第19話 悪評はすぐに広まる

 ダンジョンは奥に行けば行くほど強い魔獣が出現する。今回のターゲットであるファングウルフは最深部の一歩手前を生息地としていた。



 通常の狼より一回り大きな体に口を開いた際に見える鋭い牙。


 あれがファングウルフか…遠目から見た事はあるが実際に戦うのは初めてだな。今までのステータスでは敵わない相手だったが今ならやれる。


 草陰から姿を現すと3匹のファングウルフがこちらに気付く。一定の距離を保ちながらも3匹で俺を包囲し、タイミングを伺っている。


 魔獣にしては賢いな。知性もあるし、連携もしっかり取れている。だが———


「そこは射程範囲内だ。」


 スキル【範囲麻痺パラライズエリア】を発動する。

 ファングウルフは3匹とも麻痺し、身動きが取れなくなっていた。動けなくなったファングウルフを刀で刺し、息の根を止める。


 思ったよりも弱かったな。…いや、俺が強くなってるのか。体の底から力が溢れてくるようなこの感覚…久しぶりだ。


 探索者になったばかりの頃はレベルが上がる度に強くなった気がしてダンジョンに入り浸っていたのに…何年もレベルが上がらずスキルも現れない状況が続き、生活の為に仕方なくダンジョンに潜るようなって闘争心を忘れていた。


「よーし、残りもやるか!」


 強くなった実感が湧いてくる。ファングウルフ程度ではもう満足出来ない。早く…もっと強い相手と戦いたい。ボス戦だ…ボスを倒して階層を進んでいけばもっと強い相手と戦える。


 クエストを終わらせる為に残りのファングウルフを迅速に処理する。見つけた瞬間【範囲麻痺パラライズエリア】を発動し、動けなくなった相手に止めを刺す。生態的に3匹1組で行動するのでクエストは思ったよりも楽に終わらせることが出来た。


 サッサと報告してまたダンジョンに戻ろ。


 毛皮を全て剥ぎ取り、バック一杯に詰め込むとクエスト完了報告の為にギルドへと帰還する。





「お前…早すぎんだろ。」


 クエストを受けて3時間。ギルドに戻った俺は受付に座る隆二に大量の毛皮を差し出していた。


「遅いよりマシだろ。早く報酬くれ。今日中にもう一回ダンジョンに潜りたいから。」


【鑑定】を使い毛皮の質を確かめている隆二を急かす。


「ちょっと待てよ…え〜と…おお!結構いい質じゃねえか。余計な傷もついてねえし…お前、随分腕上げたんだなぁ。」


 隆二からクエストの報酬を受け取る。

 金額を確認すると中身は80,000円だった。基本報酬が55,000円、追加報酬が25,000円ってとこか…結構貰えたな。3時間でこれはかなりいい稼ぎだ。


「もう一回潜るっていってたけど何しにダンジョン行くんだ?」


「そろそろボス戦に挑もうと思ってな。装備も一新したしスキルも覚えたからタイミング的にもバッチリだろ。」


「まあ今のお前なら大丈夫そうだな。だけどボス戦はパーティで挑むのが基本だぜ。ボス部屋には雑魚魔獣も山程出てくる。ソロだと全員と戦わなきゃいけねえ、せめて雑魚魔獣だけでも引き受けてくれる仲間を見つけないと厳しいぞ。」


 今までも何度かボス戦に挑んだ事はあるがゴブリンの大群に囲まれて逃げ帰ってきた。


「だけどなぁ。俺なんかと組んでくれる奴いないし…」


 6年間1階層止まりである俺の顔は探索者に知れ渡っている。勿論、悪い意味でだ。弱い人間とわざわざ組んでくれる奴はいない。


「そうだなぁ。お前、嫌われてるもんな……って、ちょっとここに居ろよ。もしかしたらパーティ組めるかも。」


 隆二が受付を抜け出し、別の受付に並んでいた少女に話しかけ行く。


 なんだ?仕事中にナンパか?こんな事してるから昇進出来ないんだろうなぁ。


 受付の前でボーッとしながら少女と話している隆二の姿を眺めていると、二人揃って俺の元へと歩み寄ってくる。



 ん?あの娘は…どこかで見覚えが……


 見た事ある気がするが思い出せない。

 考え込んでいる内にいつの間にか二人は俺の目の前まで来ていた。


「あの……お久しぶりです。」


 この声は…思い出した!!金城茉央だ。


「この娘がお前とパーティ組んでいいってよ。これでボス戦に挑めるな。」


 この娘が俺のパーティメンバー?



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