第86話 魔人戦③

 縦横無尽に走り回り、透吾目掛けて岩の塊を飛ばす。


「無駄無駄♪こうするんだよ。」


 明美が放った岩の塊より1回り大きな岩を放ってくる。

 一つ一つの大きさが人間大であり、当たれば押し潰されてしまいそうだ。


 クソ!自分の無力さをここまで感じさせられるなんて…


 目の前で完全上位互換のスキルを使われる。

 なにをしても、より一層大きな力でそっくりそのまま跳ね返してくるところがタチが悪い。

 茉央ちゃんのスキルを当てる隙さえ作れれば…


 一撃離脱方式で攻撃を放ってはその場を離れ、敵との距離を一定間保ち続ける。


「はぁ、そろそろ飽きてきちゃった♪

 君、もう殺しちゃうね。バイバイ♪」


 来た!攻撃に転じるこのタイミング!


超重力空間グラビティエリア!!」


 デザートイーグルに使った時と逆の使い方。

 重力を倍増させるのではなく、無重力空間へと変える事で透吾の体を宙へ浮かせる。


 地面から離れた。今だ!!


 大地操作系スキルの発動条件である地面に体が触れている事。透吾の体は地面から離れている。チャンスは今しかない。


「炎帝!」


 最大火力である【炎帝】で透吾の体を焼き尽くす。


「はぁはぁ…やったの?」


「わかりません。でも、あの男の体は地面から離れていました。確実にダメージは負っている筈です。」


 炎が燃え上がる。

 透吾が出て来る気配もないが油断は出来ない。敵の実力は未知数。どんなスキルを持っているかもわからないのだから…


「中々やるね。こんなスキルを持ってるなんて思わなかったよ。作戦はいい線をいってた。だけど僕には届かない。だって僕は…人間を凌駕した存在なのだから。」


 炎から出て来た透吾の前には土の壁が形成されていた。


「どうして?体は宙に浮いていた筈…」


 そうだね。確かに僕は宙に浮いてたよ。だけどね。僕たち魔人は魔獣と人が合わさった存在。僕はデモンワームと一体化した魔人なんだ。この尻尾も僕の体の一部さ。」


 透吾の下半身はナーガのようにデモンワームの体と融合している。

 明美の超重力空間グラビティエリアでは、下半身を完全に浮かす事ができておらず、尻尾の先端はまだ地面に着いていたのだ。


「そんな…」


「まあ、そうでなくてもあの程度の攻撃を防ぐ術は持ってるけどね。

 さあ、お楽しみの時間だ♪お友達も気に入ったから可愛がってあげるよ。元気な魔獣の子を沢山産むんだよ♪」


 なにも通用しない。

 炎鳥ファイアバードも幾ら直撃しようとびくともしない。明美は魔力の使い過ぎで倒れている。

 もう…だめだ…


 茉央と明美の体が少しずつ地に沈んで行く。

 このまま何処かにある本拠地へ連れて行くつもりだろう。


「…草介さん…助けて…」



 次の瞬間、茉央達が居た洞窟の天井が壊れ、見覚えのある人影が舞い降りて来た。


「よかった。ギリギリ間に合ったみたいだ。」


「草介さん!」


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