第2話 いつもの憎まれ口──ブライアンside

 食堂で昼食をとっている俺を見つけるた妹のベリンダが血相を変えて隣の席に滑り込んできた。


「なんだよ。そんなに慌ててベリンダらしくない。落ち着けよ。お転婆のじゃじゃ馬はミンディだけで充分だ」

「ブライアンお兄様。そんな呑気な事を言っている場合ではないのよ」


 揶揄う俺に頬を膨らませる。そんな姿も可愛らしい可憐なベリンダは俺の自慢の妹だ。

 腰まで伸びた緩やかにウェーブがかった蜂蜜色の髪の毛は艶やかで目を引く。

 周りに座っていた学友達も、挨拶もなく慌てて俺に話しかけるベリンダに疎ましい目を向ける者なんていない。寧ろ眩しいものを見るように目を細めほのかに顔を赤らめている。


「落ち着いて聞いてね」

「だから、ベリンダが落ち着けって」

「もう! 落ち着いてなんていられないのよ!」


 俺には落ち着けなんていいながらベ自分は落ち着いていられないなんて言い出した事に苦笑いする。


「ほら、聞いてやるから」


 ベリンダを見つめると俺をじっと見つめかえす。いつにも増して真剣だ。


「ミンディも王太子殿下のお茶会に招待されているわ」

「…………!」


 声を顰めてつげられた内容に俺は衝撃を受ける。


 王太子殿下の婚約者選びが難航している噂は知っていた。

 今まで婚約者の最有力候補と目されていた公爵令嬢が自領を治める為に婿を取ることが決まり辞退された。と言うのが『表向き』の理由だ。


 他にも候補者は何名かいた様だが、公爵令嬢と婚約秒読みだとの噂もあり辞退して他の相手と婚約していたりで、候補者は誰もいなくなっていた。

 そのため、王国内でまだ特定の相手がいない有力貴族の娘達を慌ててかき集めて、王太子殿下にお目通しをするための茶会が定期的に開かれている。


 街道沿いにあり王都に近い宿場町を有し商取引で発展する領地を治める我が伯爵家のベリンダにも声がかかった。


 そして……ミンディにも声がかかった。


 考えてみれば当然だ。

 ハーミング伯爵家の抱える領地は国内のガラス製造を一手に引き受け栄えている。

 我が家のベリンダに声がかかるのであればハーミング伯爵家のミンディにだって声がかかるに決まっている。


 ミンディは幼い頃から活発な性格に合わせたように、焦茶色の髪の毛を頭の高い位置で結び馬の尻尾みたいに軽やかに揺らしていたため、俺は顔を合わせるたびに『じゃじゃ馬』と揶揄っていた。なのにじゃじゃ馬だったミンディは、社交界にデビューする頃にはその明るさで周りのみんなを笑顔にする社交界の人気者になっていた。

 女達はミンディと喋りたがり、男達はミンディとダンスを踊りたがった。


 いつまでも子供の頃を引きずって揶揄うしかできない俺は、せめてミンディに上っ面だけの甘い言葉を囁く奴らになんか奪われない様にと舞踏会の度に邪魔をして来たけれど、ご令嬢ばかりを集めた王太子殿下の茶会じゃ手出しができない……


 逡巡している俺をベリンダはじっと見つめ続けていた。


「ミンディに想いを伝えなくていいの?」


 周りに聞こえない様に耳打ちされて、昼休みは中庭で過ごす事が多いミンディを探しに俺は席を立った。




 それなのに、俺ときたら。


 ようやく中庭でミンディを見つけた俺の口をついて出たのは、いつもの憎まれ口だった。

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