灰色の桜

Lilac

色褪せる世界

 「褪色病たいしょくびょう」。


 それは、私の親友「瞳花とうか」の世界から色を奪った色覚異常の1種だ。後天的に発現したその病は、私たちの知らぬ間に進行を続けていた。気づいた時にはもう遅く、治療しても現状維持のまま、回復には至らないとのことだ。


 盗み聞きした話によれば、いわゆる大脳疾患。前頭葉の下部で脳梗塞を引き起こしたことによる色覚異常、及び意識障害。そして数日経ち、手足の麻痺等の症状が見られた。瞳花の場合は非常に緩やかに症状が進行していき、徐々に彼女の世界から色を奪っていき、やがてモノクロの世界に。果てには視界が失われると言われている。


 私は、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。物憂げに外に咲く桜を見つめる瞳花の横顔はすべてを諦めてしまっているように見える。事実そうなのだろうと思う。ただ、突如目が見えなくなる訳ではない。少しづつ、少しづつ絶望を感じさせられる。きっと、今も瞳花は色を失う恐怖で震えている。


 そんな瞳花に、私がしてあげられること。真っ白な病院のシーツを感情ごと押し潰して握りしめている、瞳花が何を望んでいるのか、私にはわからない。辛いに決まってる、怖くて仕方ないって思う。なのに、瞳花は笑ってしまう。「大丈夫だよ」って、心配させないように振舞ってしまう。精一杯、彼女は手作りの笑顔を見せる。


 それでも、一つだけ見つけた、私が瞳花に。してあげられることなんて見つからないけど、私は瞳花にこの想いを届ける。

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