第63話 腹が減っては戦はできぬ
さっきのは何だったんだ?
美月ちゃんが俺に……どうして?
彼女と出会った時の事を思い出す。
6年前、高校を卒業したばかりの俺は一攫千金を夢見て探索者になり、沖縄へと移住した。
だけどそう簡単に金持ちになれる訳もなく、現実は無情でお宝なんて見つからず、貯金は直ぐに底をついた。
1日1食しか食べられない生活が続いて、仕事すら碌に出来ない状態だった。空腹で倒れてしまいそうで…料理の匂いに誘われたのか、俺は自分でも気付かない内に飲食店の前まで来ていた。
バッカスの遣い…酒場か。偶にはこういう店でたらふくご飯食べたいなぁ。まあ、当分は無理か。今の俺は家賃の支払いすら滞納してる。そんな人間が外食なんてできる訳がない。
店から離れようとしたその時、一人の少女に声をかけられた。
「あの〜、もしかしてお客さんですか?ちょっと待ってて下さい!」
黒色のショートヘアの幼い女の子。年齢は小学生高学年か中学生くらいで無邪気な笑顔が印象的だった。
「あの、俺客じゃ……ない…」
少女は俺の話しを碌に聞かず、店の中へ入って行った。
とりあえず待つしかないか。大人の人が来たら俺の話を聞いてくれるだろう。
暫くして少女が戻ってくると、その隣には大柄の男性が立っていた。
「……中に入れ。」
有無を言わせぬその態度に俺は男性の後を着いて行ってしまった。お金もないのに…
「そこに座ってろ。」
客席を指差し、それだけ告げると店主は店の奥へと消えていった。少女だけがその場に残り隣の席に座っては矢継ぎ早に質問をしてくる。
「お兄さんってどんな仕事をしてる人なんですか?この辺りの人は結構知ってるけどお兄さんは初めて見ました。最近引っ越して来たんですか?」
「えっとね、仕事は探索者でこの街へは今年の4月に来たばかりなんだ。」
「そうなんですね。じゃあ此処に来る前はどこに居たんですか?そこってどんな所でしたか?っていうか自己紹介がまだでしたね。私、榎本美月です。今年中学1年生になりました。お兄さんはなんて名前ですか?」
「え〜っと……」
あまりの勢いに押されていると母親らしき人物がやって来て、少女を止めた。
「こら、美月。そんなに質問しないの。ごめんなさいねぇ。この子、人と話すのが大好きで新しく来たお客さんにはいっつもこうなの。特にお兄さん若いから親近感抱いちゃってるみたいで。」
そう言い残し、母親と美月は奥へ去って行った。その直後、入れ替わるかのように両手に料理を抱えた主人が姿を見せた。
「食え。」
山盛りの料理を俺の前に並べる。
美味そうだ…だけど断らなければいけない。俺には金がないから。
「すみません。俺、金持ってなくて。作って頂く前に言い出せなくて申し訳ありませんでした。」
頭を下げ、謝罪する。
「そんなのは初めっからわかってたよ。いいから食え。お前、探索者だろ。食わなきゃ力出ねえぞ。」
「でも!お金もないのに頂く訳には…」
「誰がタダって言った。ツケだ。後で払ってくれればいい。探索者は安定しねえからな。稼げねえ時はとことん稼げねえ。家の娘が懐いちまったんだ。お前に死なれちゃあいつが悲しむ。」
死ぬなんて…大袈裟だとは思うがせっかくの好意を無下にする訳にもいかない。
「ありがとうございます。頂きます。」
久しぶりのまともな食事を俺は一心不乱に掻き込んだ。
それからはダンジョンに潜っては帰り道、美月ちゃんに見つかり店へ顔を出す日々が続いた。金が入っては返しに行ったが生活が安定するまではいいと断られ、受け取って貰えるまでに1年はかかった。全額返済する頃には俺はすっかり常連になり、美月ちゃんには勉強を教えたりして、本当の兄弟のように可愛がっていた。
あの美月ちゃんが俺にキスを……
今までそんな目で見た事がなかった…そうか…あの子ももう大人になったんだなぁ。
昔を思い返していると、俺が来ない事を不審に思った職員さんから救護室に呼ばれた。
「さて…行くか。」
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