流血刀・乙

飛瀬川吉三郎

第一刃混濁宿命

 

七月十五日、夏休み前日、誕生日、尹秋海棠いんしゅうかいどうと緋走は誕生日会を開いていた。そこにある小規模な満漢全席と言ったところだろう。


隠し通路の地下室の個室にある回転テーブルにあるのは、油淋鶏、麻婆豆腐、冷やし中華、山東省徳州市の伝統的な料理で、発祥の地にちなんで名づけられた。乾隆帝が徳州を訪れたとき、漢民族の家族が皇帝のために鶏肉の煮込み料理を作った。皇帝はこの料理を高く評価し、「すべての料理の妙」と讃えた。徳州扒鶏を食べた後、乾隆帝はこの料理を宮廷料理に加えるように命じた徳州扒鶏ドーヂョウパージー。江蘇料理の一皿である、細く刻んだ豆腐と、ニンジンやキュウリなどの彩りの異なる食材を使ったスープである。この料理を作るために、料理人は四角い豆腐を5000個以上の細片に切る必要があるため、この料理は揚州市の料理人の包丁技を示している、乾隆帝の治世に、菜食、特に豆腐を使うことで有名な文思という僧が居た。柔らかい豆腐・マンシュウキスゲおよびキクラゲを使ったこのスープを作り出した。このスープはほどなく「文思豆腐」として地域一帯に知られるようになった。乾隆帝はこのスープを試食し、高く評価した。その後、文思豆腐は皇帝によって宮廷料理の一品に加えられた文思豆腐ウェンシトーフ、そこに出されるのはボトルキープしたラム酒、バカルディであった。


緋走の両親、禊瀬の母、父もそこにいた。魚鷹梅香、亜王堂婆娑羅もいた。


一家団欒のため、その鬼人館の料理人は総力を尽くした。


その結果、会話も弾む、亜王堂婆娑羅は文思豆腐を食べて感動していた。


「これだ、ワシが求めたかった究極の中華料理…………」


魚鷹梅香は徳州扒鶏を堪能して、感想を述べた。


「………至高の中華料理とは、まさにこの事だねぇ……」


禊瀬終剣はそれを聞いて、徳州扒鶏を回転テーブルを回転させて食べ始めた。


「あ、これ、本当に美味しいな……」


尹秋海棠はそれを聞きながら、黙々と食べている。当たり前だ、赤子の手をひねるように、とはいかなかったが、緋走の料理スキルを達人の域まで上げるため、あらゆる中華料理の達人達に修行と特訓をさせた結果、様々な知恵を会得したのである。


「………油淋鶏食べない?」


緋走はテーブルマナーというのを知っていて全部無視している。今日ぐらい無礼講になってもいいだろう、尹秋海棠はそんな彼の野性的な暴食を前にして感嘆していた、愛妻料理、という、クッキングパパ、という単語さえ脳裏に過っている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る