0ーB、急な土曜授業

うぅ、寒っ。

もう三月も半ばだというのに、なんなんだよこの寒さは…

そう思いながら、僕は手を擦り合わせる。


「おはよーございます!星野先輩!」

そう声をかけてくるのは、

僕の一つ下、四年生の酒井くん。本名は酒井タクミ。

「あ、おはよう酒井くん」

「はい、おはようございます!

 しっかしひどいですよねぇ!

 わざわざこんな寒い日を土曜授業にしなくたっていいのに!」

「しかも前日に言ってくるもんだからね、

 『あ!忘れてた!』なんて言って」

「ほんとほんと!

 しかも高学年だけとかもうほんと何なんですか、

 僕だって去年までは低学年だったのに…」


「おはよう、酒井くん、それにユータ。

 あれ?ユータがこんな時間に来るなんて珍しいね」

「ぼ、僕だってたまには早く来るんです!」

「そっか。偉いね。」

彼女は西沢さん。フルネームは西沢サクヤ。僕の一つ上。

何というか、学級会とかでも司会をやってたり、そうでなくても

積極的に意見を言うような、そういう感じの言わば「優等生」。



◆ ◆ ◆



「姿勢を正してください。おはようございます。」

「「「おはようございます!」」」

「着席。

 出席を取りま…と言っても全員きてるか。

 先生のお話です」

「はい、大橋(フルネームは大橋マイという)さんありがとう。

 今日はこんな寒いのにみんな、急だったけどきてくれてありがとう!」

 じゃぁ、今日の予定を確認します。」



1 学活

2 

3 総合

  下校


「え、先生本気で言ってますか?」

「神じゃん!」

そう言ってはしゃぐのは、渥美ソウタ先輩と田中タイガ。

それぞれ、六年、四年だ。

「いや、先生のことだから何か裏がある」

「いやそれな、なんなんだろ…」

そうして疑うのは同学年の室田コータローと、一つ上の西原コトネさん。

「はいはい、静かに!

 一時間目には今日の総合の流れを確認して、早ければ一時間目後半か 

 ら、遅くとも二時間目からは総合の活動を始めます。

 給食はなし、今日は四時間終わったら下校です。 

 何か質問はありますか?」


「はい、先生」

「なんでしょう?

 小泉(下の名前はホノカ)さん?」

「なんかそのでっかい段ボール箱の中身は…」

あ、それ。

さっきから気になってたのよ。


「中身はなんかバーチャルゴーグルが入ってたんですけど、

 それもたくさん…」

なんで確認済みなんだよ!

「何に使うんですか?」

「鋭いですね、ホノカさん。

 詳細は一時間目で説明しようと思ってたのですが…」


「ちょっと座って、待っててね…っしょと!」

そうして、段ボールを黒板の前に置き、

「班長ー!ちょっと手伝ってー!」

各班の班長を呼び、班長一人一人に四、五個のバーチャルゴーグルを

持たせ、

「ちょっとつけてみて?ベルトは自然に閉まるはずよ」



◆ ◆ ◆



「うお、何これ!」

「すごーい!」

黒いタイルが天井、床に無数に広がる場所に、

ゴーグルをつけたやつから自然と姿が煙と共に見えるようになる。


「こ、これってまさか…

 あの某有名ゲーム会社の、最新型のVRゲームゴーグルじゃ…!」

「ビンゴよ、酒井くん。

 そう、みんなには今日これをつけて、

 人狼ゲームに挑戦してみてほしいの。」

「めっちゃ面白いじゃん!

 

 …すきあり!

 はい、タッチー!今度は渥美が鬼ね!」

「は!?聞いてねえし!」

そうやって、VR空間でも鬼ごっこを始める渥美さんと

安藤ユズちゃん。

仲良しで何より。

「でも、マジで面白そう!」

「うん!ほら、ハノンの得意な狂人プレイが活きてくるんじゃない!?」

「いいねぇ!」

話しているのは 宮前スズ&横田ハノン ペア。

スズは四年だけど、一つ上のハノンと馬が合うようで、

しょっちゅう話している。

ちなみに、人狼ゲームはちょっとしたうちのクラスのブームで、

特にハノン&スズが積極的にカードを持ってきてみんなで遊んでいる。

僕はあんまり乗り気じゃないんだけど。


(なので、みんな基本的な人狼のルールを知っている前提で進みます。

 読者の方の中でわからない方は、適当に攻略サイトなどで

 学んできてください。よろ。〈急激なメタ〉)


「さて、みんなVRにも慣れてきたかしら?

(どうやら先生はVR空間をいじれる役になっているらしい)

 じゃぁ、せっかくだし人狼ゲームを起動するわね!」

ルルルルル…という音とともに、視界が真っ白になる。






…今日はとても長い一日になりそうだ。

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