私の恋人は今日も教壇にいます ~こいしらシーズン2~
星月小夜歌
1.新学期は波乱の幕開け?
短い春休みはあっという間に過ぎ去って、私はいよいよ高校3年生となった。
この光北高校で過ごせるのもあと一年。
だけれども、(今まで目を背けてきた)大学受験対策で忙しくなるだろうということを思うと、この一年もあっと言う間に過ぎ去っていくんだろう。
高校を卒業すれば、櫻子が恋人だと胸を張って言える。櫻子とお付き合いしてることを隠さなくてよくなる。
今のままでも私は十分幸せだけれど、それは櫻子が危ない橋を渡ってくれてるから。
この前も、先生が教え子にセクハラして逮捕されたとかってニュースが報道されていて、私はすごく不安になった。
ニュースでは男の先生が中学生女子生徒にキスしたとかって言われてたけれど、実際にどうだったのか、2人が合意だったのかは報道では明言されていなかったから真実はわからない。
でも、客観的事実だけを見れば、私と櫻子も同じだ。
ニュースで言われている話がセクハラだったとすれば、こんなのと一緒にされて腹立たしいことこの上ない。
しかしセクハラではなく合意、つまり本人たちがしたくてしたキスだったとしても、客観的に見ればセクハラに映ってしまうのだろう。
もしも、私と櫻子もこのニュースの人たちのようになってしまったら。
私は警察に「保護」されて、櫻子は警察に「逮捕」されてしまう。
私は世間から「被害者」として憐れまれ、櫻子は「加害者」として石を投げられる。
そんなの、絶対に、嫌だ。
でも、今の櫻子はそんな危険と背中合わせ。
そんな危険を背負ってまで、櫻子は私を選んでくれた。
その櫻子に応えるためにも、櫻子とずっと一緒にいるためにも、私はまず高校を卒業するんだ。
すっかり葉桜、もしかしたら葉のほうが優勢になってるかもしれない桜たちを横目に登校した私たちは、始業式が終わって赤染先生から3年生でのクラス分けを伝えられ、新しい教室へと別れていく。
私は3年2組、千利は1組。うお、千利とクラス離れたか。美登は同じクラス、あやめは3組。結構ばらけたな。
お、ってことは美登は3年間同じクラスか!
そして私たち新3年2組の担任は……赤染先生! 続投ですか!
「はいはい、何人かは去年の2年3組の子もいるわねえ。またオバサンと思う子もそうじゃない子も、よろしくお願いしますねえ。あはは、あはは、あははははは!」
頬がブルンブルン揺れるような豪快な大笑い。こういうおばさんは素敵だと思うし、なってもいいと思う。
クラスをよく見渡して、私は一番同じクラスになりたくなかったとある人物も同じ教室にいることに気が付いてしまった。
まじか。よりによって今年にかよ。
彼女自身が嫌いというわけではないのだが、迷惑で関わりたくないのは事実。
なんせ……吹奏楽部で好きな男子はいないのかとしつっこく聞いてくるわ、日々喜ちゃんと坂本君にまで迷惑かけてるわの、あのコイバナダイスキ連中の一人! 名前は
絶対私のことターゲットにしてくるよ!
元々学校内ではバレないように櫻子とも普通に接するしかないわけだけど、さらに慎重に立ち回らないとアイツのせいでバレかねない!
お昼になったら、ほら、来た!
「琴葉ー。早速だけど好きな子は」
「いないしうるさいよミタ!」
ミタ、とは吹奏楽部内でついている木々見のあだ名である。決してとある家政婦とは関係ない、と思う。ちなみに担当楽器はアルトサックスである。
今のあんたになら絶対いると思うんだけどなー、と後ろから聞こえる気がするけど、脱兎のごとく図書室へ駆け込む。とりあえず今日はミタを撒けたか。
カウンターには、愛しい櫻子が座っている。仕事をしているのか下を向いている。今後のこともあるし、部活があるからお昼ご飯も食べなきゃだから長い時間はいられないけれど。
他に人はいない。よし。
「櫻子。」
「ん……琴葉。」
「ちょっとぼーっとしてましたね?」
「あったかいですもの、春眠暁を覚えず、よ。」
「起こさなければ、うとうとした櫻子の寝顔を見られたかなあ。」
「もう。恥ずかしいからやめてちょうだいな。」
照れた櫻子が可愛いけれど、今はちょっとそういう場合じゃない。
「櫻子、ちょっと厄介な1年になりそうです。」
「厄介? どういうこと?」
「同じ3年2組になった木々見って子のことなんですけどね……1年生の時から吹奏楽部で一緒なんですけど、他人のコイバナが大好きで……私もターゲットにされてて、危ないんですよ……。特に、私は言えるわけないから秘密にするしかなくて、そうなると余計に狙われて。」
「そんな子がいるの……。これは、少しでもそういうボロを出さないように、2人で気を付けないと、ね。何度も言ったことかもしれないけれど、改めて。学校の中では、私と琴葉はただの先生と生徒。恋人同士だって、感づかれてはいけない。」
「ええ。その通りです。」
重苦しく返事をする私に櫻子は少しだけ微笑んで、授業では絶対聞けないような、甘くて溶けるような声で続けてくれる。
「だから、私の家では、思う存分、一緒に過ごしましょうね。ここでいちゃいちゃするのは、控えましょう。前に比べて、図書室の利用人数も少しずつ増えてきてるから。くっつくのは人目を忍んで、ね。」
「櫻子、その内容でその声色は合ってないですよ……。」
「重たい話だからといって重い声色だと余計に辛くなっちゃうでしょ?」
「それはまあ、はい。」
「教室ではそっけないかもしれないけれど、それが先生としての私の立ち回り方だから。貴女を嫌いになって冷たくするのでは無いわ。琴葉を信じてるけれど、一応、念押しね。琴葉も、言うの辛いけれど、学校であんまり私に甘えすぎないで。」
「寂しいですけど、仕方ないですよね。……早く帰れそうな日は、連絡してください。櫻子の家、行きますから。」
「寂しがり屋さんね……ほんとに可愛い。私も貴女に触れていたいもの。今だって、抱きしめたいくらい。」
「私もです。」
「うちに来るときは、制服はやめてね。せめて上から何か着てきて。念のため。」
「見られたらまずいですものね。」
「誤解されたら、私は先生やれなくなっちゃうどころか最悪逮捕だから。」
「そのニュースは私も見ました。櫻子がそんな風に思われるなんて、私は絶対に嫌です!」
「いくら私たちはお付き合いしてるといっても、琴葉も私も一緒にいて幸せだとしても、客観的には証明なんて出来ない。だから、貴女が卒業するまでは、私達は身を潜めて。」
「私は櫻子を守りたい。櫻子が大好きだから。」
「ふふ、ありがとう。先生として教え子を守るのは当たり前だけれど、琴葉は恋人としても守りたいから。時には、一緒にいられないときもあるかもしれないけれど、お互いを守るためよ。」
「離れても、ずっと櫻子のこと想ってますから。くっついていいときには、思う存分、甘えさせてくださいね。」
「琴葉だってずいぶん甘い声よ……。他の子や先生にそんな声聞かせないで。私だけに……聞かせて?」
「そんなに甘い声……でしたか?」
「自覚無いのね……まあいいわ。ふふ。琴葉は私だけの恋人、だから。」
「櫻子も私だけの恋人、ですよ……。誰にも渡しません、から。こんなに可愛い櫻子を、知ってるのは私だけ……。」
声が外に漏れないように、と思っていたら、どんどん囁き声みたいな甘い声になっていって。
身体を寄せ合えない分、声になって出てきてたのかな。
2人の甘くて溶けそうな声は、2人だけのもの。
結局その後、部室でお昼ご飯を早食いする羽目になったけれど、櫻子のためだからそれもまた幸せだった。
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