勇者?魔王?いやただの村人です。転生したからにはとことん楽しむ。ヒロインは全員俺のモノだ!

ベルピー

オープニング

第1話 ナインデスティニー

「さて今日もナインデスティニーするか。後2人勇者からヒロイン奪ったら9人コンプリートだしな。」


俺の名前は、柊木俊。どこにでもいる30歳の、これまたどこにでもいるサラリーマンだ。毎日朝は7時に起きて、満員電車に揺られ、20時まで残業代何それ。の状態を毎日続ける本当にどこにでもいる日本人だ。月曜日から金曜日みっちり働いても給料は月給20万前後。世間が初任給が上がるだの何だの言っていても俺には全く関係ない。残業代、何それ?


もちろん結婚はしていない。年齢=彼女無しって訳じゃないが、長い事、彼女もいない。家賃が高いので都会から離れた1DKのボロアパートで一人でもう10年は住んでいる。一人の方が気が楽だった。うるさく言う親とは距離が離れているし、兄妹はみんな結婚している。俺だけがそんな家族の団欒から一人逃れている。


そんな俺の唯一の趣味がナインデスティニーだ。それは所謂エロゲだ。いやエロゲと言えばイメージが悪いかもしれないが、ナインデスティニーはそんじょそこらのエロゲとは違う。


ロールプレイングゲームのように、キャラクターにレベルがあり、よくある有名RPGのようにけっこう楽しめる。勇者を選んでひたすら純愛ルートを選んで行けばそういう場面も出てこないし普通に悪を倒す英雄モノのゲームになる。


逆に、魔王を選んでひたすらバットエンドを突き進めばけっこうハードなエロゲを楽しめる。シーン再生やCGも100を越えてあるので、何日でも楽しめる。要はプレイヤー次第でいかようにもできるゲームという事だ。


そんなゲームを何度も何度もプレイしてはクリアしているのが、この俺、楠木俊だ。えっ?何度も同じゲームをプレイして楽しいのか?って。


もちろん楽しいね。あるだろ?一度クリアした事のあるゲームを時間が経って又やりたくなるあの感覚が。このゲームは他のゲームと違って飽きないんだよ。やり込み要素が多いんだよ。他の2、3時間でクリアできるようなエロゲと違うんだよ。


今日も俺はもう何度目になるかわからないが、ナインデスティニーをプレイし、無事に魔王パートのエンディングを迎えた。


「は~。終わってしまった・・・。もうちょっとレベル上げたり、ヒロインと仲を深めたりしたらよかったかな。クリアしたのはうれしいけど、終わってしまった事を考えると空しくなる・・・。」


俺はしばらく画面に映ったfinという画面を見つめていた。特に趣味もなく仕事もだらだらと毎日通っているだけの俺にとって、ナインデスティニーが終わったという事実はしばらく何もすることが起きない事態だった。


「寝るか。」


今日は仕事が休みの休日だ。と言っても休みの日は昼まで寝てる事が普通なので、俺はまだ日が暗くなってもいないのに布団に入って、ボーっと時間を過ごした。


新しいゲームを購入しても良いが最近のゲームは回想部屋一括開放がいきなりできるようになっていたり、レベル上げもモンスターと戦うまでもなく、触れるだけで倒せるようになっているモノが多い。


「どれもこれも長時間楽しめないんだよな~。」


新しいゲームはこの一言に尽きる。先に回想を全開放すると、やる気が失せる。更にレベル上げと言っても初回からチート装備が隠されていたりするのでレベル上げの必要がないゲームも多い。


それなら回想全開放もチート武器も使わなければいいじゃん。と思うかもしれないがあれば気になってしまうのだ。しょうがないだろ。レベル1からスライムやゴブリンを何十体も倒して進んでいくのもいいが、いきなりレベル1でスライムに対して99万ダメージとかもやはり憧れるものだ。


我慢が足りない!!そう言われれば終わってしまうが、俺は別にエリートでも何でもない。どこにでもいる日本人で、どこにでもいる彼女のいないサラリーマンだ。何と言われても仕方ないだろう。


今までに購入したゲームは数多いが、定期的に最初からプレイするのは、ナインデスティニーだけだ。


「やる事もないし、今度も勇者パートでまたナインデスティニー始めるか。これだけだよな~。やり始めてから1カ月も時間を使えるもんな。」


俺は寝れない身体を起こして、電源を切ったパソコンを入れてナインデスティニーのセーブデータを消去して、アプリ開始のアイコンをクリックした。


すると・・・


『あなたはナインデスティニーで累計500回のエンディングを迎えました。特別なストーリーをプレイする事が出来ます。やりますか?』


はい   いいえ


パソコンの画面には『はい』と『いいえ』の画面が現れたままだ。


「なんだこれ?500回!?もうそんなにプレイしたのか・・・それよりも特別なストーリー?ファンとしては外せないだろ。でもこんなん攻略サイトにも乗ってなかったぞ。どういう事だ?」


俺は画面を怪しみながらも、もはや『はい』しか選択する気がなかった。なので、一度深呼吸してからマウスで『はい』をクリックした。


すると・・・


俺は気を失った。


『地球で一番ナインデスティニーをプレイした楠木さん。これはあなたへのご褒美ですよ。あなたがどんな選択をするのか楽しみです。一度しかプレイはできませんが、十分に楽しんでくださいね。』


気を失った俺にはその声は全く聞こえなかった・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る