の子が取り出したのは、ペットボトルの水とシンプルなコッペパン。
わたしはペットボトルの蓋に注がれる水を飲み、ちぎられたコッペパンを夢中で頬張った。男の子は「よっぽど腹が減ってたんだな」と笑いつつ、わたしが満足するまでパンと水をくれた。
それから彼はわたしを抱き上げて、首を傾げる。
「それにしても、野良猫かな? にしては人慣れし過ぎて……」
「おお、ここにいましたか」
「校長先生」
男の子が顔を上げるのに合わせ、わたしも声のした方を見た。するとそこには初老の男性がいて、その人は入学式で話をしていた校長先生だった。
校長先生は穏やかに微笑むと、男の子の目線に合わせるためにしゃがんだ。そしてわたしの頭を指で撫でる。
「この子を探しているという話を聞きました。連れて行ってもいいですか?」
「そうなんですね。……じゃあ、お願いします」
「はい」
「みぃ?」
何処に連れて行かれるんだろう。わたしの不安が声に出たけれど、それを二人が理解することはない。
わたしは猫の姿のまま、男の子のもとを離れて校長先生に連れて行かれた。
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