第2話なんかだるい


クロユリ

なんかだるい



 あらざらむ


 この世のほかの 思ひ出に


 いまひとたびの 逢うこともがな


   百人一首56番歌 和泉式部




































 第2処【なんかだるい】




























 「え!?こんな高価なもの、いただけません!」


 「そんなこと言わないで。君の為に用意したんだから。これは、プレゼントだよ」


 「でも・・・」


 「それとも、僕との結婚、やっぱり嫌かな?」


 「そんなこと!嬉しいです!でも、私仕事もしていないし、迷惑かけちゃうかもしれませんし・・・」


 「いいんだよ、仕事なんて!僕が精一杯稼いで、君を養うから!これ、是非受け取ってほしんだ!!」


 「・・・ありがとう!」


 女性が男性の手から指輪を受け取ったそのとき、邪魔が入る。


 「はいはーい、そこまでにしてね。悪いんだけど、ちょっとこの子借りてもいいかな?」


 「な、なんだ、君たちは!?」


 「こっちも仕事なもんでね。このまま大人しく帰ってくれると助かるんだけど」


 「なに・・・!?警察を呼んでやる!」


 携帯を取り出して電話をかけようとした男に近づくと、肩にぐるっと腕をかけ、こう囁いた。


 「別にいいけど、そしたらあんた、若い女に貢いでたことバレるよ?」


 「・・・!」


 「ね?悪いこと言わないからさ、今日のところは帰ってもらえる?」


 男はそそくさと荷物を持って帰ってしまった。


 残された女性は、急に現れた男2人に対して明らかに嫌悪感を示していた。


 あからさまに大きなため息を吐くと、男たちに背を向けるようにして座り直し、髪の毛をいじる。


 「だめだろ。詐欺の現行犯だよ?萌流ちゃん?」


 「何が?」


 「何がって、結婚ほのめかしてこんな高価な指輪まで貰って。一体幾ら貢がせた?相手に奥さんいるって知ってる?」


 「・・・あーら、そうなの?じゃあ、私は騙されてたってことね。なら、あの男が詐欺ってことかしら」


 「俺じゃなかったら捕まってたよ?感謝してね?」


 「何か用?なんで邪魔ばっかりするのよ。暇なの?」


 「実はさ、頼みたい事があって」


 それから、話は進みに進んだ。


 先日のことと今回のことと、目を瞑ることを条件にして、協力を要請した。


 もちろん、七海にはまったく関係のない話であって、脅迫されているも同然なのだが、なぜだか、この男たちには何を言っても無駄だと諦めがあるらしく、なくなく協力することにした。


 「あんたたち、良い性格してるわね」


 厭味を言ってみたが、ニッと笑われただけだった。


 「大丈夫なのか?あの女」


 「大丈夫だろ。そう心配するな」








 「えー、すごいですね!警察の方なんですかあ!?」


 「すごくなんてないよ」


 「すごいですよお!やっぱり、お仕事大変なんですよね?ストレスとか溜まりそう!」


 「まあ、確かにそれはあるかな」


 「ならー、今日は一緒にハメを外しちゃいましょう?」


 七海萌流は、男相手での情報収集は欠かさない。


 その男を徹底的に調べ上げ、どういった女性が好みなのか、結婚しているとしたらどういう女性で、学生時代付き合っていた女性とどう違うのか。


 食事や服装の好み、メイクの好み、とにかく出来るサーチは欠かさず行って、男のもとへと姿を現す。


 長い髪、といってもウィッグだが、男性に見せつけるようにかきあげると、男がごくりと喉を鳴らした。


 それを確認すると、更に続ける。


 「私、もっと知りたいの。例えば、本当は秘密にしなくちゃいけないこととか。私にだけ、内緒で、教えてくれたり、しません?」


 待つこと一週間、待ち合わせをしていた場所に向かって待っていた。


 「来るかな」


 「来るよ。自腹で報酬も払うって言っておいたしな」


 「今日は昼寝向きの天気だ」


 10分ほど経った頃、七海が現れた。


 いつものウィッグはつけておらず、メイクも簡単にしてある程度だ。


 マスカラもつけていないし、なんだかいつもより幼く見える。


 「で?何か収穫は?」


 「あったわよ。酒飲ませたらどんどん喋ってくれたわ」


 七海が言うには、警察の上層部のお偉いさんの1人を口説いたところ、先日の銃における事件は隠しておくよう捜査員全員が言われているようだ。


 これまでにも数十人、同じような男たちに消されているらしいのだが、それはマスコミにも知られていないし、もちろんニュースにもなっていない。


 あの時の大型トラックの運転手にも、金を払って黙っておくように、そして仕事を辞めて遠くで幸せに生活するようにと伝えた。


 「殺されてるってのは、どういう奴が?」


 「それらの事件や事故の目撃者よ。目撃者全員がすぐに分かるわけじゃないでしょ?だから、それをネットに書きこんだ人とか、誰かに連絡取った人とか」


 そして、書き込まれたネットを見た人物も特定され、書き込み事態はすぐに消去されてしまうものの、見た人間も同じように消されてしまうか金で解決というわけだ。


 全てを闇に葬り去りたい警察の不祥事があるとすれば、その内容はおおよそ察しがついてしまう。


 「もういい?言われたことはやったわよ」


 「え?七海萌流ちゃんともあろう女性が、その黒幕の名前も聞けなかったんだ?」


 「・・・勘に触る良い方が上手ね」


 「そんなに褒めないで。で?」


 「・・・聞いたわ」


 一旦は帰ろうとした七海だったが、相裏に腕を掴まれてしまったため、そのまま椅子に逆戻りした。


 足を組んだかと思うと、氷の入った水を口に含んでから続ける。


 「鵞堂隆道って奴。詳しくは聞いてないわ。ていうか、それに関しては答えなかったの。もういいでしょ?」


 「ああ、ありがと。今度会ったらデートしてね」








 「捜査を止めてるのは鵞堂隆道、か。瑞希、知ってるか?」


 「聞いたことある。確か、昔は入国管理局に勤めてたはず」


 「てことは何か?その経験を経て、今警察を動かせる立場になったってことか。そんなに仕事が好きか。変わってる奴だ」


 「相裏の性格で警察にいる方が変わってる」


 「じゃあ、調べてみるか」


 「話聞かないし」


 そう言うと、崎守の運転で出かけることになった。


 「うっ・・・。吐きそう。なんで乗り物って気持ち悪くなるんだろう」


 「乗り物酔いする奴でも、自分で運転すると酔わなくなるって言うけどな。なんでお前は酔うんだろうな。晴れてても雨でも、綺麗なお姉ちゃんがいてもこの俺が隣に乗ってても酔うよな」


 「最後のが一番大きな要因かもしれない・・・」


 「あー、今更だけど、スーツの方が良かったか?まあいいか。ネクタイも締めてないお前がいるなら、俺は充分許されるな」


 「ネクタイなんて、首輪みたいなもんだ。まるで正装だとか礼儀だとか言う奴もいるが、俺から言わせれば犬の首輪と同じ」


 「どんだけ嫌いなんだよ。あ、そこ左」


 酔いと戦いながらなんとか到着すると、さっそく鵞堂に会うため建物の中に入る。


 しかし、アポも取っていないためそう簡単には入らせてもらえず、敷地内に入ろうとしただけで追い出されてしまった。


 そこで、外で鵞堂が出てくるのを待つことにした。


 その間に鵞堂の顔を確認すると、短髪で目つきの悪い男のようだ。


 夜にならないと出て来ないかと思ったが、午後に何処かへ出かける用事があるらしく、お昼過ぎにはその姿が確認出来た。


 相裏と崎守は車を出すと、鵞堂の前の前に停め、警察手帳を見せて目的地まで送って行くと伝えた。


 「どちらまで?」


 「・・・彼は大丈夫なのか?」


 「ええ。いつも青白い顔してますので、御心配なくー」


 鵞堂はこれから大事な会議があるらしく、ちらちらと時間を気にしていた。


 「もっと飛ばします?」


 「いや、規則を守ってくれ」


 「面白味にかけますねぇ。サイレン鳴らしてぶっ飛ばした方が、楽しいですよ」


 「時間には猶予を持って行動している。このままで頼む」


 冗談にも乗って来ない鵞堂に、やれやれと相裏はため息を吐いた。


 「じゃあ、ちょっと世間話でもしますか」


 相裏がちらっとバックミラーを見てみると、後ろに乗っている鵞堂が外を眺めているのが分かった。


 助手席側の窓を開けてそこに腕を乗せ、外からの風を浴びる。


 「鵞堂隆道さん、あんた、何か黒いことしてますよね?」


 「何の話だ」


 「いやね、ちょっと小耳に挟んだことなんですけど、だからといって、誰が情報漏らしたとか、そんな野暮な真似はしないでほしいもんなんですけどね」


 以前あった事故のこと、そのときに相裏と崎守がその場にいたこと、そしてそれらが全て揉み消されてしまっていること。


 包み隠さず聞いたのだが、鵞堂は何も答えなかった。


 目的地に着いてしまい、相裏は颯爽と下りて後部座席の扉を開けると、出てくる鵞堂を笑顔で送る。


 そこへ、1人の男がやってきた。


 鵞堂の迎えのようで、まだ見た目若く、茶色の少し長めの髪に大きな目、そして右目の下にホクロがある。


 「お待ちしておりました」


 「まだ話は終わっていませんが」


 「話すことはなにもない。片瀬、こいつらを追い返しておけ」


 「はい」


 鵞堂がさっさと立ち去って行くと、片瀬と呼ばれた男が近づいてきた。


 「片瀬祐二郎といいます。申し訳ありませんが、お引き取りいただけますか」


 「・・・はいはい。お邪魔虫はさっさと退散しますよ」


 ドアを閉めてシートベルトをすると、まだ顔を青白くしている崎守が車を出した。


 サイドミラーを見ると、そこにはまだ、こちらをじっと見ている片瀬がいた。


 「なんだあの男は。片瀬祐二郎・・・?まだ下っ端か?俺達より下なのに鵞堂のお気に入りか?それとも、鵞堂が呼んだか?」


 「・・・考えたくない。頭使うと余計に吐き気が・・・」


 「お、スタイル良いお姉ちゃん発見」








 「ああ・・・やっとゆっくり回復出来る」


 「チャージしとけチャージ」


 仮眠室まで辿りつくと、崎守は早速ソファに横になって目を瞑った。


 相裏は持ちこんだ私物でもある小さめの冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出すと、それをごくごく飲みだした。


 それから少し、崎守と同じように別のソファに身体を埋めると、いつの間にか寝てしまっていた。


 数時間経って身体を起こすと、すっかり体調を取り戻した崎守がコンビニで何か買ってきたようで、それを食べていた。


 何を買ってきたのか覗いてみると、おかかのおにぎりと塩むすび、ノリ弁、冷やし中華、シュークリーム、味噌汁があった。


 「お前そんなに食うの?だから酔うんじゃねえ?」


 「生きてるだけで腹が減る」


 「いやそうなんだけど。なんか、まあいいか。俺の分は?ノリ弁か冷やし中華くれよ」


 「冷やし中華やる」


 「お前米が好きだな。全国の米農家が喜ぶだろうよ」


 そしてご飯を食べ終えてこれからどうしようかと考えていると、ふと、ぼーっとしていた崎守が口を開いた。


 「相裏、ソレ」


 「どれ」


 「その汚れ、いつまでつけてるんだ?そろそろ落とさないと、永遠のシミになる」


 「永遠のシミなんてそんなもん・・・これか!これのことか!!いつついたんだ!!」


 それは、毎日相裏が身につけている黄色いネクタイだった。


 そこには何かが飛びはねたようなシミがついており、てっきり先程食べた冷やし中華のシミかと思っていた相裏だが、崎守は違うと断言した。


 いつもならそこまで断言しない崎守がはっきりと言うものだから、相裏はネクタイについてしまったシミの匂いをクンクンと嗅ぎながら首を傾げる。


 「じゃあいつついたシミだ?」


 「ほらあの、スピード違反した垣多周歩の車に乗ってたジュースのシミ」


 「・・・結構前じゃねえか!!なんでもっと早く言わねえんだよ!!俺、こんなシミを晒しながら恥晒してたってわけか!!こんなシミをつけたまま、女にツバつけようとしてたってわけか!!!」


 「相裏、いつからそんな上手いこと言えるようになったんだ」


 「上手いとか下手とかはどうでもいいんだよ。俺が寛容だから許されるけどな、普通の上司とかだったらお前これ、だめだぞ!」


 「お前上司じゃないし。そのくらいのシミ、立派な大人なら普通気付くかと思ってた」


 「ぐさ!俺の心に深く突き刺さった!」


 そう言いながら、何が楽しいのか、相裏は左手で自分の心臓部分を強く掴みながら、右手を崎守の方に差し出していた。


 その伸ばされた腕を掴んでほしいのかもしれないが、生憎、その手を掴むだけの優しさも度胸も崎守にはないらしい。


 そのまま右手を伸ばした状態で数十分いたのだが一向に何も起こらないため、相裏はぱぱっと立ち上がって再びネクタイのシミの匂いを嗅いだ。


 変な趣味があるのかと思っていると、相裏は「あ」と呟いた。


 くるっと崎守の方を見ると、相裏はニヤリと笑う。


 「あいつ、もう出たよな?」


 「え?」








 「この辺りは取り締まりしてねぇはずだから、飛ばしても平気だな!!」


 そう言うと、男はアクセルを踏み込んだ。


 若干スリップしたようにも見えたが、そのまま勢いよく道路を滑るようにして走って行く。


 周りの車は危険だと判断し、左側の車線に移動する。


 「やっぱ楽しいな!!道路はこうでなくっちゃな!!!車で走ってる意味がねえ!」


 しかし、その時間は長くは続かなかった。


 いきなりサイレンが聞こえきて、すぐさまいつものように逃げてやろうと思っていた男だが、急に目の前に一台の車が現れた。


 しかも、それがサイレンのもとだ。


 「どういうことだ!?」


 男はハンドルをきかせて、サイレンを鳴らしている車を追い越そうとしたのだが、その車、つまりは警察車両が行く手を阻む形で車線を変えてくるため、なかなか前に出ていけない。


 そこで、男は銃を取り出して後部座席の窓を狙って撃ちこんだ。


 しかし、防弾ガラスになっているそれは割れず、左側のサイドミラーを狙って撃った。


 見事に命中したため喜んでいると、ふと、こちらに向けられた銃に気付いた。


 「ああ!?」


 助手席に乗っている男が、身体を反転させて後ろを向き、こちらに銃を向けているらしいが、そんなこと気にしていられない。


 構わずまた銃弾を撃ち込むが、器用に車が動く為当たらなかった。


 ダンッ!と銃声が聞こえると、フロントガラスが割られてしまい、さらには、手に持っていた銃が弾かれてしまった。


 そして続けて左前のタイヤが撃たれてしまい、そのままドン。


 「いてて・・・」


 「まーたこんな阿呆なことやって、若気の至りか?いや、そこまで若くはねえよな?垣多周歩くん?」


 「またてめぇらかよ!なんだってんだ!」


 相裏が垣多と話している間に、崎守は垣多が乗っていた車のトランクを開けてみるが、そこには以前のようなジュースはなかった。


 相裏の方を見て首を横に動かすと、崎守も垣多の方へと近づく。


 「さっさと連れて行けよ!どうせまたすぐに出て来られるしな!」


 「・・・なあ、この前お前が運んでたあのジュース、何だ?」


 「ああ?ジュースはジュースだろ。俺は何も知らねえよ。なあ!さっさと連れて行けって!」


 「偉そうに言うなよ?お前がこの前壊した警察車両の修理代も踏み倒してるだろ。ほら、これ見ろ」


 そう言われ、垣多は顔をあげてコレと言われたものを見ると、それは相裏が身につけているネクタイだった。


 あまり趣味が良いものとは言えなかったが、そこにシミまでついてしまっているものだから、同情で笑ってしまう。


 「ただでさえ悪趣味なネクタイが、余計に哀れになったな」


 「そういうんじゃねえよ。しかも悪趣味じゃねえ。じゃなくて、このシミ、なーんか普通のジュースとは違う匂いが混じってた。結構な高濃度だ。一体何が入ってたんだ?」


 「さあ?俺は知らないぜ?」


 「・・・瑞希」


 「そういうの俺に回ってくるんだよね。なんでかな」


 頭を垂れながら垣多に近づいた崎守は、垣多の口の中に銃を突っ込んだ。


 いきなりのことに、しかも警察とは思えない行動のそれに、垣多は思わず目を丸くして相裏を見上げる。


 「俺の銃が汚れて行く・・・」


 「多少の犠牲はつきものだ。諦めるんだな、瑞希」


 「ならお前の使えばいいのに」


 項垂れながらも突っ込まれたままの銃は、垣多の涎が垂れて行く。


 ソレを見て、崎守はさらに項垂れた。


 「話さねえなら自由だが、正直、お前とのカーチェイスも疲れてきちまったもんで。このままおさらばした方が、お互いに良いんじゃねえかと思ってよ」


 「んんんんんんん!!!!!」


 「あ?何だって?このまま殺してほしいって?しょうがねぇな。いつもなら苦しめながら殺すんだが、今日は特別だ。介錯までしてやるから安心しな」


 「んんんんんんーーーーーーーーーー!!」


 「え?違う?洗いざらい話すって?」


 垣多は、これでもかというくらいに首を上下に動かした。


 銃が口から抜かれて安心したのは垣多だけではない、その銃の持ち主でもある崎守もなのだが、すでにでろんでろんになっている銃を見て愕然としていた。


 ようやく話す覚悟を決めた垣多の目の前で仁王立ちをしている相裏をじーっと見ている崎守は、背後からそっと相裏に近づくと、垣多の涎で汚れてしまった銃を、相裏のシャツの裾で拭きだした。


 「で?あのジュースは何なんだ?」


 「あ、あれは・・・新しい麻薬だよ」


 「麻薬う!?お前、売人だったのか!」


 「金になるんだよ!!馬鹿な連中はいつの時代にもいるもんで、幾らでも買ってくれるんだよ!お得意様だこの野郎!」


 「逆ギレするとこか?じゃあ、薬を飲み物に溶かして運んでたってことか?」


 「いや・・・そうじゃない」


 「ん?」


 ある程度綺麗に拭けたのか、崎守はホッとしていたのだが、若干まだ臭う為、相裏の銃を自分の銃と取り変えた。


 途中、さすがにそれはバレてしまったのだが、相裏は弾を抜くと垣多が持っていた銃を自分のホルダーに差し込んだ。


 汚れた上に弾がなくなった銃は、垣多の足元に転がっている。


 「あの飲みモン自体が、新しい麻薬なんだよ。液状なんだ」


 「成分はどうなってんだ?」


 「知るかよ。ただ、吸引にしろ注射にしろ痕が残っちまう。そうならないように、それと、ジュースだと思って色んな奴が口にしてどんどん欲しがればこっちのもんだろ?商売だよ、商売」


 「・・・出所は?」


 「それも言うのか!?大事な取引先だぜ?」


 「言うよな?」


 「言います」


 にこりと微笑みながら銃を向ければ、垣多は一瞬意識が飛びそうになる。


 相裏の行動を見ていた崎守は、それは脅迫だとボソッと言ったのだが、相裏は笑顔で返すだけだった。


 垣多の拘束を解くと、今日は情報をくれたから見逃してやると伝える。


 とはいえ、車は動かなくなってしまっているため、徒歩での帰宅となるだろう。


 「いいの?勝手に泳がせて」


 「泳がせたってのが分かってるなら、問題ないだろ?それに、興味あるじゃねぇか」


 『マジでやべぇ奴だからな。お前らだって、どうなるか分からねえんだからな!俺から聞いたって言うなよ!絶対だぞ!殺されるのは御免だからな!!』


 『いいから早く言えって。どうせ言われても知らねえ奴だと思うがな』


 『・・・・・・。はあ。まあ、お前らに捕まったのが最後だよな』


 『そうそう、最後なんだよ。俺が許すのは女の子だけだから』


 『俺が雇われてんのは、才頭会だ』


 『才頭?なんだそれ、瑞希、知ってるか?』


 『・・・才頭会、要するに昔のヤクザ。極道者』


 『これ以上は言えねえ!!頼む!俺だって命は惜しいんだからよ!!!』


 追究するのはそこまでにしたが、何も諦めたわけではない。


 きっと垣多はまたすぐに動き出すと分かっていたため、才頭会とやらの居場所と、その会長の存在を把握するために逃がしたのだ。


 垣多も警戒しているのではないかと、車を頻繁に変えたり、変装をしたり、張り込みなどを繰り返していたが、垣多はそこまで考えるタイプではなかったらしく、変装無しで行けると分かった。


 しかし、車での移動は時に厄介なため、歩きでの移動が多くなった。


 「ここだな」


 「相裏、今更だけど、応援呼ばなくて良いのかな」


 「この世の中、何処に敵が潜んでるか分かったもんじゃねえからな。単独で動くから分かることもあるってもんだろ」


 「まあ、そうかもしれないけど」


 才頭会の居場所を突き止めると、どのくらいの規模なのかを調べた。


 すると、そういった世界はやはり徐々に規模が小さくなっているらしく、才頭会も時代の流れには逆らえず、全盛期には50人以上いたというのに、今や10人にも満たないらしい。


 それでも亡くなった組長が残してくれた土地と名前だと、必死に守っているとか。


 そのための資金が足りないため、麻薬になど手を出しているのかもしれない。


 まあ、実際のところ理由などどうでもよくて、やったかやっていないかだけのことだ。


 「さてと、どうやったら会ってくれると思う?」


 「小指を渡す」


 「怖ぇよ。もっと可愛らしいので行こうぜ」


 「はあ?」


 それから1時間ほどしたとき、才頭会の門を叩く男がいた。


 「すいまっせーん」


 「なんじゃ貴様等」


 中からはごつい体格の男が出て来たが、相裏はにへらと笑いながらこう言った。


 「こいつ車に酔ってしまったらしくて、吐きたいんですって。お手洗い、貸して下さいな」





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