ねこむすめ!~誕生日に猫になったらクラスメイトからの溺愛が待っていたんですが~

長月そら葉

第1話 入学のはず

 皆さん、はじめまして。入学式を迎えて中学生になった猫山春花ねこやまはるかです。

 明日初登校なのですが、同時に自分の誕生日なので少しドキドキしています。四月二日が誕生日なんです。

 ですから、ただ楽しみだったんです。まさか、あんなことになるなんて思いもしなかった。


「いってきます」

「いってらっしゃい、春花」


 台所にいたお母さんが送り出してくれ、わたしはまだ着慣れないブレザーの制服に通学鞄つうがくかばんを手にして玄関を出る。天気が良く、まぶしい日の光に目を細めた。

 花ヶ丘はながおか中学校までは、歩いて十五分くらい。急がなくても間に合う時間だ。目の前の信号を渡って、次の角を曲がれば良いはず。


「――えっ!?」


 何かがおかしい。急に地面が近くなっていく。それに、体の感覚がおかしい。怖い。

 わたしは気が遠くなる感覚におちいり、そのまま気を失った。


「う……?」


 目を覚ました時、わたしは違和感に気付いた。やけに地面が近く感じる。人の声が大きい。


「おい、目を覚ましたぞ」

「大丈夫かな?」

「ど、動物病院?」


 ――動物病院?

 わたしが運ばれるとしたら、普通の人間用の病院ではないの。

 ざわざわとした声に不安を感じて立ち上がると、四つ足になることに気付く。見下ろすと、白くてモフモフのものが見える。前足を上げれば、肉球がある。


(え? 何?)


 頭が混乱する。周囲の人たちの声が遠退く。人間ならば動かせるはずもないものを感じ、動かしてみる。白いしっぽだ。


(嘘だ)


 よろめきながら、ショーウインドウのある店の前まで行く。ガラスに手をかけ、そこに姿を映す。

 映るはずのミディアムロングの髪の少女はそこにはいない。いるのは、小さな白猫一匹。焦げ茶の瞳が大きくなり、体が震える。


「にゃあぁぁぁぁぁっ!?」


 声も人間のそれではない。自分が猫になってしまったことが信じられなくて、わたしはただ目的もなく走り出した。

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